隣人が、捨てられた段ボールを拾った息子を恥ずかしめることが、彼女にできる最悪のことだと思っていた。
でも、彼女に問いただした瞬間、私は気づいた。この争いは、あの日の午後よりずっと前から始まっていたのだと。
私は33歳だった。ここ5年間、私の人生はたった2つのことを中心に回っていた。息子を育てること。そして、もう存在しない結婚生活の後始末をすること。
元夫のネイサンは、ある火曜日の朝、家を出ていった。
6歳だった息子のジョエルにキスをして、「夕食までには帰るよ」と約束し、そのまま姿を消した。
3日後、彼から電話がかかってきた。
「離婚することにしたんだ、サラ」
ネイサンが家を出たのは、火曜日の朝だった。
「何ですって? 今どこにいるの?」
「頭を冷やせる場所だよ。もう何年も不幸だったんだ」
「だったら家に帰ってきて。話し合いましょう」
「もう話すことなんてない」
「ジョエルはどうするの?」
「なんとかなるさ」
まるで、私たちの息子が誰か別の人の責任であるかのように。
ネイサンは、クレジットカードの借金と未払いのローンだけを私たちに残していった。
私は午前中、歯科医院で働き、夜は保険代理店の掃除をした。
ジョエルは、掛け算を覚えるよりも先に、サンドイッチの作り方を覚えた。
「ママ、どうして新しい靴を買わないの?」
「まだ履けるからよ」
「でも、穴が開いてるよ」
「これはね、通気口なのよ、かわいい子」
彼は笑った。でも、完全には納得していないようだった。
最初の頃、ジョエルは何度もネイサンのことを尋ねた。
「パパは僕の誕生日を覚えてると思う?」
「もちろんよ」
「じゃあ、どうして電話してこないの?」
「何かあって、忙しいのかもしれないわね」
ジョエルはうつむいた。
ネイサンのために言い訳をする自分が嫌だった。
でも、真実を話せば、ジョエルはもっと傷つくと思っていた。
やがて、息子は何も尋ねなくなった。
私は、それで少しは気持ちが楽になったのだと思い込んだ。
ネイサンが、私たちの結婚記念日に贈った高級腕時計を身につけている写真を、私はずっと大切に保管していた。
文字盤は青く、裏側には刻印があった。
「いつだって君の帰る場所。Sより」
その時計を買うために、私は半年間もお金を貯めた。
真実を話せば、ジョエルはもっと傷つくと思っていた。
ネイサンが家を出てから6か月後、アイビーが3軒先に引っ越してきた。
一人暮らしで、娘と孫娘は別の街に住んでいたため、新しい隣人のアイビーはとても親切な人に見えた。
ジョエルに手作りのクッキーをくれることもあったし、生活費が足りないときには、お金を貸してくれることさえあった。
けれど、彼女の親切には、いつもたくさんの質問がついてきた。
「ネイサンはジョエルの面倒を見てくれているの?」
「あまりね」
「まだ水泳教室には通わせていないの?」
「そんな余裕はないの」
「それで、あなたには新しい恋人はいないの?」
「眠る時間を確保するだけで精いっぱいよ」
私は、彼女はただ親切にしてくれているのだと思っていた。
でも、その親切には、いつもたくさんの質問がついてきた。
⸻
あの金曜日、私はついに、ジョエルが一人で学校から歩いて帰ることを許した。
「ママ、僕もう11歳だよ。たった10分の道のりじゃない!」
「寄り道せずにまっすぐ帰ること。それから、出発したらメッセージを送ってね」
「約束する!」
午後3時11分、私のスマートフォンが震えた。
ジョエル:
「今から帰るよ」
10分が過ぎた。
それから15分。
20分が過ぎたところで、私は窓の外をのぞいた。

ジョエルの姿はなかった。
私はスマートフォンを手に取った。
メッセージを送ろうとした、そのときだった。
アイビーから電話がかかってきた。
「サラ、ちょっと外に出てきて。あなたの息子が何をしたか、自分の目で見たほうがいいわ」
「ジョエルはどこ? けがをしたの?」
「ここにいるわ。とにかく来て!」
私は走って外に出た。
アイビーは道路脇に立ち、目元をぬぐっていた。
ジョエルは黄色いゴミ袋をしっかりと抱えていた。
「ママ、僕、何も盗んでないよ!」
「あなたの息子が私の物を持ち去ったのよ!」と、アイビーは彼に怒鳴った。
「大声を出さないで」と私は言った。
「ジョエル、何があったのか説明してくれる?」
ジョエルは黄色いゴミ袋を抱えたままだった。
「おばさんのゴミ箱の横に段ボールがあったんだ。今、工作をしているから、使おうと思っただけだよ」
アイビーは袋に手を伸ばした。
「返しなさい!」
「もし価値のある物が入っていたら、もちろん返します」と私は言った。
「中にある物は全部、私の物よ!」
「だったら、確認しましょう」
私は袋をひっくり返した。
段ボールの切れ端や布切れが、歩道に散らばった。
男性用のシャツが1枚落ちてきた。
続いて、袖に引っかかっていた腕時計が転がり出た。
私は凍りついた。
青い文字盤。
銀色のベルト。
「もし価値のある物が入っていたら、もちろん返します」
私は震える手で時計を拾い上げた。
そして、裏返した。
「いつだって君の帰る場所。Sより」
夫が私たちの人生から姿を消して5年。
彼に贈った記念日のプレゼントが、隣人のゴミの中から出てきたのだ。
「アイビー、どうしてあなたが私の夫の時計を持っているの?」
青い文字盤。銀色のベルト。
彼女の顔から血の気が引いた。
「それを渡しなさい」
「どこで手に入れたの?」
「あなたには関係ないことよ」
「大いに関係あるわ! あなたは私の息子を盗みの犯人扱いしたのよ!」
彼女は私の手から時計をひったくると、ほかの物と一緒に袋に押し込み、急いで家へ戻っていった。
「アイビー、どうして私の夫の時計を持っているの?」
彼女はすべてを黄色いゴミ袋に詰め込んだ。
「アイビー、待って!」
でも、彼女はすでに家へ向かっていた。
ジョエルが私の腕に触れた。
「ママ、僕、怒られるの?」
私は息子を抱きしめた。
「怒られないわ、かわいい子」
「今のって、パパの時計だったの?」
「そうよ」
「どうしておばさんが持っていたの?」
私は閉まりかけたアイビーの玄関ドアを見つめた。
「それを、これから突き止めるのよ」
「ママ、僕、怒られるの?」
⸻
その夜、ジョエルはキッチンのテーブルで段ボールを切っていた。
「ママ、アイビーおばさんはパパがどこにいるか知っていると思う?」
「そうかもしれないわね」
息子は少しためらってから言った。
「僕、パパにまたママを泣かせてほしくないんだ」
私は息子の額にキスをした。
「ママ、アイビーおばさんはパパがどこにいるか知っていると思う?」
私にも分からなかった。
でも、アイビーはネイサンが去ってから6か月後に引っ越してきた。
私たちの生活について質問を繰り返し、どういうわけか彼の時計まで持っていた。
私は答えを知る必要があった。
翌朝、私がドアをノックしても、アイビーは無視した。
⸻
日曜日、彼女の家の前に引っ越しトラックが止まった。
「もう引っ越すの?」と私は尋ねた。
「サラ、今は話している場合じゃないの」
「じゃあ、ネイサンの時計について説明してちょうだい」
「中古で買ったのよ」
「私が刻印したメッセージが入っている時計を?」
彼女は視線をそらした。
「彼と不倫していたの?」
「まさか!」
「だったら、どうして逃げるの?」
「逃げてなんかいないわ!」
「それなら、本当のことを話して」
彼女の表情が険しくなった。
「あなたの夫は、あれだけの問題を起こす価値もない男だったわ」
そう言い残し、彼女は家の中へ消えた。
アイビーが何を隠しているにせよ、彼女は真実を話すより、街を去ることを選ぼうとしていた。
⸻
その日の午後、知らない番号からメッセージが届いた。
知らない番号:
「母から何があったのか聞きました。一度、話をしませんか?」
私:
「どなたですか?」
知らない番号:
「ヴァネッサです。ネイサンの妻です」
私はそのメッセージを3回読み返した。
そして、すぐに電話をかけた。
「彼の、何ですって?」
女性がため息をついた。
「妻です。まあ、正確には、もう別居していますけど」
「あなたは誰なの?」
「アイビーの娘です」
ヴァネッサ。ネイサンの妻。
私は椅子に座り込んだ。
5年間、私はネイサンがほかの女性のために私を捨てたのかどうか、ずっと考え続けていた。
今、その答えを知った。
でも、彼の不倫は、これから明らかになる話の中で、最も衝撃の少ない部分にすぎなかった。
⸻
月曜日の午後、ヴァネッサはカフェで私と会った。
「母がしたこと、本当にごめんなさい」と彼女は切り出した。
「あなたは、いつから私のことを知っていたの?」
「母が引っ越したあと、全部話してくれたの。いつかあなたが私を見つけるかもしれないと思って、罪悪感を軽くしたかったんでしょうね」
私はコーヒーカップを握りしめた。
「分かったわ。最初から話しましょう。あなたたちは、そもそもどうやって知り合ったの?」
「職場で出会ったの」とヴァネッサは説明した。
「彼は、あなたたちの結婚生活はもう終わりかけているって言っていたわ」
「あなたは、それを信じたの?」
「信じたかったのよ」
「ジョエルのことは知っていた?」
「ええ」
「それでも彼と一緒にいたの?」
ヴァネッサは目を伏せた。
「そのあと、私が妊娠したの。ネイサンは、どちらかを選ぶと約束したわ」
「そして、彼が選んだのは、私たちを見捨てることだったのね」
「本当にごめんなさい、サラ」
「それで、あなたは彼と結婚したの?」
「あなたたちが離婚したあとにね。娘もいるの。リリーという名前で、今4歳よ」
私は、最も重要な質問をした。

「どうしてあなたのお母さんは、私の家の近所に引っ越してきたの?」
「ネイサンに頼まれたからよ」
「何ですって?」
「母が引っ越したあとになって、ようやく教えてくれたの」
「あなたは知らなかったの?」
「母はただ別の地域に住みたかったんだと思っていたわ。でも、実際は違った。ネイサンは何年もの間、あなたを監視するために母を利用していたのよ」
「それで、あなたは私に連絡してきたの?」
「そうよ。あなたには知る権利があるから」
「何を知る権利があるというの?」
「ネイサンが母を利用して、あなたの様子を探らせていたこと。彼は母に会いにすら来なかったの。自分の車をあなたに見られるのが怖かったから」
「アイビーは、何を報告していたの?」
「ジョエルの学校のこと、趣味のこと、幸せそうかどうか。それから、あなたに恋人がいるか、経済的に困っているかどうかも」
私は、アイビーから何度も質問されたことを思い出した。
「ネイサンは、アイビーにお金を払っていたの?」
「家賃を援助していたわ。ネイサンは母に、あなたがジョエルに会わせてくれないと言っていたの」
「アイビーは、それを信じたの?」
「信じたかったんでしょうね」
「自分が見捨てた息子の情報を、どうしてそんなに知りたがったの?」
「ジョエルが幸せかどうかを聞いていたの。母が『ええ、幸せよ』と答える限り、ネイサンは自分が息子に何もしていないことを無視できたのよ」
私は5年間、ネイサンが実際よりもずっと良い父親であるかのように、自分に言い聞かせてきた。
でも、もう終わりにする。
父親のふりをしていた年月のすべてについて、彼に責任を取らせるつもりだった。
「どうして、あなたのお母さんはネイサンの持ち物を捨てていたの?」
ヴァネッサの表情が変わった。
「ネイサンが私のもとを去ったからよ。2か月前にね」
「なるほど。彼はもう幸せじゃなかった、とでも言ったの?」
ヴァネッサは私を見つめた。
「彼は、一人になる時間が必要だって言ったわ」
「もちろん、そう言ったでしょうね」
ヴァネッサは目元をぬぐった。
「それに、彼は請求書も残していったの」
「クレジットカード?」
「それと車のローン。全部自分で払うって約束していたのに」
私は思わず笑いそうになった。
ネイサンは5年前、私にもまったく同じことを約束したのだ。
「リリーも、パパはいつ帰ってくるのって何度も聞くのよ」とヴァネッサは付け加えた。
私は言葉を失った。
初めて、私はネイサンが私を捨てて選んだ女性として、ヴァネッサを見ていなかった。
そこにいたのは、自分の娘の父親がなぜ帰ってこないのか、必死に説明しようとしている、もう一人の母親だった。
私は知っていた。
答えを待ちながら、父親の帰りを信じている子どもの顔を。
「ネイサンは今、どこにいるの?」
「母によると、誰かの家に住んでいるみたい。それから、先週、彼が婚約したことを知ったの」
「もう? 誰と?」
「クレアよ」
私はすぐに、彼の公開された婚約発表を見つけた。
ネイサンは、きらめく指輪を身につけた女性の隣で笑っていた。
「一緒に新しい人生を始めるのが待ちきれない」
私はその画面をヴァネッサに見せた。
「この人、約束を卸売りでもしているのかしら?」
ヴァネッサは笑った。
そして、泣き始めた。
私は彼女にティッシュを差し出した。
「いい、ヴァネッサ。私たちは友達じゃないわ」
「分かってる」
「でも、リリーは、ジョエルが5年前にしていたのと同じ質問をしている。どちらの子どもにも、こんな思いをさせるべきじゃない」
「どうすればいいと思う?」
「ネイサンに、いい加減、責任を取らせるのよ」
私はヴァネッサに、未払いの養育費と残された借金について話した。
「彼は、あなたがジョエルに会わせてくれなかったって言っていたわ」とヴァネッサが認めた。
「彼は一度だって会いたいと言ってこなかった。私の電話番号も住所も知っていたのよ。それに、近所に情報提供者までいたみたいね」
ヴァネッサは両手で顔を覆った。
「母は本当に、あんな最低な男のスパイになっていたのね」
「しかも無給で?」
「いいえ、家賃は払ってもらっていたみたい」
「すばらしいわね。養育費を払う余裕はなかったのに、監視活動の予算はあったわけだ」
ヴァネッサは笑った。
しかし、すぐに真剣な顔に戻った。
「サラ、もし私たちが、もう彼に好き勝手させないと決めたら?」
「あなたがそう言ってくれるのを待っていたのよ」
私たちは、そのあとも1時間ほど話し続けた。
話が終わる頃、ヴァネッサは笑顔を見せた。
「これで、木曜日の彼は最悪の気分になるでしょうね」
「いいことだわ。彼は今まで、火曜日を台無しにしすぎたもの」
⸻
その夜、アイビーから電話がかかってきた。
「サラ、あなたを傷つけるつもりはなかったのよ」
「あなたは5年間、私の息子のことを報告し続けていたのよ」
「ネイサンはジョエルがどうしているか知りたがっていたの」
「だったら、ネイサン本人がジョエルに聞けばよかったでしょう」
「私は、助けになっていると思っていたの」
「あなたは、ネイサンが父親としての責任から逃げるのを手助けしたのよ」
「サラ……」
「さようなら、アイビー」
私は電話を切った。
⸻
翌朝、ヴァネッサから電話があった。
「準備は全部整ったわ」
「ネイサンは承知しているの?」
「離婚について話し合うために会うと思っているわ」
「完璧ね」
「ネイサンは、円満に解決したいとまで言っていたわ」
私は、危うくコーヒーを落としそうになった。
「ネイサンが? 円満に?」
「ほかに誰が来るか、彼が知ったときの顔を楽しみにしていて」
5年間、ネイサンはすべての物語を自分の都合のいいように操ってきた。
でも木曜日には、ヴァネッサと私が、自分たちの物語の結末を書く番だった。
⸻
私は約束の時間より早くレストランに着いた。
ヴァネッサはすでに席に座り、メニューを眺めていた。
「もう注文するの?」
「一番高いステーキはどれか考えているの」
「お金持ちになった気分?」
「いいえ。ただ、請求書を見たときのネイサンの顔を想像しているだけ」
私は笑った。
「準備はいい?」
「全然よ」
ネイサンは10分遅れてやってきた。
「ヴァネッサ、愛しい人、実は考えたんだけど……」
そこで、彼は私に気づいた。
「サラ?」
「こんにちは、ネイサン」
彼は私たちを交互に見た。
「これはどういうことだ?」
ヴァネッサは微笑んだ。
「サプライズよ。あなたの過去と現在が、ついに顔を合わせたの」
「冗談だろ?」
「まだね」と私は答えた。「座って」
ネイサンは立ち尽くした。
「ヴァネッサ、離婚について話し合いたいと言ったじゃないか」
「そうよ。でも、あなたには会っておいたほうがいい人がいると思って。あなたとの離婚経験が豊富な人にね」
ネイサンの顔が赤くなった。
「サラ、ヴァネッサは君を操っているんだ」
「面白いわね。ヴァネッサも、あなたがそう言うって予想していたわ」
ヴァネッサが指を一本立てた。
「正確には、あなたは最初にサラを嫉妬深い女だと言うって予想していたのよ」
ネイサンは怒りを込めてヴァネッサをにらんだ。
「二人とも頭がおかしくなったのか?」
「いいえ。忍耐が尽きただけよ」
私は書類の入ったファイルを開いた。
「ジョエルは今、11歳よ。5年間、養育費は一度も払われていない。ネイサン、あなたが離婚の合意書に基づいて支払うべき金額を、弁護士が確認しているところよ」
ヴァネッサも、もう一つのファイルを私の隣に置いた。
「それから私は、リリーの養育費を確保するための手続きを始めたわ」
ネイサンは書類を見つめた。
「二人とも、俺を訴えるつもりなのか?」
「私たちは、子どもたちが受け取る権利のあるものを求めているだけよ」と私は答えた。
「ばかげている!」
「私もそう思うわ」とヴァネッサが言った。
「子どもが二人、婚約が3回。それでもあなたは、自分が被害者だと思っているのね」
私は首を少し傾けた。
「クレアは、ジョエルとリリーのことを知っているの?」
「クレアを巻き込むな!」
ヴァネッサはスマートフォンを取り出した。
「私が連絡したとき、彼女はかなり興味を持っていたみたいだけど?」
ネイサンの顔から血の気が引いた。
「クレアに連絡したのか?」
「落ち着いて。ただ真実を伝えただけよ」
「そんな権利、お前にはない!」
「面白いわね」と私は言った。
「あなたは、ほかの人の権利なんて気にしたこともなかったくせに」
彼のスマートフォンが振動した。
また振動した。
ネイサンは画面を見た。
「クレアから電話だ」
ヴァネッサは椅子にもたれた。
「婚約者を待たせないほうがいいんじゃない?」
ネイサンは電話を拒否した。
また着信があった。
「あなたの恋愛物語に、突然、一覧表が必要になった理由を知りたがっているんじゃない?」と私は言った。
ヴァネッサが吹き出した。
ネイサンはジャケットをつかんだ。
「もう帰る」
「そうでしょうね」と私は答えた。
「それがあなたの得意技だもの」
ネイサンは立ち止まった。
「サラ、君は何も分かっていない……」
「いいえ、よく分かっているわ。そして、今回は書類の手続きから逃げることはできない」
ヴァネッサは名刺を私のほうへ滑らせた。
「残りは私たちの弁護士に任せましょう」
ネイサンは名刺を見つめた。
そのとき、彼のスマートフォンが3度目の着信音を鳴らした。
ヴァネッサは画面をちらりと見た。
「ずいぶん粘り強い女性ね。もう好きになりそうだわ」
私は立ち上がった。
「話は終わりよ」
「これで終わりなのか?」
「次の婚約について、先に説明しておきたいなら別だけど」
私たちは一緒に店を出た。
⸻
外に出ると、ヴァネッサは深く息を吐いた。
「私たち、本当にやったのね?」
「そのようね」
ヴァネッサのスマートフォンが震えた。
クレア:
「教えてくれてありがとう。何も知らなかった」
「彼女、ネイサンと結婚すると思う?」と私は尋ねた。
「あなたなら結婚する?」
「クーポンをもらっても絶対に嫌よ」
私たちは声を上げて笑った。
いつもなら、会話を終わらせるタイミングを決めるのはネイサンだった。
でも、今回は違った。

家に帰ると、ジョエルが私を待っていた。
「ママ、どうしてアイビーおばさんがパパの時計を持っていたの?」
「理由が分かったわ」
「パパは、僕たちのことを知っているの?」
「知っているわ、かわいい子」
「だったら、どうして会いに来ないの?」
以前の私なら、何か言い訳を考えていただろう。
でも、もう違った。
「どうしてなのか、ママにも分からない。でも、それはあなたのせいじゃないのよ」
ジョエルはうなずいた。
「目を閉じて!」
私が目を開けると、テーブルの上に、不格好な段ボール製の宝石箱が置かれていた。
「ママのアクセサリーを入れるために作ったんだ!」
中には、小さな紙切れが入っていた。
「ママ、大人になったら、本物を買ってあげるね」
私の目に涙が浮かんだ。
「ママ! これは楽しいことなんだから、泣かないでよ!」
「そうね、うれしい涙よ」
「でも、ただの段ボールだよ」
「金とだって交換したくないわ」
ジョエルはにっこり笑った。
「よかった。だって僕、11歳で、お金なんて全然持ってないから」
私は笑いながら、息子を抱きしめた。
「これ、あなたのドレッサーに置いてもいい?」
「もちろん。真ん中に置きましょう」
「曲がっているのに?」
「曲がっているからこそ、いいのよ」
ジョエルは宝石箱を持って、二階へ上がっていった。
「僕、11歳で、お金なんて全然持ってないから」
私は長い間、ネイサンが息子に与えなかったものばかりを心配していた。
でも、私の息子は、捨てられた段ボールから美しいものを作り出していた。
ネイサンは5年間、父親としての責任から逃げ続けた。
そして私は5年間、彼のために言い訳をし続けてきた。
ようやく理解した。
ジョエルに必要だったのは、父親の評判を守ってくれる母親ではなかった。
必要だったのは真実。そして、私たちが築き上げた家族を信じてくれる母親だったのだ。母親は11歳の息子を初めて一人で学校から帰らせた――わずか20分後、隣人から泣きながら電話がかかってきた。「ちょっと外に出てきて。あなたの息子が何をしたのか、自分の目で確かめて」
