62歳の誕生日、見知らぬ男性と一夜を過ごした。翌朝、枕元に残されていた封筒を開けた私は、その夜を深く後悔した
62歳の誕生日に、私はバーで知り合った見知らぬ男性と一晩を過ごしました。
翌朝、目を覚ますと彼はもういませんでした。
そして、枕元には一通の白い封筒が置かれていました。
その中身を見た瞬間、私は昨夜のことを後悔しました。
その日、私は62歳の誕生日を迎えました。
朝早く目を覚ました私は、すぐにスマートフォンを手に取りました。
子どもたちや親戚、昔の友人から、お祝いのメッセージが届いていると思っていたのです。
しかし、画面には何もありませんでした。
1時間が過ぎ、さらにもう1時間が過ぎました。
昼になっても、誰からも連絡はありません。
娘は自分の家庭のことで忙しく、息子は別の街に住んでいました。
夫を亡くしてからというもの、私は友人たちともほとんど会わなくなっていました。

私は一人きりのキッチンで、前日に自分で買った小さなケーキを眺めていました。
そのとき、ふと思ったのです。
「今日一日を、ずっと家で過ごす必要なんてないわ」
私はお気に入りの緑色のワンピースに着替え、髪を整えました。
何年もジュエリーボックスにしまったままだったイヤリングも取り出しました。
そして、一人で街へ出かけました。
その夜だけは、孤独な老後を過ごす女性ではなく、ただ一人の普通の女性として過ごしたかったのです。
街の中心部から少し離れた場所で、小さなバーを見つけました。
店内では静かな音楽が流れ、いくつかのテーブルでは楽しそうな人たちが会話をしていました。
私は隅の席に座り、赤ワインを一杯注文しました。
そこで、彼に気づきました。
40歳くらいに見える、きちんとした服装の男性でした。
彼は何度かこちらを見たあと、突然私の席へ歩いてきました。
「ご一緒してもいいですか?」
私は微笑みました。
「私みたいな年上の女性と話しても退屈しないならね」
彼は笑い、私の向かいに座りました。
彼の名前はダニエル。
写真関係の仕事をしていて、よく海外へ出かけるのだと話していました。
前日に長い旅から戻ってきたばかりだそうです。
私たちは約2時間、いろいろな話をしました。
彼は私の話をよく聞き、たくさん質問してくれました。
そして何度も、
「とても若々しく見えますね」
と言ってくれました。
もしかすると、私はそんな言葉をずっと聞きたかったのかもしれません。
しばらくして、私は彼に自分の誕生日だと打ち明けました。
するとダニエルは驚いた顔をして店員を呼び、キャンドルの立ったデザートを注文しました。
「誕生日を一人で終わらせるなんてもったいないですよ」
彼はそう言いました。
バーを出たあと、私たちはしばらく街を歩きました。
そして夜も遅くなったため、彼は私を宿泊先まで送ってくれると言いました。
その後の出来事は、誰にも話すつもりはありませんでした。
その夜だけ、私は年齢のことも、子どもたちのことも、周囲の目も忘れることにしたのです。
しかし、翌朝。
すべてが変わりました。
まぶしい朝の光で目を覚ました私は、反射的に隣を見ました。
ダニエルはいませんでした。

最初は、コーヒーでも買いに出たのだと思いました。
けれど、部屋には彼の荷物もありません。
そのとき、枕元に白い封筒が置かれていることに気づきました。
私はゆっくりと封筒を開きました。
中に入っていたものを見た瞬間、血の気が引きました。
それは、一枚の写真でした。
そこに写っていたのは、眠っている私。
しかも、その写真は私が知らない間に撮られたものだったのです。
手が震え始めました。
写真の裏には、こう書かれていました。
「素敵な夜をありがとう。後のことについては、許してほしい。すぐにすべて分かる」
私は何度もその文章を読み返しました。
そして急いでスマートフォンを手に取り、ダニエルに電話をかけました。
しかし、彼は電話に出ませんでした。
私はバッグを確認しました。
財布は残っていました。
現金もカードも無事でした。
そのため、私は少しだけ安心しました。
ところが、その直後。
バッグの内ポケットに入れていたものが一つ足りないことに気づきました。
小さな鍵です。
それは、自宅の金庫を開けるための鍵でした。
その金庫の存在を知っているのは、私の子どもたちだけでした。
中には、母から受け継いだ大切なアクセサリー、自宅に関する重要書類、そして長年かけて貯めてきたお金が保管してありました。
背筋が冷たくなりました。
「どうして……ダニエルがこの鍵を?」
私は急いでタクシーを呼び、自宅へ戻りました。
自宅の階に着くと、玄関のドアは閉まっていました。
鍵にも、外から見た限りでは何の異常もありません。
私はドアを開け、急いで寝室へ向かいました。
そして金庫を確認しました。
中は空っぽでした。
お金も、アクセサリーも、いくつかの重要書類も、すべてなくなっていたのです。
警察に連絡しようとした、そのときでした。

テーブルの上に、もう一枚の写真が置かれていることに気づきました。
今度の写真に写っていたのは、ダニエルでした。
しかし、その隣に立っていた人物を見た瞬間、私は言葉を失いました。
私がよく知っている人物だったからです。
私自身の息子でした。
写真の日付を見ると、撮影されたのは数週間前。
そして写真の裏には、住所と時間、さらに短い言葉が書かれていました。
「すべてを手配したのは、あなたの息子です」
私はその文字を見つめたまま、しばらく動くことができませんでした。
最も恐ろしかったのは、見知らぬ男性に利用されたことだけではありません。
あの夜、バーでダニエルと出会ったこと自体が、偶然ではなかった可能性がある。
その事実でした。
彼は私の席に近づく前から、私が誰なのか知っていたのです。
そして、それを意味することは一つ。
私のすぐそばにいる誰かが、あの出会いを最初から仕組んでいたのです。
