祖母は兄の結婚式のために、3日間もかけてウェディングケーキを作った。ところが、約束していた代金を求めると、兄の花嫁は祖母を見て笑ったのだ。祖母には薬を買うためのお金が必要だった。だから私は、結婚祝いの中に、披露宴の雰囲気を一変させるものをそっと忍ばせた。
祖母は73歳。昔から、お菓子を焼くことが彼女なりの愛情表現だった。
私たちが子どもだった頃、兄のダニエルは、祖母の誕生日ケーキに不格好な青い星を飾るのが好きだった。祖母は決してそれを直そうとはしなかった。
「そのままにしておきなさい。そこがいいところなんだから」
だから、ダニエルの婚約者であるアシュリーから、手作りのシュガーフラワーで飾った4段のウェディングケーキを作ってほしいと頼まれたとき、祖母は大喜びした。
アシュリーは、プロのケーキ店に頼むと1,000ドル以上かかるとこぼしていた。
「材料費も、手間賃も、もちろんちゃんと払いますから」
日曜日の昼食の席で、彼女はそう約束した。
私はその言葉を自分の耳で聞いていた。
祖母の収入はわずかな年金だけだった。それでも、必要な材料をすべて自分で購入し、3日間かけてケーキを焼き、飾りつけをした。
私が訪ねたとき、キッチンのテーブルには手作りのシュガーフラワーがずらりと並んでいた。
祖母は痛む手首をさすりながら、繊細なバラをひとつ持ち上げて私に見せてくれた。
「きれいだね」と私は言った。
祖母は微笑んだが、すぐにまた飾りつけに取りかかった。
翌朝、アシュリーがケーキを受け取りに来る予定だったので、私はそのまま祖母の家に泊まり、町外れにある結婚式場まで車で送ることにした。
翌朝、コーヒーの香りと玄関ホールから聞こえる話し声で目が覚めた。
アシュリーが到着していた。
彼女はケーキの横に立ち、腕を組み、スマートフォンを手にしていた。まるで車の状態を確認する客のように、あちこちから写真を撮っている。
ひと言も褒めようとはしなかった。
やがて、祖母が遠慮がちに口を開いた。
「ねえ、ケーキのお代を今いただいてもいいかしら? 材料にかなりお金がかかってしまってね。こんなことを言うのは恥ずかしいんだけど、そろそろ薬を買わなくちゃいけないの。1ドルだって大切なのよ」
すると、アシュリーは祖母の顔を見て笑った。
「おばあちゃん、どうして払わなきゃいけないの? 私たちは家族でしょ。無料で作ってくれたっていいじゃない!」
祖母は信じられないというように、何度もまばたきをした。
「あなたたちのために何かをするのは嫌じゃないのよ。ただ、今回は自分で費用を負担することになるなんて思っていなかったの。年金は1ドル単位で使い道が決まっているの。本当にごめんなさいね」
「貧乏人みたいなふりをするのはやめてよ」とアシュリーは言った。「私は払わないから。こっちだって出費が多いのよ」
そのとき、私は玄関ホールに足を踏み入れた。
「それはおかしいよ」と、私は自分でも驚くほど冷静な声で言った。「あなたはおばあちゃんに払うって約束したでしょう。しかも、私の目の前で、はっきりとね」
アシュリーは目をぐるりと回した。
「たかがケーキじゃない」
「何日もかけた仕事だし、材料を買うためのお金だってかかっているでしょう」
「もう、いい加減にして」
彼女はケーキを運ぶために連れてきた男性たちに向き直り、段になったケーキを指さした。
「一番上を気をつけてね」
そして、祖母を振り返ることさえなく、家を出ていった。
ほどなくして玄関のドアが閉まり、家の中は静まり返った。
私は自分の車の鍵を握りしめた。今すぐ結婚式場へ行き、自分の手でケーキを取り戻してやりたかった。
「お願いだから、やめてちょうだい」
祖母が言った。
彼女はキッチンのテーブルに座り、両手を重ねていた。目には涙が浮かび、見るも無残なほど傷ついていた。
「今日はダニエルの結婚式なのよ。騒ぎにはしたくないの。今日だけはね」
「おばあちゃん、あの人、あなたを見て笑ったんだよ」
「わかっているわ」
祖母は小さく肩をすくめ、傷ついた気持ちを少しでも小さく見せようとしていた。
「私が……どうすればよかったのかしら。書面で約束してもらえばよかったのかもしれないわね。私が悪かったのよ」
「絶対にそんなことないよ」
私は祖母の向かいに座り、その手を握った。
祖母はダニエルの結婚式を台無しにしないでほしいと懇願していた。でも、薬を買うお金さえないまま、祖母を放っておくことはできなかった。
「レシートはどこにあるの?」
祖母は古いクッキーの缶を取り出した。中には、バター、卵、フォンダン、金箔、シュガーフラワーなどの購入レシートが入っていた。
私はすべての費用を計算し、それから作業にどれくらいの時間がかかったのか尋ねた。
「3日間よ。ほとんど一日中ね」
祖母は答えた。
私は材料費をすべて補填し、さらに祖母の労働に対する報酬も支払えるだけのお金を数えて渡した。
祖母はそのお金を見つめた。
「あなた、そんな……これはあなたが払うべきお金じゃないのよ」
「心配しないで。それより、ちゃんと薬を買ってね」
「結婚式はどうするの?」
「私に任せて」
祖母は私の手をぎゅっと握った。
「お願いだから、騒ぎにしないでね。今日はダニエルの日なんだから」
「わかっているよ」
私はそう答えた。
でも、騒ぎにならないとは約束できなかった。
完璧な仕返しの方法が、すでに頭の中で形になり始めていたからだ。
私は以前、新郎新婦への結婚祝いとして、名前を刻印した銀製の写真立てを購入していた。
祖母が着替えている間、私はレシートを使って、材料費と労働費を明記した請求書を作った。
一番上には、大きく「支払済み」と書いた。
その下には、こう記した。

「花嫁が支払いを拒否したため、祖母の孫娘が全額を立て替えました」
私は請求書を写真立ての箱の中に忍ばせ、プレゼントのリボンを結び直した。
アシュリーは箱を開けたとき、それを目にすることになる。
でも、それはまだ始まりにすぎなかった。
私の計画がどうなるかは、祖母への仕打ちを私が見過ごすつもりなどないと知ったとき、アシュリーがどんな反応をするかにかかっていた。
式は、イルミネーションで飾られた改装済みの納屋で行われた。
ダニエルは誓いの言葉を交わすとき、涙を流していた。
その姿を見ながら、私は思った。
今朝、アシュリーが祖母に何をしたのか、兄は本当に何も知らないのだろうか。
披露宴が始まると、祖母のケーキは照明の下、キャスター付きの台に載せられていた。
繊細なシュガーフラワーは、ひとつも壊れていなかった。
アシュリーは写真家に、ケーキを6つの異なる角度から撮影するよう指示していた。
会場の反対側では、ダニエルが祖母に誇らしげな笑顔を向けていた。
そのとき私は、アシュリーがケーキを受け取りに来た朝、何が起きたのかを兄がまったく知らないのだと気づいた。
私はデザートテーブルの近くで、楽しそうな人々を眺めている祖母を見つけた。
「おばあちゃんが今まで作った中で、一番素敵なケーキだよ」と私は言った。
「ダニエルが気に入ってくれているなら、うれしいわ」
祖母は微笑んだものの、その目にはまだ疲れが残っていた。
午後7時半ごろ。ケーキカットの儀式まであと数分というところで、私は包装したプレゼントを持って新郎新婦のメインテーブルへ向かった。
「お二人に、ちょっとしたお祝いを」
そう言って、私はプレゼントを差し出した。
アシュリーは歓声を上げた。
「ええっ、そんな、気を使わなくてもよかったのに!」
彼女はクリスマスの朝にプレゼントを開ける子どものようにはしゃぎながら、リボンを乱暴に引きちぎり、箱を開けて銀の写真立てを取り出した。
「あら、かわいい!」
ところが、請求書に気づいた瞬間、彼女の表情が変わった。
もし彼女が祖母に謝罪し、私にお金を返してくれれば、この問題は数分で解決できたはずだった。
そうしなければ、この結婚式は彼女にとって一生忘れられないものになる。
私は彼女の笑顔が消えていくのを見つめていた。
アシュリーは慌てた様子で紙を丸め、ブーケの中に隠そうとした。
しかし、隣に座っていたダニエルが、その様子に気づいた。
「何だ、それ? アシュリー、どうしたんだ?」
「何でもないわ」
彼女はいつになく甲高く、早口で答えた。
「本当に何でもないの」
「それは請求書だよ」と私は穏やかに説明した。「ケーキのね。アシュリーがおばあちゃんに支払うのを拒否したから、私が代わりに全額払ったの」
アシュリーは勢いよく私に顔を向けた。
「どうして結婚祝いにこんなものを入れるのよ!」
「あなたがきちんと責任を取るか、確かめたかったの。でも、あなたは責任を取るどころか、隠そうとした」
私はそう言い残し、ケーキのほうへ歩き始めた。
背後で、アシュリーのハイヒールが床を激しく打つ音がした。
「どこへ行くの? ねえ! ちょっと!」
私はケーキの台までたどり着き、つま先で車輪の小さなブレーキを外した。
「何をするつもりなの?」とアシュリーが詰め寄った。
私は慎重にケーキの台をダンスフロアへ押し出した。少しでも揺らせば、祖母が丹精込めて作った美しいケーキを傷つけてしまうかもしれない。そう思うと、恐ろしくて仕方がなかった。
ゲストたちが次々とこちらを振り返り始めた。
アシュリーは激怒しながら、私の後を追ってきた。
「やめて! 今すぐやめなさい!」
私は自分のテーブルの横にケーキを止め、椅子に腰を下ろした。
「いったい何をしているのよ!」とアシュリーが歯を食いしばって言った。
「だって、私がお金を払ったんだもの。せっかくだから、自分でも楽しもうと思って」
「ウェディングケーキを勝手に持っていかないで!」
「おばあちゃんには報酬を受け取る権利があった。でも、あなたは払わなかった。だから私が払った。つまり、このケーキは今、私のものだよ」
「そんな理屈が通るわけないでしょう! 私の結婚式のために作られたケーキなのよ!」
私はテーブルにあったスプーンを手に取り、照明にかざして眺めた。
「おばあちゃんのケーキは最高なの。きっとこれも、すごくおいしいはず」
私はゆっくりと、スプーンをケーキの表面へ近づけた。
「やめて!」アシュリーが悲鳴を上げた。「絶対にやめなさいよ!」
私は手を止めた。
スプーンはフォンダンの表面から、わずか数センチのところで静止していた。
会場全体が、私と一緒に凍りついたかのようだった。
「なんて意地悪なの!」アシュリーが叫んだ。後ろのテーブルに座っていたゲストたちまで振り返るほどの大声だった。「嫉妬しているんでしょう! あなたは昔から私が嫌いだった! 私の結婚式を台無しにするために、こんなことをしているのよ!」
私はスプーンを動かさなかった。
アシュリーは会場を横切ってきたダニエルに勢いよく向き直った。兄は何が起きているのか理解できず、困惑しきった顔をしていた。
「ダニエル! 何とかしてよ! 妹に謝らせて、ケーキを元の場所に戻させて! 今すぐに!」
ダニエルは私たちを交互に見た。
「誰か、いったい何が起きているのか説明してくれないか?」
「アシュリーは、おばあちゃんに材料費と手間賃を払うと約束したの」と私は言った。「でも、おばあちゃんがケーキを完成させたあと、支払いを拒否したのよ」
兄は眉をひそめた。
「何だって? アシュリーは、おばあちゃんが結婚祝いとして作ってくれるって言っていたぞ」
兄は花嫁に向き直った。
「それは本当なのか?」
アシュリーは腕を組んだ。
「わかったわよ、最初にお金の話をしたのは認める。でも、ダニエル、家族にウェディングケーキの代金を請求するなんておかしいでしょう? それなのに、あなたの妹はこんなことで大騒ぎしているのよ」
「おばあちゃんは、あなたの結婚式を台無しにしたくなかったの」と私は説明した。
ダニエルは、じっと座っている祖母のほうを見た。
「どうして自分のお金で代わりに払ったんだ?」と、兄は静かに尋ねた。
「おばあちゃんには薬を買うお金が必要だったから」
ダニエルはアシュリーに向き直った。
「おばあちゃんが薬を買うお金を必要としていたことを、君は知っていたのか?」
「もう、いい加減にしてよ」とアシュリーは軽蔑するように手を振った。「大げさに騒いでいただけじゃない」
「おばあちゃんが事情を説明したとき、あなたは目の前で笑ったのよ」と私は言った。
兄の顔に浮かんだ表情は、今でも忘れられない。
ダニエルは妻を見つめ、彼女が何か説明してくれるのを待っていた。
きっと兄は、彼女が否定してくれることを願っていたのだと思う。誤解だったと言ってくれることでも、せめて謝ってくれることでもよかったのだろう。
しかし、アシュリーは目をぐるりと回した。
「もう、いい加減にしてよ! 数日くらい薬を待ったって、おばあちゃんが死ぬわけじゃないでしょう!」
その瞬間、ダニエルの表情が変わった。

アシュリーは、まだ話し続けていた。
「それに、みんなが見ているし、写真だって台無しになるし、どうしてみんながこんなに大騒ぎしているのか、まったく理解できな……」
ダニエルは再び祖母のほうを見た。
祖母は両手を固く握りしめ、何も気にしていないふりを必死に続けていた。
一度だけ、祖母のあごが小さく震えた。
兄はアシュリーに向き直った。
「もういい」
そう言うと、兄は妻から離れ、まっすぐ私のほうへ歩いてきた。
私は胸が沈むような気持ちになった。
兄は披露宴を台無しにした私に腹を立て、今すぐ出ていけと言うつもりなのだと思った。
アシュリーも同じように考えたらしい。
彼女はほっとしたように息をついた。
「ありがとう」と彼女は言った。「やっとまともな判断ができる人がいてくれたわ」
ダニエルは私の椅子の横で立ち止まり、手を差し出した。
「それを貸してくれ」
私は、自分がまだスプーンを握っていたことを思い出し、手元を見た。
少しためらったものの、兄は私の指からスプーンを受け取った。
そして、ケーキのほうへ向き直った。
アシュリーは勝ち誇ったように微笑み、髪を整え始めた。写真家に撮影してもらう準備をしているようだった。
ダニエルは4段のケーキに近づいた。
長い間、兄はアイボリー色の美しい層と、祖母が痛む手で4日間かけて形を整えた繊細なシュガーローズをじっと見つめていた。
そして突然、スプーンをケーキのど真ん中に突き刺した。
スプーンは深く沈み込んだ。
兄はスポンジとクリームを大きく、不格好にすくい取り、そのまま口に運んで一気に食べた。
アシュリーは息をのんだ。
何人ものゲストも、同じように驚きの声を漏らした。
ダニエルは、会場が完全に静まり返る中、ゆっくりと咀嚼し続けた。
「ダニエル!」アシュリーが絶叫した。「何をしているのよ!?」
兄は彼女を見ようともしなかった。
飲み込んだあと、兄は会場の向こうに向かって声を上げた。
「おばあちゃん、これ、最高においしいよ!」
祖母は信じられないという顔で兄を見つめた。
口を開いたものの、言葉が出てこなかった。
ダニエルはスプーンをケーキの台に置き、ゲスト全員が見守る中、会場を横切って祖母のもとへ向かった。
祖母の椅子の前まで来ると、兄は結婚式のスーツ姿のままひざまずき、祖母の両手を取った。
「ありがとう」と兄は言った。声が震えていた。「こんなに長い時間をかけて作ってくれて、本当にありがとう。それから、アシュリーにあんな扱いをさせてしまって、本当にごめん」
「ああ、あなた……」
祖母は何度もまばたきをした。
「お願いだから、怒らないでちょうだい。今日はあなたの結婚式なのよ。私はただ……」
「おばあちゃんは何も悪くない」と兄は言った。「何ひとつ悪くないんだ。わかる?」
祖母はうなずいた。
とうとう、頬を涙が伝い始めた。
ダニエルは深く息を吸い込んだ。その息づかいが、なぜか私の胸にも重く響いた。
「結婚する前に、アシュリーがどんな人間なのか見抜けなかった自分が情けないよ。これを取り消すのは大変なことになるだろうけど……」
私は椅子から転げ落ちそうになった。
祖母の顔は、恐怖で青ざめた。
「ダニエル、だめよ。そんなことを言わないで……」
会場の反対側から、アシュリーのハイヒールが激しく床を打つ音が近づいてきた。
「取り消すって、何を?」彼女は問い詰めた。
ダニエルは立ち上がり、妻と向き合った。
「僕たちの結婚だ」
アシュリーは引きつった笑い声を漏らした。
「冗談でしょう?」
「本気だ」
「ちょっと待ってよ。たかがケーキのことで、結婚式を台無しにするつもりなの?」
「違うよ、アシュリー」
兄の声は穏やかで、疲れ切っていた。それでも、その決意は揺るぎなかった。
「ケーキが問題だったことなんて、一度もない」
「だって、これはあなたの妹のせいでしょう!」
アシュリーは私を指さした。
「あなたを操っているのよ! 最初から全部仕組んでいたんでしょう! 本気でそんなことを言っているわけないわよね!?」
「妹は僕に決断をさせたわけじゃない。君が決断させたんだ。君自身の言葉でね」
兄はゆっくりと首を横に振った。
「自分の家族の中でも、弱い立場にいる人をあんなふうに見下して扱う人とは、一緒に人生を築いていけない。僕には無理だ」
「もう遅いわよ! 私たちは法的に結婚しているのよ!」
「わかっている。法的な手続きはあとで何とかする。でも、僕はもう終わりにする」
私は、アシュリーがようやく謝ってくれることを願っていた。
しかし、彼女が見回したのは、こちらを見つめるゲストたち、傷ついたケーキ、そしてカメラを下ろし始めた写真家だった。
次の瞬間、彼女は怒りを爆発させた。
「私がこの結婚式を完璧にするために、いくらお金を使ったと思っているの!?」

ダニエルは、長い間、黙って彼女を見つめていた。
そして、こう言った。
「どうやら、おばあちゃんに払うお金だけは足りなかったみたいだね」
アシュリーは口を開き、閉じ、また開いた。
しかし、何も言葉が出てこなかった。
やがて彼女はドレスの裾をかき集め、勢いよく振り返ると、納屋の大きな扉から飛び出していった。
ベールが旗のように後ろではためいていた。
150人のゲスト全員が、呆然とした沈黙の中でその姿を見送った。
ウェディングケーキは、私のテーブルの横に立っていた。
アイボリー色の美しい4段のケーキ。その中央には、ダニエルがスプーンを突き刺したことで、大きなくぼみができていた。
祖母は、その惨状をじっと眺めた。
ナプキンで目元を押さえたあと、数え切れないほどキッチンの失敗を経験してきた人らしい、深く現実的なため息をついた。
「ねえ、あなた」
祖母は言った。
「ケーキには、ちゃんとした切り方というものがあるのよ」
