80歳の母は、昔からの友人の家に1週間泊まりに出かけた。ところが、帰ってきた母はまるで体が半分になってしまったかのようにやつれ、しかも自分のものではないスーツケースを持っていた。そこで私は母の友人に電話をかけた。すると、彼女はもう8年も前からその住所には住んでいないという。いったい母は、本当はどこに行っていたのだろう?
駅で、私は危うく母を見落とすところだった。
母はベンチのそばに立ち、巨大な黒いスーツケースの取っ手をしっかりと握りしめていた。
白髪は額にぺったりと張りつき、何年も着続けているカーディガンは、肩からだらりと垂れ下がっていた。
「お母さん?」
母は振り向いて微笑んだ。
「おかえり、かわいい子」
私は急いで母のもとへ駆け寄った。
「いったいどうしたの?」
「何もないわよ、ローラ」
母の頬はこけていた。
声まで、いつもより弱々しく聞こえた。
母の名前はエヴリン。80歳で、明るくて、少しふくよかな女性だった。
お菓子作りが大好きで、日曜日の家族との食事を欠かしたことは一度もなかった。
7日前、母は幼なじみのマーガレットに会いに出かけた。二人が顔を合わせるのは、実に20年ぶりだった。
それなのに今、母はまるで体が半分になってしまったかのように見えた。
「病気なの?」
「ちょっと胃の調子が悪いだけよ」
「病院に連れていくわ」
「家に帰してちょうだい」
そのとき、私は黒いスーツケースに気づいた。

「青いバッグはどうしたの?」
「マーガレットがこれをくれたの。私のバッグが壊れちゃって」
母は取っ手をさらに強く握りしめた。
「お願いだから、もう帰りましょう?」
私は反論しようとしたが、母はひどく疲れ切っているようだった。
私はスーツケースを持ち、母を車まで連れていった。
持ち上げてみると、予想していたよりずっと重かった。
母は今回の旅行をとても楽しみにしていた。
マーガレットの家までは車で3時間。二人は子どもの頃からの友人だった。
マーガレットの娘が母を招待してくれたと聞いたとき、私はうれしくなった。
「もうずっと会っていなかったんでしょう?」と私は言った。
「20年よ」と母は答えた。
「だったら、行ってきたらいいじゃない」
母はためらった。
「あなたに全部任せるのは気が引けるわ」
「お母さん、私は52歳よ。日曜日のごちそうが1週間なくたって、どうにかなるわ」
母は笑った。
翌週の月曜日、私は母を駅まで送った。
母が持っていたのは、小さな青い旅行バッグだった。中には着替え、薬、そして手作りのクッキーが入った箱が入っていた。
電車に乗る前、母は私に電話番号を渡した。
「マーガレットの番号よ。何かあったら連絡してね」
私はその番号を携帯電話に登録した。
その週、私たちは2回ほど短い電話で話した。
どちらのときも、母は楽しく過ごしていると言っていた。
けれど、マーガレットに電話を代わってくれたことは一度もなかった。
二人が何をして過ごしているのか尋ねると、母はいつも話題を変えた。
私は特に気に留めなかった。
駅で母の姿を見るまでは。
家に着くと、母は黒いスーツケースを自分で2階まで運ぶと言い張った。
しかし、最初の2段を上がっただけで苦労し始めたので、私はすぐに代わった。
「こんな重いもの、持ち上げちゃだめよ」
「寝室に置いてくれるだけでいいから」
私は言われたとおりにした。
母は家の中に入ってくると、私がその場を離れるのを待ってから、寝室のドアに鍵をかけた。
母が昼間から寝室に鍵をかけるなんて、今まで一度もなかった。
その日の夕方、母は私が作ったスープにほとんど手をつけなかった。
私は母の体温を測り、水を飲むように勧め、もう一度病院に行かないかと尋ねた。
「明日なら、考えてみるわ」
「お母さん、本当にひどい顔をしているわよ」
「ありがとう、ローラ」
「冗談じゃないの。本当に心配なの」
「私だって本気よ。疲れているだけ。まだ死ぬつもりはないわ」
母は笑おうとしたが、私は少しも安心できなかった。
母が寝室に入ったあと、私はマーガレットに電話をかけた。
電話に出たのは男性だった。
「もしもし?」
「こんにちは。マーガレットさんをお願いできますか?」
少し間があった。
「マーガレットなら、もう8年も前からここには住んでいませんよ」
私は電話番号を確認した。
「本当ですか?」
「ええ、間違いありません。この番号は何年も前から私が使っています」
「どこに引っ越したか、ご存じありませんか?」
「いいえ、申し訳ないですが」
私はお礼を言って電話を切った。
それから母の携帯電話にかけた。
2階から着信音が聞こえた。
母は電話に出なかった。
私は階段の下に立ち、なぜ母が、友人のものではない電話番号を私に渡したのか考え続けた。
翌朝、私は母がリビングの椅子で眠っているのを見つけた。
母は昨日と同じカーディガンを着たままだった。
隣の小さなテーブルには、私が迎えに行く3日前に発行された列車の切符が置かれていた。
その下には、スーツケースに付ける荷物タグがあった。
そこに書かれていた名前は、エレン。
マーガレットでも、エヴリンでもなかった。
私は廊下のほうを見た。
母は寝室のドアを開けたままにしており、黒いスーツケースはタンスの横に置かれていた。
母の持ち物を勝手に調べるべきではないとわかっていた。
けれど、母は明らかに体調を崩していて、どこに行っていたのかについても嘘をついていた。
どうしても、何か重大な問題が起きているという予感を拭い去れなかった。
私はスーツケースを廊下に運び、開けた。
中には、きれいに畳まれた服、封のされた茶色い封筒、そして昔ながらのデジタルカメラが入っていた。
服は母には大きすぎるように見えた。
その下には、色あせた黄色い子ども用のセーターと、小さな木製の麺棒があった。
私はその麺棒を見て、はっとした。
少なくとも、見覚えがある気がした。
私が子どもの頃、家の台所にもまったく同じようなものがあったのだ。
私はカメラを手に取った。
バッテリー残量は、ほとんどなかった。
残されていた写真は、たった4枚だった。
1枚目には、質素なレンガ造りの家の前に立つ母が写っていた。
2枚目には、寝室で年老いた女性の隣に座る母の姿があった。
3枚目には、冷蔵庫に貼られた手書きのスケジュール表が写っていた。
食事の時間、薬を飲むためのメモ、そして誰かが安全に移動できるよう手助けする方法についての注意書き。
そして、私は4枚目を開いた。
そこには、昔の写真を撮影した画像が写っていた。
小さな白い家の前に立つ女性が、黄色いセーターを着た幼児を抱いていた。
その子どもを、私はすぐに見分けた。
私だった。
そして、女性の顔にも見覚えがあった。
「マギーおばさん……」
その名前を口にしたのは、何十年ぶりだった。
写真の下端には、誰かが住所を書き込んでいた。

私はその通りを知っていた。
幼い頃、何度も午後の時間を過ごした場所だった。
私は車の鍵をつかんだ。
母が静かに眠っていることを確かめ、メモを残してから、車で街を横断した。
小さな白い家は、玄関ポーチが新しくなっていたものの、今もそこに建っていた。
私は車を止め、玄関の階段をじっと見つめた。
そこに座って、ボウルいっぱいのイチゴを食べていたことを思い出した。
台所のテーブルに小麦粉をまき散らしながら、ある女性にお菓子作りを教えてもらったことも。
そして、その人を「マギーおばさん」と呼んでいたことも。
母はいつも、彼女は昔の家族ぐるみの友人で、遠くへ引っ越してしまったのだと言っていた。
私は何年も前に亡くなったのだろうと思っていた。
私は玄関に近づき、ドアをノックした。
出てきたのは、中年の男性だった。
「何かご用ですか?」
「突然すみません。ここに以前、マーガレットという女性が住んでいたことはありますか?」
男性はうなずいた。
「私たちが住む前は、彼女がこの家の持ち主でしたよ」
「どこに引っ越したのか、ご存じですか?」
男性は首を横に振った。
「もうずいぶん前のことなので」
私は写真を見せた。
男性は写真を見てから、私の顔を見つめた。
「この子は、あなたですか?」
「はい」
男性はかすかに微笑んだ。
「お役に立てなくて申し訳ない」
私はお礼を言った。
車に戻ると、私はもう一度、残りの写真を見直した。
最初の写真に写っていたレンガ造りの家には、玄関の横に番地が見えた。
私はその住所を携帯電話の地図アプリに入力した。
車で3時間の距離だった。
母が行ったのは、そこだったのだ。
そして、もしマーガレットが、私が昔「マギーおばさん」と呼んでいた女性なら、なぜ母がそのことを私に一度も話さなかったのか、どうしても知りたかった。
⸻
家に戻ると、母はもう起きていた。
台所のテーブルに座り、コップの水を飲んでいた。
黒いスーツケースは椅子の横に置かれていた。
「開けたのね」と母は言った。
「ええ」
母はがっかりしたような顔をした。
「ごめんなさい、お母さん。心配だったの」
「聞いてくれればよかったのに」
「聞いたわ。でも、何も話してくれなかったじゃない」
母は視線を落とした。
私は母の向かいに座った。
「マギーおばさんって、誰なの?」
母の表情が変わった。
「どこでその名前を聞いたの?」
「私、彼女のことを覚えているの」
母は唇をきゅっと結んだ。
「お菓子作りを教えてくれた人。白い家に住んでいた人よ」
母はテーブルを見つめたままだった。
「マーガレットね」と私は言った。「マギーおばさんの本当の名前はマーガレットだったのね」
母はうなずいた。
「どうして教えてくれなかったの?」
「あなたは覚えていないと思っていたのよ」
「どうして? 私の面倒を見てくれた人なのに」
母の目に涙が浮かんだ。
「あなたは、まだとても小さかったから」
私は写真を取り出した。
「どうして彼女がこれを持っていたの?」
「何でも大切に取っておく人だったからよ」
「何を取っておいたの?」
母は写真に手を伸ばした。
「彼女が私たちを助けてくれていた頃のものよ」
私は黙って待った。
ようやく、母が顔を上げた。
「あなたのお父さんが家を出たばかりの頃だった。あなたは4歳。私は仕事を2つ掛け持ちしていて、どうやって生活していけばいいのか、わからなかったの」
父が私の幼い頃に家を出ていったことは知っていた。
でも、その後の生活がどれほど大変だったのかは知らなかった。
「マーガレットは近所に住んでいたの」と母は続けた。「私が夜に働いている間、あなたの面倒を見てくれたの。あなたが彼女の家に泊まることもあったわ」
「どのくらいの間?」
「2年近くよ」
私は母を見つめた。
「2年も?」
母はうなずいた。
「彼女はあなたに食事をさせ、文字を覚えるのを手伝い、小さなタルトの作り方まで教えてくれた。お礼なんて、一度も求めなかったわ」
私はキッチンカウンターの上に置かれた木製の麺棒を見つめた。
「これ、私のものだったの?」
「マーガレットがあなたのために作ってくれたのよ」
その瞬間、記憶がよみがえった。
椅子の上に立ち、小さな両手で生地を押しつぶしていた光景。
私はずっと、その思い出は自分たちの家の台所での出来事だと思っていた。
でも、あれはマーガレットの家の台所だったのだ。
「どうして彼女はいなくなったの?」と私は尋ねた。
母は落ち着かない様子だった。
「引っ越したのよ。彼女の夫が別の場所で仕事を見つけたから」
「それで、連絡を取らなくなったの?」
「すぐにではなかったわ」
「何があったの?」
母は両手を組んだ。
「私は、自分が恥ずかしくなってしまったの」
「何が恥ずかしかったの?」
「彼女をあんなに頼りにしていたことよ」
私は母を見つめた。
「彼女はあなたを助けるのが大好きだったのよ」と母は言った。「でも、私は自分の娘の面倒すら自分で見られないことが嫌だった」
「それで、彼女を遠ざけたの?」
「一度にではないわ。電話をかける回数が少しずつ減っていったの。それから、会いに行く約束を一度すっぽかした。気づいたときには、時間が経ちすぎていたのよ」
「お母さん、彼女は私を育てるのを手伝ってくれたのよ」
「わかっているわ」
「どうして、そのことを私に話してくれなかったの?」
「あなたには、何もかも一人でやり遂げた母親として覚えていてほしかったの」
私は椅子にもたれかかった。
私はずっと、母はすべてを一人で乗り越えてきたのだと思っていた。
母は、私にそう信じさせてきたのだ。
「だからといって、お母さんが悪い母親になるわけじゃないわ」
母は目元をぬぐった。
「今なら、それがわかるわ」
私はさらに質問しようとした。
しかし、突然、母が前かがみになり、テーブルの端をぎゅっとつかんだ。
「お母さん?」
「めまいがするの」
母が立ち上がる前に、私は体を支えた。
今度は病院に連れていくと言っても、母は反対しなかった。
病院で医師が母を診察し、いくつかの検査を指示した。
母は脱水状態で、体力も落ち、体重も減っていた。
ゆったりした服と疲れ切った様子が、見た目の変化をさらに大きく感じさせていた。
医師はしばらく経過を観察し、ほかの原因がないか調べる必要があると説明した。
私は母のベッドの横に座った。
「マーガレットの家で何があったのか、話して」
母はため息をついた。
「彼女、あまり具合がよくないの」
「どのくらい悪いの?」
「つい最近、病院から退院して家に戻ったばかりなの。エレンには助けが必要だった」
「エレンって、マーガレットの娘?」
「そうよ」
「だったら、どうしてそのことを教えてくれなかったの?」
「あなたに心配をかけたくなかったのよ」
「今だって心配しているわ」
母は顔をそらした。
「マーガレットは、私が困ったときにはいつも助けてくれた。エレンから電話があったとき、今度は私が恩返しをする番だと思ったの」
母の話では、当初はただ、のんびりと旧友との時間を楽しむつもりだったらしい。
ところが実際には、マーガレットは移動するときも、食事を準備するときも、日常のさまざまなことをするにも、手助けを必要としていた。
エレンは何か月もの間、仕事をしながら母親の世話をしていた。
母は数日間だけ手伝うと申し出た。
しかし、それがどれほど大変なことなのか、考えていなかったのだ。
夜になると、母はマーガレットが何かを必要としていないか気になり、眠れずにいた。
疲れていたり、忙しかったりして、食事を抜くこともあった。
4日目には胃の調子が悪くなり、ほとんど何も食べられなくなった。
「帰りの切符を買ったの」と母は打ち明けた。
「3日前の切符?」
母はうなずいた。
「本当は帰るつもりだった。でも、マーガレットの具合がひどく悪い朝があって、エレンは仕事に行っていたの。どうしても、そのまま帰ることができなかった」
「それで電車に乗り遅れたの?」
「ええ」
「そのあと、さらに3日間も滞在したの?」
「なんとかなると思ったのよ」
私は母の手を握った。
「お母さん、あなたは80歳なのよ」
「それは自分でもよくわかっているわ」
「どうして私に電話しなかったの?」
母は気まずそうにした。
「あなたが何と言うか、わかっていたから」
「助けが必要だって言うこと?」
「そうよ」
母は翌日まで、経過観察のために入院した。
点滴と休息によって体調は改善したが、医師は退院後も定期的に診察を受け、体重減少や脱力感が続く場合は放置しないようにと念を押した。
家に戻ると、私は黒いスーツケースをリビングに運んだ。
「どうしてエレンがこれをあなたに渡したの?」
「マーガレットが、あなたに受け取ってほしいと言ったのよ」
「私に?」
母はうなずいた。
「私があなたのところに帰るとわかっていたから。彼女がずっと大切に保管していたものを、いくつか持ってきてほしいと頼まれたの」
私は封のされた茶色い封筒を見つめた。
「中には何が入っているの?」
「開けてみて」
封筒の中には、写真、誕生日カード、手紙が入っていた。
母の筆跡で書かれたものもあれば、マーガレットが書いたものもあった。
写真には、お菓子を作る私、マーガレットのソファで眠る私、公園で二人の女性に挟まれて立つ私の姿が写っていた。
その中に、特に目を引く手紙があった。
私が5歳だった頃、母が書いたものだった。
「あなたがいなかったら、私はどうなっていたかわかりません。ローラは毎朝、あなたのことを尋ねています。私がいつもそばにいられないときも、あなたはあの子に安心できる居場所を与えてくれました」
私はその手紙を2度読み返した。
そして、マーガレットからの返事を見つけた。
「あなたは、ローラにとって、あらゆる意味で立派な母親です。あの子に屋根のある家を与えるために働いているからといって、あの子を見捨てていることにはなりません。どうか、私があの子を愛することを許してくれた自分を責めないでください」
私は母を見た。
「彼女は、ちゃんとわかっていたのね」
母はうなずいた。
「彼女は、いつだってわかっていたわ」
「それなら、どうして彼女に頼るのをやめたの?」
「私には、それがわかっていなかったからよ」
母は小さな木製の麺棒に触れた。
「私は何年もの間、彼女に借りがあると思っていたの」
「今はどう思っているの?」
「今回の旅行で、ようやくその借りを返せると思っていたのよ」
私は首を横に振った。
「お母さん、友情は返済しなければならない借金じゃないわ」
母は長い間、私を見つめていた。
そして、泣き始めた。
翌日の午後、私はエレンに電話をかけた。
母は反対することなく、エレンの電話番号を教えてくれた。
エレンは、ほっとしたような声で電話に出た。
「エヴリンの具合はどうですか?」
「少しよくなりました。脱水症状を起こしていて、病院で治療を受けました」
「ああ、大変。疲れているのはわかっていましたが、本人は何度聞いても大丈夫だと言っていたんです」
「マーガレットの具合はどうですか?」
「今は休んでいます。毎日、エヴリンのことを尋ねているんですよ」
私は少しためらってから尋ねた。
「ひとつ聞いてもいいですか? お母さんは、どのくらいの手助けを必要としているんでしょう?」
エレンは黙り込んだ。
「私が認めたくなかった以上に、必要なんです」
彼女の話では、マーガレットは自分でできることもあったが、一日を通して見守りや実際の介助を必要としていた。
エレンは仕事の時間を減らしていたが、その生活をいつまでも続けることは難しかった。
「エヴリンは、ただ遊びに来るのを楽しみにしていると思っていたんです」とエレンは言った。「あんなにたくさんのことを引き受けるとは思いませんでした」
「母は、嫌だと言うのが苦手なんです」
「私の母もそうなんです」
私たちは、安定した支援を受けられるようにする方法や、エレンがすべてを一人で背負わずに済む方法について話し合った。
車で3時間離れた場所にいる私が、彼女たちの問題をすべて解決することはできない。
それでも、利用できる介護サービスを探す手伝いはできるし、マーガレットの医療チームに適切な介護について相談するよう、エレンを励ますこともできた。
電話を切る前に、私は尋ねた。
「マーガレットは、私に会いたいと思ってくれるでしょうか?」
エレンは小さく笑った。
「もう何年も前から、あなたが来てくれるのを願っているんですよ」
2週間後、母と私は一緒にマーガレットのもとへ向かった。
今度は私が車を運転した。
母は体力を取り戻し、規則正しく食事をし、医師の指示も守っていた。
最初の1時間、母は私の運転について文句を言い続けた。私はそれを、元気になった証拠だと思うことにした。
エレンの家に着くと、彼女が玄関まで出迎えてくれた。
マーガレットは窓際の快適な椅子に座っていた。
編まれた毛布の下で、彼女の体はとても小さく見えた。
けれど、私の姿を見ると、顔がぱっと明るくなった。
「ローラ?」
私はうなずいた。
マーガレットは両手を差し出した。
私は部屋を横切り、彼女を抱きしめた。
その瞬間、懐かしい香りがした。
バニラの香りだった。
彼女は、私が子どもの頃に覚えていたのと同じ、優しい香りの香水をつけていた。
「まあ……」と彼女はささやいた。「こんなに大きくなったのね」
私は涙を流しながら笑った。
「昔は、ケーキの生地をつまみ食いさせてくれたわよね」
「あなたは、いつもこっそり食べていたものね」
母は彼女の隣に座った。
マーガレットは母の手を握った。
「本当に心配したのよ」
母は微笑んだ。
「もう何度も言われたわ」
私たちは午後の時間を、写真を眺めながら過ごした。
マーガレットは、私が忘れてしまった細かなことまで覚えていた。
私が初めて歯を抜いた日のこと。
彼女が私のために編んでくれた小さな黄色いセーターのこと。

母のために誕生日ケーキを作ると言い張った私が、砂糖の代わりに塩を入れてしまったことまで。
私は話を聞きながら、彼女が私の子ども時代をどれほど鮮明に覚えているのかに驚いた。
帰る前、私は彼女にお礼を言った。
「私たちのためにしてくれたこと、全部に感謝しているわ」
マーガレットは首を横に振った。
「あなたのお母さんは、本当によく働いていたわ。私はただ、学校が終わったあとにあなたが帰ってこられる場所を用意していただけよ」
「それは、決して小さなことじゃないわ」
彼女は私の手を握った。
「そうね」と彼女は認めた。「確かに、そうだったわね」
⸻
その後数か月の間に、エレンはマーガレットのために追加の介護支援を手配した。
母も再び会いに行くようになったが、滞在は短期間に限り、介護を引き受けることはしなくなった。
私は二人の様子を定期的に確認した。
そして、毎週日曜日には、今でも母が夕食を食べに来ていた。
ただし、ひとつ変わったことがあった。
料理をするのは、私になったのだ。
最初、母は反対した。
けれど、やがて料理を完成させて持ってくる代わりに、レシピを持ってくるようになった。
ある日の午後、私は母が自分の台所で、私の娘にパイ生地の伸ばし方を教えているのを見つけた。
二人の間には、マーガレットが大切に保管していた小さな木製の麺棒が置かれていた。
「力を入れすぎよ」と母が娘に言った。
娘は笑った。
「マギーおばあちゃんみたいなことを言うね」
母は顔を上げた。
私は微笑んだ。
私たちは、再びマーガレットを「マギーおばさん」と呼ぶようになっていた。
20年間、母は友人の優しさに報いる最善の方法は、助けを求めずに恩を返すことだと信じていた。
けれど、マーガレットは見返りなど求めていなかった。
彼女が求めていたのは、ただ友人とのつながりだった。
そして、母が持ち帰った黒いスーツケースに入っていたのは、返さなければならない借りではなかった。
そこにあったのは、私たちの誰もが、決して一人ではなかったという証拠だった。
ここで、あなたに考えてほしいことがあります。
もしあなたが、年老いた母親が昔の友人から受けた親切に報いようとして、体を壊しかねないほど無理をしていたと知ったら、あなたは母親の「自分で何とかしたい」という気持ちを尊重しますか? それとも、母親の健康を守るために、たとえ本人が望まなくても介入することを選びますか?
