母親は11歳の息子を初めて一人で学校から帰らせた――わずか20分後、隣人から泣きながら電話がかかってきた。「ちょっと外に出てきて。あなたの息子が何をしたのか、自分の目で確かめて」

隣人が、捨てられた段ボールを拾った息子を恥ずかしめることが、彼女にできる最悪のことだと思っていた。

でも、彼女に問いただした瞬間、私は気づいた。この争いは、あの日の午後よりずっと前から始まっていたのだと。

私は33歳だった。ここ5年間、私の人生はたった2つのことを中心に回っていた。息子を育てること。そして、もう存在しない結婚生活の後始末をすること。

元夫のネイサンは、ある火曜日の朝、家を出ていった。

6歳だった息子のジョエルにキスをして、「夕食までには帰るよ」と約束し、そのまま姿を消した。

3日後、彼から電話がかかってきた。

「離婚することにしたんだ、サラ」

ネイサンが家を出たのは、火曜日の朝だった。

「何ですって? 今どこにいるの?」

「頭を冷やせる場所だよ。もう何年も不幸だったんだ」

「だったら家に帰ってきて。話し合いましょう」

「もう話すことなんてない」

「ジョエルはどうするの?」

「なんとかなるさ」

まるで、私たちの息子が誰か別の人の責任であるかのように。

ネイサンは、クレジットカードの借金と未払いのローンだけを私たちに残していった。

私は午前中、歯科医院で働き、夜は保険代理店の掃除をした。

ジョエルは、掛け算を覚えるよりも先に、サンドイッチの作り方を覚えた。

「ママ、どうして新しい靴を買わないの?」

「まだ履けるからよ」

「でも、穴が開いてるよ」

「これはね、通気口なのよ、かわいい子」

彼は笑った。でも、完全には納得していないようだった。

最初の頃、ジョエルは何度もネイサンのことを尋ねた。

「パパは僕の誕生日を覚えてると思う?」

「もちろんよ」

「じゃあ、どうして電話してこないの?」

「何かあって、忙しいのかもしれないわね」

ジョエルはうつむいた。

ネイサンのために言い訳をする自分が嫌だった。

でも、真実を話せば、ジョエルはもっと傷つくと思っていた。

やがて、息子は何も尋ねなくなった。

私は、それで少しは気持ちが楽になったのだと思い込んだ。

ネイサンが、私たちの結婚記念日に贈った高級腕時計を身につけている写真を、私はずっと大切に保管していた。

文字盤は青く、裏側には刻印があった。

「いつだって君の帰る場所。Sより」

その時計を買うために、私は半年間もお金を貯めた。

真実を話せば、ジョエルはもっと傷つくと思っていた。

ネイサンが家を出てから6か月後、アイビーが3軒先に引っ越してきた。

一人暮らしで、娘と孫娘は別の街に住んでいたため、新しい隣人のアイビーはとても親切な人に見えた。

ジョエルに手作りのクッキーをくれることもあったし、生活費が足りないときには、お金を貸してくれることさえあった。

けれど、彼女の親切には、いつもたくさんの質問がついてきた。

「ネイサンはジョエルの面倒を見てくれているの?」

「あまりね」

「まだ水泳教室には通わせていないの?」

「そんな余裕はないの」

「それで、あなたには新しい恋人はいないの?」

「眠る時間を確保するだけで精いっぱいよ」

私は、彼女はただ親切にしてくれているのだと思っていた。

でも、その親切には、いつもたくさんの質問がついてきた。

⸻

あの金曜日、私はついに、ジョエルが一人で学校から歩いて帰ることを許した。

「ママ、僕もう11歳だよ。たった10分の道のりじゃない!」

「寄り道せずにまっすぐ帰ること。それから、出発したらメッセージを送ってね」

「約束する!」

午後3時11分、私のスマートフォンが震えた。

ジョエル:
「今から帰るよ」

10分が過ぎた。

それから15分。

20分が過ぎたところで、私は窓の外をのぞいた。

ジョエルの姿はなかった。

私はスマートフォンを手に取った。

メッセージを送ろうとした、そのときだった。

アイビーから電話がかかってきた。

「サラ、ちょっと外に出てきて。あなたの息子が何をしたか、自分の目で見たほうがいいわ」

「ジョエルはどこ? けがをしたの?」

「ここにいるわ。とにかく来て!」

私は走って外に出た。

アイビーは道路脇に立ち、目元をぬぐっていた。

ジョエルは黄色いゴミ袋をしっかりと抱えていた。

「ママ、僕、何も盗んでないよ!」

「あなたの息子が私の物を持ち去ったのよ!」と、アイビーは彼に怒鳴った。

「大声を出さないで」と私は言った。

「ジョエル、何があったのか説明してくれる?」

ジョエルは黄色いゴミ袋を抱えたままだった。

「おばさんのゴミ箱の横に段ボールがあったんだ。今、工作をしているから、使おうと思っただけだよ」

アイビーは袋に手を伸ばした。

「返しなさい!」

「もし価値のある物が入っていたら、もちろん返します」と私は言った。

「中にある物は全部、私の物よ!」

「だったら、確認しましょう」

私は袋をひっくり返した。

段ボールの切れ端や布切れが、歩道に散らばった。

男性用のシャツが1枚落ちてきた。

続いて、袖に引っかかっていた腕時計が転がり出た。

私は凍りついた。

青い文字盤。

銀色のベルト。

「もし価値のある物が入っていたら、もちろん返します」

私は震える手で時計を拾い上げた。

そして、裏返した。

「いつだって君の帰る場所。Sより」

夫が私たちの人生から姿を消して5年。

彼に贈った記念日のプレゼントが、隣人のゴミの中から出てきたのだ。

「アイビー、どうしてあなたが私の夫の時計を持っているの?」

青い文字盤。銀色のベルト。

彼女の顔から血の気が引いた。

「それを渡しなさい」

「どこで手に入れたの?」

「あなたには関係ないことよ」

「大いに関係あるわ! あなたは私の息子を盗みの犯人扱いしたのよ!」

彼女は私の手から時計をひったくると、ほかの物と一緒に袋に押し込み、急いで家へ戻っていった。

「アイビー、どうして私の夫の時計を持っているの?」

彼女はすべてを黄色いゴミ袋に詰め込んだ。

「アイビー、待って!」

でも、彼女はすでに家へ向かっていた。

ジョエルが私の腕に触れた。

「ママ、僕、怒られるの?」

私は息子を抱きしめた。

「怒られないわ、かわいい子」

「今のって、パパの時計だったの?」

「そうよ」

「どうしておばさんが持っていたの?」

私は閉まりかけたアイビーの玄関ドアを見つめた。

「それを、これから突き止めるのよ」

「ママ、僕、怒られるの?」

⸻

その夜、ジョエルはキッチンのテーブルで段ボールを切っていた。

「ママ、アイビーおばさんはパパがどこにいるか知っていると思う?」

「そうかもしれないわね」

息子は少しためらってから言った。

「僕、パパにまたママを泣かせてほしくないんだ」

私は息子の額にキスをした。

「ママ、アイビーおばさんはパパがどこにいるか知っていると思う?」

私にも分からなかった。

でも、アイビーはネイサンが去ってから6か月後に引っ越してきた。

私たちの生活について質問を繰り返し、どういうわけか彼の時計まで持っていた。

私は答えを知る必要があった。

翌朝、私がドアをノックしても、アイビーは無視した。

⸻

日曜日、彼女の家の前に引っ越しトラックが止まった。

「もう引っ越すの?」と私は尋ねた。

「サラ、今は話している場合じゃないの」

「じゃあ、ネイサンの時計について説明してちょうだい」

「中古で買ったのよ」

「私が刻印したメッセージが入っている時計を?」

彼女は視線をそらした。

「彼と不倫していたの?」

「まさか!」

「だったら、どうして逃げるの?」

「逃げてなんかいないわ!」

「それなら、本当のことを話して」

彼女の表情が険しくなった。

「あなたの夫は、あれだけの問題を起こす価値もない男だったわ」

そう言い残し、彼女は家の中へ消えた。

アイビーが何を隠しているにせよ、彼女は真実を話すより、街を去ることを選ぼうとしていた。

⸻

その日の午後、知らない番号からメッセージが届いた。

知らない番号:
「母から何があったのか聞きました。一度、話をしませんか?」

私:
「どなたですか?」

知らない番号:
「ヴァネッサです。ネイサンの妻です」

私はそのメッセージを3回読み返した。

そして、すぐに電話をかけた。

「彼の、何ですって?」

女性がため息をついた。

「妻です。まあ、正確には、もう別居していますけど」

「あなたは誰なの?」

「アイビーの娘です」

ヴァネッサ。ネイサンの妻。

私は椅子に座り込んだ。

5年間、私はネイサンがほかの女性のために私を捨てたのかどうか、ずっと考え続けていた。

今、その答えを知った。

でも、彼の不倫は、これから明らかになる話の中で、最も衝撃の少ない部分にすぎなかった。

⸻

月曜日の午後、ヴァネッサはカフェで私と会った。

「母がしたこと、本当にごめんなさい」と彼女は切り出した。

「あなたは、いつから私のことを知っていたの?」

「母が引っ越したあと、全部話してくれたの。いつかあなたが私を見つけるかもしれないと思って、罪悪感を軽くしたかったんでしょうね」

私はコーヒーカップを握りしめた。

「分かったわ。最初から話しましょう。あなたたちは、そもそもどうやって知り合ったの?」

「職場で出会ったの」とヴァネッサは説明した。

「彼は、あなたたちの結婚生活はもう終わりかけているって言っていたわ」

「あなたは、それを信じたの?」

「信じたかったのよ」

「ジョエルのことは知っていた?」

「ええ」

「それでも彼と一緒にいたの?」

ヴァネッサは目を伏せた。

「そのあと、私が妊娠したの。ネイサンは、どちらかを選ぶと約束したわ」

「そして、彼が選んだのは、私たちを見捨てることだったのね」

「本当にごめんなさい、サラ」

「それで、あなたは彼と結婚したの?」

「あなたたちが離婚したあとにね。娘もいるの。リリーという名前で、今4歳よ」

私は、最も重要な質問をした。

「どうしてあなたのお母さんは、私の家の近所に引っ越してきたの?」

「ネイサンに頼まれたからよ」

「何ですって?」

「母が引っ越したあとになって、ようやく教えてくれたの」

「あなたは知らなかったの?」

「母はただ別の地域に住みたかったんだと思っていたわ。でも、実際は違った。ネイサンは何年もの間、あなたを監視するために母を利用していたのよ」

「それで、あなたは私に連絡してきたの?」

「そうよ。あなたには知る権利があるから」

「何を知る権利があるというの?」

「ネイサンが母を利用して、あなたの様子を探らせていたこと。彼は母に会いにすら来なかったの。自分の車をあなたに見られるのが怖かったから」

「アイビーは、何を報告していたの?」

「ジョエルの学校のこと、趣味のこと、幸せそうかどうか。それから、あなたに恋人がいるか、経済的に困っているかどうかも」

私は、アイビーから何度も質問されたことを思い出した。

「ネイサンは、アイビーにお金を払っていたの?」

「家賃を援助していたわ。ネイサンは母に、あなたがジョエルに会わせてくれないと言っていたの」

「アイビーは、それを信じたの?」

「信じたかったんでしょうね」

「自分が見捨てた息子の情報を、どうしてそんなに知りたがったの?」

「ジョエルが幸せかどうかを聞いていたの。母が『ええ、幸せよ』と答える限り、ネイサンは自分が息子に何もしていないことを無視できたのよ」

私は5年間、ネイサンが実際よりもずっと良い父親であるかのように、自分に言い聞かせてきた。

でも、もう終わりにする。

父親のふりをしていた年月のすべてについて、彼に責任を取らせるつもりだった。

「どうして、あなたのお母さんはネイサンの持ち物を捨てていたの?」

ヴァネッサの表情が変わった。

「ネイサンが私のもとを去ったからよ。2か月前にね」

「なるほど。彼はもう幸せじゃなかった、とでも言ったの?」

ヴァネッサは私を見つめた。

「彼は、一人になる時間が必要だって言ったわ」

「もちろん、そう言ったでしょうね」

ヴァネッサは目元をぬぐった。

「それに、彼は請求書も残していったの」

「クレジットカード?」

「それと車のローン。全部自分で払うって約束していたのに」

私は思わず笑いそうになった。

ネイサンは5年前、私にもまったく同じことを約束したのだ。

「リリーも、パパはいつ帰ってくるのって何度も聞くのよ」とヴァネッサは付け加えた。

私は言葉を失った。

初めて、私はネイサンが私を捨てて選んだ女性として、ヴァネッサを見ていなかった。

そこにいたのは、自分の娘の父親がなぜ帰ってこないのか、必死に説明しようとしている、もう一人の母親だった。

私は知っていた。

答えを待ちながら、父親の帰りを信じている子どもの顔を。

「ネイサンは今、どこにいるの?」

「母によると、誰かの家に住んでいるみたい。それから、先週、彼が婚約したことを知ったの」

「もう? 誰と?」

「クレアよ」

私はすぐに、彼の公開された婚約発表を見つけた。

ネイサンは、きらめく指輪を身につけた女性の隣で笑っていた。

「一緒に新しい人生を始めるのが待ちきれない」

私はその画面をヴァネッサに見せた。

「この人、約束を卸売りでもしているのかしら?」

ヴァネッサは笑った。

そして、泣き始めた。

私は彼女にティッシュを差し出した。

「いい、ヴァネッサ。私たちは友達じゃないわ」

「分かってる」

「でも、リリーは、ジョエルが5年前にしていたのと同じ質問をしている。どちらの子どもにも、こんな思いをさせるべきじゃない」

「どうすればいいと思う?」

「ネイサンに、いい加減、責任を取らせるのよ」

私はヴァネッサに、未払いの養育費と残された借金について話した。

「彼は、あなたがジョエルに会わせてくれなかったって言っていたわ」とヴァネッサが認めた。

「彼は一度だって会いたいと言ってこなかった。私の電話番号も住所も知っていたのよ。それに、近所に情報提供者までいたみたいね」

ヴァネッサは両手で顔を覆った。

「母は本当に、あんな最低な男のスパイになっていたのね」

「しかも無給で?」

「いいえ、家賃は払ってもらっていたみたい」

「すばらしいわね。養育費を払う余裕はなかったのに、監視活動の予算はあったわけだ」

ヴァネッサは笑った。

しかし、すぐに真剣な顔に戻った。

「サラ、もし私たちが、もう彼に好き勝手させないと決めたら?」

「あなたがそう言ってくれるのを待っていたのよ」

私たちは、そのあとも1時間ほど話し続けた。

話が終わる頃、ヴァネッサは笑顔を見せた。

「これで、木曜日の彼は最悪の気分になるでしょうね」

「いいことだわ。彼は今まで、火曜日を台無しにしすぎたもの」

⸻

その夜、アイビーから電話がかかってきた。

「サラ、あなたを傷つけるつもりはなかったのよ」

「あなたは5年間、私の息子のことを報告し続けていたのよ」

「ネイサンはジョエルがどうしているか知りたがっていたの」

「だったら、ネイサン本人がジョエルに聞けばよかったでしょう」

「私は、助けになっていると思っていたの」

「あなたは、ネイサンが父親としての責任から逃げるのを手助けしたのよ」

「サラ……」

「さようなら、アイビー」

私は電話を切った。

⸻

翌朝、ヴァネッサから電話があった。

「準備は全部整ったわ」

「ネイサンは承知しているの?」

「離婚について話し合うために会うと思っているわ」

「完璧ね」

「ネイサンは、円満に解決したいとまで言っていたわ」

私は、危うくコーヒーを落としそうになった。

「ネイサンが? 円満に?」

「ほかに誰が来るか、彼が知ったときの顔を楽しみにしていて」

5年間、ネイサンはすべての物語を自分の都合のいいように操ってきた。

でも木曜日には、ヴァネッサと私が、自分たちの物語の結末を書く番だった。

⸻

私は約束の時間より早くレストランに着いた。

ヴァネッサはすでに席に座り、メニューを眺めていた。

「もう注文するの?」

「一番高いステーキはどれか考えているの」

「お金持ちになった気分?」

「いいえ。ただ、請求書を見たときのネイサンの顔を想像しているだけ」

私は笑った。

「準備はいい?」

「全然よ」

ネイサンは10分遅れてやってきた。

「ヴァネッサ、愛しい人、実は考えたんだけど……」

そこで、彼は私に気づいた。

「サラ?」

「こんにちは、ネイサン」

彼は私たちを交互に見た。

「これはどういうことだ?」

ヴァネッサは微笑んだ。

「サプライズよ。あなたの過去と現在が、ついに顔を合わせたの」

「冗談だろ?」

「まだね」と私は答えた。「座って」

ネイサンは立ち尽くした。

「ヴァネッサ、離婚について話し合いたいと言ったじゃないか」

「そうよ。でも、あなたには会っておいたほうがいい人がいると思って。あなたとの離婚経験が豊富な人にね」

ネイサンの顔が赤くなった。

「サラ、ヴァネッサは君を操っているんだ」

「面白いわね。ヴァネッサも、あなたがそう言うって予想していたわ」

ヴァネッサが指を一本立てた。

「正確には、あなたは最初にサラを嫉妬深い女だと言うって予想していたのよ」

ネイサンは怒りを込めてヴァネッサをにらんだ。

「二人とも頭がおかしくなったのか?」

「いいえ。忍耐が尽きただけよ」

私は書類の入ったファイルを開いた。

「ジョエルは今、11歳よ。5年間、養育費は一度も払われていない。ネイサン、あなたが離婚の合意書に基づいて支払うべき金額を、弁護士が確認しているところよ」

ヴァネッサも、もう一つのファイルを私の隣に置いた。

「それから私は、リリーの養育費を確保するための手続きを始めたわ」

ネイサンは書類を見つめた。

「二人とも、俺を訴えるつもりなのか?」

「私たちは、子どもたちが受け取る権利のあるものを求めているだけよ」と私は答えた。

「ばかげている!」

「私もそう思うわ」とヴァネッサが言った。

「子どもが二人、婚約が3回。それでもあなたは、自分が被害者だと思っているのね」

私は首を少し傾けた。

「クレアは、ジョエルとリリーのことを知っているの?」

「クレアを巻き込むな!」

ヴァネッサはスマートフォンを取り出した。

「私が連絡したとき、彼女はかなり興味を持っていたみたいだけど?」

ネイサンの顔から血の気が引いた。

「クレアに連絡したのか?」

「落ち着いて。ただ真実を伝えただけよ」

「そんな権利、お前にはない!」

「面白いわね」と私は言った。

「あなたは、ほかの人の権利なんて気にしたこともなかったくせに」

彼のスマートフォンが振動した。

また振動した。

ネイサンは画面を見た。

「クレアから電話だ」

ヴァネッサは椅子にもたれた。

「婚約者を待たせないほうがいいんじゃない?」

ネイサンは電話を拒否した。

また着信があった。

「あなたの恋愛物語に、突然、一覧表が必要になった理由を知りたがっているんじゃない?」と私は言った。

ヴァネッサが吹き出した。

ネイサンはジャケットをつかんだ。

「もう帰る」

「そうでしょうね」と私は答えた。

「それがあなたの得意技だもの」

ネイサンは立ち止まった。

「サラ、君は何も分かっていない……」

「いいえ、よく分かっているわ。そして、今回は書類の手続きから逃げることはできない」

ヴァネッサは名刺を私のほうへ滑らせた。

「残りは私たちの弁護士に任せましょう」

ネイサンは名刺を見つめた。

そのとき、彼のスマートフォンが3度目の着信音を鳴らした。

ヴァネッサは画面をちらりと見た。

「ずいぶん粘り強い女性ね。もう好きになりそうだわ」

私は立ち上がった。

「話は終わりよ」

「これで終わりなのか?」

「次の婚約について、先に説明しておきたいなら別だけど」

私たちは一緒に店を出た。

⸻

外に出ると、ヴァネッサは深く息を吐いた。

「私たち、本当にやったのね?」

「そのようね」

ヴァネッサのスマートフォンが震えた。

クレア:
「教えてくれてありがとう。何も知らなかった」

「彼女、ネイサンと結婚すると思う?」と私は尋ねた。

「あなたなら結婚する?」

「クーポンをもらっても絶対に嫌よ」

私たちは声を上げて笑った。

いつもなら、会話を終わらせるタイミングを決めるのはネイサンだった。

でも、今回は違った。

家に帰ると、ジョエルが私を待っていた。

「ママ、どうしてアイビーおばさんがパパの時計を持っていたの?」

「理由が分かったわ」

「パパは、僕たちのことを知っているの?」

「知っているわ、かわいい子」

「だったら、どうして会いに来ないの?」

以前の私なら、何か言い訳を考えていただろう。

でも、もう違った。

「どうしてなのか、ママにも分からない。でも、それはあなたのせいじゃないのよ」

ジョエルはうなずいた。

「目を閉じて!」

私が目を開けると、テーブルの上に、不格好な段ボール製の宝石箱が置かれていた。

「ママのアクセサリーを入れるために作ったんだ!」

中には、小さな紙切れが入っていた。

「ママ、大人になったら、本物を買ってあげるね」

私の目に涙が浮かんだ。

「ママ! これは楽しいことなんだから、泣かないでよ!」

「そうね、うれしい涙よ」

「でも、ただの段ボールだよ」

「金とだって交換したくないわ」

ジョエルはにっこり笑った。

「よかった。だって僕、11歳で、お金なんて全然持ってないから」

私は笑いながら、息子を抱きしめた。

「これ、あなたのドレッサーに置いてもいい?」

「もちろん。真ん中に置きましょう」

「曲がっているのに?」

「曲がっているからこそ、いいのよ」

ジョエルは宝石箱を持って、二階へ上がっていった。

「僕、11歳で、お金なんて全然持ってないから」

私は長い間、ネイサンが息子に与えなかったものばかりを心配していた。

でも、私の息子は、捨てられた段ボールから美しいものを作り出していた。

ネイサンは5年間、父親としての責任から逃げ続けた。

そして私は5年間、彼のために言い訳をし続けてきた。

ようやく理解した。

ジョエルに必要だったのは、父親の評判を守ってくれる母親ではなかった。

必要だったのは真実。そして、私たちが築き上げた家族を信じてくれる母親だったのだ。母親は11歳の息子を初めて一人で学校から帰らせた――わずか20分後、隣人から泣きながら電話がかかってきた。「ちょっと外に出てきて。あなたの息子が何をしたのか、自分の目で確かめて」

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