夫のライアンはアヴァを迎えに行き、車で家へ送る途中だった。
そのとき、別の車が私たちの車に衝突した。
ライアンは生き残った。
アヴァは助からなかった。
私たちの末娘、ガブリエラはまだ5歳だった。
彼女は誰よりもアヴァのことが大好きだった。
アヴァは学校へ行く前に、いつもガブリエラの髪をとかしてあげていた。
寝る前には絵本を読んであげた。
服を着るのも手伝い、妹にしか思いつかないような endless な質問にも、辛抱強く答えていた。
ガブリエラは、アヴァのすることを何でも真似した。
ほんの小さな癖まで。
アヴァは何かに集中すると、左耳にかかった髪を後ろへかき上げる癖があった。
ガブリエラも、いつの間にか同じことをするようになった。
事故のあと、ガブリエラは何度も同じ質問をした。
「アヴァはいつ帰ってくるの?」
最初は、死というものをできるだけ簡単な言葉で説明しようとした。
次は、別のことに気をそらそうとした。
そして、やがて私は何を言えばいいのか分からなくなった。
そのうち、質問そのものがなくなった。
なぜか、それが質問され続けていた頃よりも怖かった。
家は、アヴァがいるはずだった場所の集まりになっていた。

彼女の部屋。
玄関に置かれた靴。
彼女が好きだったシリアル。
いつも座っていた椅子。
どの部屋にも、失ってしまった人生の残像があった。
ある夜、ライアンはキッチンのテーブル越しに私を見つめていた。
「もう、あの部屋の前を通ることができない」
彼は静かに言った。
「お願いだ、オーロラ」
私は理解した。
少なくとも、そのときはそう思った。
だから彼が、別の街へ引っ越そうと言ったとき、私は反対しなかった。
そこは今の家から車で3時間も離れた街だった。
ライアンは家を探し始めた。
「ここならガビーが遊べる庭もある」
私は物件情報をほとんど見なかった。
「あなたがいいと思うなら、それでいいわ、ライアン」
私は悲しみに囚われすぎて、普通のことですら決めるのが難しくなっていた。
一週間前、私はスーパーで、何も考えずにアヴァの好きだったシリアルを買っていた。
家に帰るまで、自分が何をしてしまったのか気づかなかった。
そのとき私は、何かを変えなければならないと思った。
だから、私たちは家を売った。
家探しのほとんどはライアンが進めた。
当時の私は、それに感謝していた。
決断する気力がなかったから。
そして、ライアンが新しい家を見つけた。
別の街。
別の通り。
別の壁。
新しい人生。
少なくとも、私はそう思っていた。
引っ越して最初の数日間は、不思議なくらい穏やかだった。
新しい壁は、私たちの過去を知らない。
アヴァがどこで眠っていたのかも知らない。
彼女がどこに靴を置いていたのかも知らない。
私たちがどれほど大切なものを失ったのかも知らない。
ところが、ある火曜日の朝。
幼稚園へ行く準備をするはずのガブリエラが、自分の部屋の窓の前に立っているのを見つけた。
「ガビー、靴はどうしたの?」
娘は答えなかった。
ただ、向かいの家を指さした。
「ママ、窓にお姉ちゃんがいた」
私は立ち止まった。
「……何て言ったの?」
ガブリエラはもう一度指をさした。
「アヴァ、あそこに住んでる」
私は窓越しに向かいの家を見た。
その家は、ほとんど人が住んでいないように見えた。
誰かが出入りしているところも、一度も見たことがなかった。
私は娘の隣にしゃがんだ。
「ねえ、アヴァはあそこには住んでいないのよ」
「住んでる!」
ガブリエラは髪を耳の後ろへかき上げた。
目には涙が浮かんでいた。
「どうして、こっちに来てくれないの?」
私は娘を抱きしめた。
「だって、あれはアヴァじゃなかったからよ」
ガブリエラは私を見上げた。
「ママ、見てもいないじゃない」
その言葉には、何も返せなかった。
翌日の午後。
私が食器を unpack していると、ガブリエラがキッチンへ走ってきた。
「ママ、またいる!」
私はすぐに皿を置いた。
「見せて」
娘は私の手をつかみ、二階へ引っ張っていった。
窓に着いたときには、そこには誰もいなかった。
ガブリエラは両手を窓ガラスに押しつけた。
「ママ、またいるの」
そこへライアンが部屋の入り口に現れた。
「どうした?」
ガブリエラは向かいの家を指さした。
「アヴァがあそこにいる」
ライアンの顔を、何かが一瞬だけ横切った。
ほんの一瞬だった。
でも、私は見逃さなかった。
そして彼はすぐに平静を取り戻した。
「オーロラ、あまりこの子を追い詰めないほうがいいかもしれない」
「妹が姉を恋しがっているだけよ、ライアン」
ガブリエラは腕を組んだ。
「見たもん!」
ライアンは娘に近づいた。
「パパと一緒に下へ行こう」
ガブリエラは渋々ついていった。
私は窓辺に残った。
「ライアン」
彼が立ち止まった。
「あなた、あの家に住んでいる人と会ったことがある?」
「ない」
答えが早すぎた。
あまりにも早かった。
ただの簡単な質問なのに。
私は、ガブリエラと一緒に階下へ向かうライアンの背中を見つめた。
そして、その答えが頭から離れなかった。
その夜。
ガブリエラが眠ったあと、私は椅子を彼女の部屋へ運び、窓のそばに座った。
アヴァを探していたわけではない。
アヴァはもういない。
それは分かっていた。
私が探していたのは、ガブリエラがアヴァと見間違えた少女だった。
1時間近く、何も起こらなかった。
やがて、向かいの家のカーテンが動いた。
二階の窓に、少女が現れた。
黒い髪。
アヴァと同じくらいの身長。
少女が顔を横に向けた。
そして、私に気づいた。
家と家の間の距離を隔てて、私たちは見つめ合った。
数秒間、どちらも動かなかった。
すると突然、カーテンが閉じられた。
翌朝、私はアップルパイを作り始めた。
生地を伸ばしていると、ライアンがキッチンに入ってきた。
「それ、何のため?」
「向かいの家の人たちに」
彼のコーヒーカップが、口元で止まった。

「どうして?」
「ガブリエラがあの女の子を2回見たの」
私は少し間を置いた。
「それに、私も見たわ」
ライアンの表情が変わった。
「今日は、もう放っておこう」
私は手を止めた。
「どうして?」
「ガビーが窓から誰かを見たからって、わざわざ向こうへ行く必要はない」
「私も見たのよ」
彼の顎がこわばった。
「分かった。パイができたら、僕が持っていく」
私は彼を見つめた。
「あなた、あの家の人とは会ったことがないって言ったわよね」
「ない」
「じゃあ、どうして自分から持っていくと言うの?」
「君の負担を減らしたいだけだ」
私は何も答えなかった。
20分後。
焼き上がったパイを包んでいる私を、ライアンが見ていた。
「オーロラ、頼むから」
私はパイを持ち上げた。
「もし私があの通りを渡る前に知っておくべきことがあるなら、今言って」
彼の顔から血の気が引いた。
「ただ、怒った状態で向こうへ行かないでくれ」
「私は怒ってなんかいなかった」
私は彼を見た。
「今まではね」
50代後半くらいに見える女性が、ドアを開けた。
「こんにちは。向かいの家に引っ越してきたんです」
女性の表情が、一瞬だけ変わった。
それから笑顔を作った。
「もちろん。私はニーナよ」
私はパイを差し出した。
「ご挨拶にと思って。娘が、あなたの家の二階の窓に誰かいるのを何度か見ているんです」
ニーナの指が、ドアの端をわずかに強く握った。
「私の孫娘がここに住んでいるの」
私は彼女を見つめた。
「私の娘は5歳です。数か月前に姉を亡くしました。それ以来、2回もあなたのお孫さんを姉だと言い張っているんです」
ニーナの笑顔が消えた。
「……本当にお気の毒に」
「昨夜、私もその子を見ました」
家の中から、若い女の子の声が聞こえた。
「おばあちゃん、誰が来てるの?」
ニーナが廊下を振り返った。
「メイジー、ちょっと上で待ってて」
しかし、すでに階段を下りてくる足音が聞こえていた。
少女が彼女の後ろに現れた。
私の手からパイが滑り落ちた。
皿が玄関先で粉々に割れた。
「……嘘でしょう。アヴァ? 一体どういうことなの?」
少女は立ち止まった。
「私はメイジー」
彼女は言った。
「アヴァじゃない」
私は言葉を失った。
近くで見ると、もちろんアヴァではなかった。
でも、黒い髪。
似たような笑顔。
そして――その目。
ライアンと同じ目だった。
そのとき、メイジーが髪を耳の後ろへかき上げた。
私は息をのんだ。
「私はメイジー」
彼女はもう一度言った。
「アヴァじゃない」
ニーナが彼女の隣に立った。
「メイジー、お願いだから上へ行ってて」
メイジーは私たちを見比べた。
「私、何かした?」
「いいえ」
私はすぐに答えた。
メイジーは少し迷ったあと、ゆっくり階段を上っていった。
彼女の姿が消えるまで待ってから、私はニーナを見た。
「あなた、ドアを開けたとき、私を知っているような顔をしたわよね」
ニーナの肩が落ちた。
「あなたがオーロラね」
胃の奥が冷たくなった。
私は自分の名前を一度も告げていない。
「どうして私の名前を知っているの?」
ニーナは階段のほうを見た。
「ライアンは、あなたに話していないのね」
「何を?」
彼女は答えなかった。
そのとき、私は彼女の後ろにあるテーブルの上に置かれた写真に気づいた。
私は玄関から一歩近づいた。
その写真は古いものではなかった。
そこには、メイジーと一緒に写っている私の夫がいた。
ライアン。
私の夫。
「この家に住んでいるお孫さんと、私の夫は、いつから知り合いなの?」
ニーナは私を見た。
「オーロラ、ライアンと話したほうがいいわ」
「私たちがあの家を買う前から、メイジーがここに住んでいることを知っていたの?」
ニーナは答えなかった。
答える必要もなかった。
彼女の顔が、すべてを物語っていた。
突然、私は「どうしてメイジーはアヴァに似ているの?」とは考えていなかった。
考えていたのは――
どうして夫は、私たちをわざわざ彼女の家の真向かいへ引っ越させたのか、ということだった。
私は家へ走って戻った。
ライアンはキッチンに立っていた。
私の手に何もないことに気づいた彼が言った。
「パイ、喜んでくれた?」
「メイジーって誰?」
彼の顔から血の気が引いた。
「メイジーは、あなたにとって誰なの?」
私はドアを閉めた。
「いつから知っていたの?」
彼は答えなかった。
「あなたの娘なの?」
彼は椅子に座った。
「……そうだ」
部屋が傾いたような気がした。
「彼女の母親から連絡が来た。メイジーが父親について聞き始めたんだ」
彼は唾を飲み込んだ。
「DNA鑑定をした」
私はカウンターを強く握った。
「メイジーは、あなたの娘なの?」
「そうだ」
「私たちが引っ越す前から知っていたの?」
ライアンは俯いた。
「……知っていた」
「メイジーが向かいに住んでいるから、この家を選んだの?」
彼はすぐには答えなかった。
その沈黙だけで十分だった。
「……そうなのね」
「どうやって君に話せばいいのか分からなかったんだ、オーロラ」
「何回、メイジーに会ったの?」
「4回」
「ここに引っ越して、まだ2週間も経っていないのよ」
「君が荷物を unpack している間に会いに行った」
私は彼を見つめた。
「アヴァの部屋の荷物を unpack している間に?」
彼は俯いた。
「ガビーの荷物を unpack している間にも?」
彼の顔が崩れた。
「僕は、アヴァを救えなかった」
私は耳を疑った。
「アヴァを救えなかったんだ」
そして彼は両手で顔を覆った。
「事故の音が、毎晩聞こえるんだ。そのあと、自分にもう一人娘がいることを知った。写真を見たら、僕と同じ目をしていた」
私は彼を見つめた。
「あなたは、11年間もその子を知らずにいたのよ」
彼は頷いた。
「そうだ」
「その判断の中で、あなたは私が妻だということを忘れたのね」
「君を守ろうとしたんだ」
「違う」
私の声は静かだった。
「あなたは、私に真実を話すことから自分自身を守ったのよ」
彼は傷ついたように顔を歪めた。
私は一歩近づいた。
「メイジーはアヴァのことを知っていたの?」
「知っている」
「写真を見せた?」
「見せた」
「私たちについて、何て話したの?」
「妻と、二人の娘がいるって」
私は彼を見つめた。
「あなたはメイジーに、アヴァが今も私たちの日常の一部であるかのように話したのね」
「どう話せばいいのか分からなかった」
「あなたは、私たち家族を3時間も離れた街へ連れて行こうとしていた」
彼は何も言わなかった。
私は、聞きたくもない質問をした。
「メイジーを見て、アヴァだったらと思ったことはある?」
「ない」
彼は私の目を見た。
そして視線をそらした。
「……一度だけ」
私は背を向けた。
「彼女が笑ったんだ。一瞬、アヴァの笑い声に聞こえた」
彼の声が震えた。
「すぐに、自分が嫌になった」
それは理解できた。
私だって、朝、ガブリエラの足音を聞いて、廊下にアヴァがいると思って振り返ってしまったことがある。
でも、理解することと、許すことは同じではない。
「メイジーはアヴァじゃない」
「分かってる」
「それに、あなたが救えなかった娘を救い直すための、二度目のチャンスでもない」
ライアンは泣き始めた。
「自分が何をしているのか分からない」
「それだけは、私も同意するわ」
私は鍵を手に取った。
「どこへ行くんだ?」
「もう一度、向かいの家へ行く」
「オーロラ……」
「答えが必要なの」
「ニーナを巻き込まないでくれ。あのことは、彼女の娘と僕の間の問題だった」
「あなたの許可を求めているわけじゃない」
ニーナは、私が戻ってくると慎重にドアを開けた。
「ライアンが話さなかったことを教えてほしい」
彼女は黙っていた。
「最初から話して」
ニーナはため息をついた。
「私の娘は、ライアンがメイジーの父親だとずっと知っていたわ」
「じゃあ、どうして11年も黙っていたの?」
「メイジーには父親が必要ないと思い込んでいたのよ」
ニーナは少し間を置いた。
「でも、メイジーは自分で判断できる年齢になった」
「それでライアンに連絡した?」
「手紙を書いたわ。メイジーのことを伝えて、証明が必要なら父子鑑定を受けると言った」
「それなら、なぜ11年も?」
ニーナは視線を落とした。
「怖かったのよ」
「いつの話?」
ニーナはためらった。
「事故の前よ」
私は彼女を見つめた。
「ライアンは、アヴァが亡くなる前からメイジーのことを知っていたの?」
「自分の娘かもしれない、ということは知っていた。でも、その手紙にはまだ返事をしていなかった」
「その後は?」
「娘に連絡した。二人で鑑定を受けることにしたの」
「そして、ライアンがメイジーの父親だと分かった」
ニーナは頷いた。
ライアンは、別の娘を探していたわけではなかった。
アヴァが亡くなる前に、メイジーが自分の娘かもしれないと知ったのだ。
そして事故のあと、その事実を確定させた。
悲しみが、彼の心をむき出しにしていた。
突然、私は彼の絶望が少しだけ理解できた。
でも、それは彼の行動を正当化するものではなかった。
「私たちをここへ引っ越させるのはやめたほうがいいって、あなたは彼に言った?」
「何度も言ったわ」
そのとき、二階から床板がきしむ音がした。
メイジーが階段に現れた。
「おばあちゃん?」
ニーナが振り返った。
「大丈夫よ」
メイジーは私を見た。
「パパ、困ってるの?」
「そうね」
メイジーの顔が曇った。
「私のせい?」
私は考えるより先に、彼女のところへ歩み寄った。
「違うわ」
メイジーは私を見つめた。
「いい? メイジー。あなたのお父さんは、私に何も話さずにいくつかの選択をした。その責任は、あなたじゃなくて彼にあるの」
「私のこと、知ってると思ってた」
彼女は俯いた。
「アヴァの写真を見せてもらった」
胸が締めつけられた。
「私は、ガブリエラに自分がアヴァだと思われるのが嫌」
「あなたはアヴァになる必要なんてないわ」
私は彼女に言った。
「誰かの代わりになる必要もない。あなたはメイジーでいればいいの」
メイジーは唾を飲み込んだ。
「私、誰かの場所を奪おうとしたんじゃない」
彼女の声が小さくなった。
「ただ……お父さんに会いたかっただけ」
その言葉は、ライアンのどんな言葉よりも強く胸に刺さった。
「あなたにも、真実を知る権利があったのよ」
私は言った。
「そして、あなた自身として、お父さんに会う権利もあった」
メイジーは頷いた。
私はニーナの家を出て、通りを渡った。
家に戻ると、ライアンはベッドの上で開いたバッグの横に立っていた。
彼が何か言う前に、私は口を開いた。
「まず一つだけ。メイジーの母親とは、いつ?」
「僕たちが一度別れていた6か月の間」
「その後は連絡を取っていなかった?」
「手紙が来るまでは」
「しばらく家を出て」
ライアンが私を見た。
「近くのモーテルでもいい。どこかへ行って」
「メイジーは?」
「メイジーは私に嘘をついた人じゃない」
彼の顔に安堵が浮かんだ。
私は、それを許しだと勘違いさせないようにした。
「私は、ここにいる3人の女の子を守っているの」
彼が私を見る。
「ガブリエラが、アヴァが戻ってきたんじゃないかと、もう一日だって悩まなくて済むようにする」
私は続けた。
「アヴァの記憶を、別の子どもへつなぐための橋にしてはいけない」
そして、
「メイジーも、誰かの代わりになるためにここへ来た子として扱われてはいけない」
ライアンは目を伏せた。
「そんなつもりじゃなかった」
「分かってる」
彼が顔を上げた。
「でも、悲しみがあなたを追い詰めた理由を説明することはできても、他の人たちの人生を勝手に決めていい理由にはならない」
彼はベッドの端に座った。
「僕たち、やり直せるかな?」
「分からない」
「オーロラ……」
「あなたは街を選んだ」
彼は何も言わなかった。
「家も選んだ」
彼は目を伏せた。
「私が真実を知るタイミングまで選んだ」
私は少し間を置いた。
「私の答えまで、あなたが選ぶことはできないわ」
その夜、ガブリエラが私のベッドに入ってきた。
私は、できる限りのことを娘に話した。
「パパはどこ?」
「しばらく別の場所に泊まってるの」
「ママはメイジーに怒ってる?」
「怒ってないわ」
「よかった」
ガブリエラは少し考えた。

「メイジーは、パパに嘘をつかせたんじゃないもんね」
私は娘の頭にキスをした。
「そうよ」
「メイジーのせいじゃない」
翌朝、私はアヴァの箱を一つ開けた。
中には、キッチンで小麦粉まみれになりながら笑っているアヴァとガブリエラの写真が入っていた。
ガブリエラが、私が写真を持っているところを見つけた。
「これ、私の部屋に置いていい?」
「もちろん」
私は写真を娘の棚に置いた。
すると、ガブリエラは窓のほうを見た。
「メイジーに会いに行ってもいい?」
私は頷いた。
私たちは通りを渡った。
ニーナが後ろに立つ中、メイジーがドアを開けた。
「ガブリエラがあなたに会いたいって」
私は言った。
メイジーは少しためらった。
「……本当に?」
「これだけは確かよ」
私は彼女をまっすぐ見た。
「あなたはメイジー。ここでは、あなたはあなたのままでいていいの」
3か月後。
ライアンと私は、まだ夫婦として関係を立て直そうとしていた。
もう何も隠されてはいなかった。
だからといって、すべてが元通りになったわけではない。
そんな簡単なことではなかった。
真実が明らかになったからといって、信頼がすぐに戻るわけではない。
でも、子どもたちは、大人たちが複雑にしてしまった状況の中で、自分たちなりの道を少しずつ見つけ始めていた。
ある午後。
ガブリエラとメイジーが、キッチンのテーブルで絵を描いていた。
突然、ガブリエラが言った。
「アヴァは紫が嫌いだったの」
メイジーが笑った。
ガブリエラは彼女をじっと見た。
「本当に?」
「あなたは笑い方が違う」
メイジーは不思議そうな顔をした。
「アヴァと?」
「うん」
ガブリエラはテーブル越しに、紫色のクレヨンをメイジーへ差し出した。
「でも、それでいいの」
私は、メイジーがそのクレヨンを受け取るのを見ていた。
彼女はアヴァの場所を埋めているわけではなかった。
自分自身の場所を作っていた。
そしていつの間にか、娘の記憶を守るということの意味が、私の中で少しずつ変わっていった。
それは、すべての場所を空けたままにしておくことではなかった。
誰かが私たちの人生に再び笑い声をもたらすことを拒むことでもなかった。
それは、アヴァがどんな子だったのかを、そのまま覚えておくことだった。
そして何より大切なのは、二度と別の子どもに、アヴァが立っていた場所に立つことを求めないことだった。
アヴァは、私の娘。
メイジーは、メイジー。
ガブリエラは今も、姉のいない人生をどう生きていくのかを学んでいる。
そして私は学び始めていた。
悲しみは、いつもすべての扉を閉ざすことを求めているわけではない。
時には、過去と決して混同することなく、真実のための場所を作ることを求めているのだ。
