半年間、13歳の息子エヴァンは、土曜日のアルバイトでもらう給料を、ずっと欲しがっていた自転車のために貯めていると言っていた。
でも、自転車はいつまで経っても現れなかった。
そして、エヴァンは自分のお金について、妙に口を閉ざすようになった。
そんなある土曜日、彼の職場の店主から電話がかかってきた。
たった一つの質問をされた私は、車のキーをつかんだ。
すべてが変わることになるとは、そのときはまだ知らなかった。
エヴァンが土曜日のアルバイトを始めたことを知ったのは、ある晩、帰宅した彼からフライヤーの油とレモン石けんの匂いがしたからだった。
「どこに行ってたの、エヴァン?」
彼はその場で固まった。
「仕事……」
「どこで?」
「アルバレスさんが経営してるダイナー。土曜日に手伝わせてもらってる」
私は息子を見つめた。
「私に黙ってアルバイトを始めたの?」
彼はうつむいた。
「自分で自転車を買いたかったんだ、ママ」
それを聞いたとき、私は少し誇らしく思った。
ところが、半年が経っても、自転車は買われなかった。
毎週、いくら貯まったのか聞くと、答えはいつも同じだった。
「もう少しだよ」
一週間前、私はエヴァンの部屋の前を通りかかった。
私に気づいた瞬間、彼が何枚もの紙幣を慌ててリュックに押し込むのが見えた。
別の土曜日には、彼はいつもより2時間近く遅く帰ってきた。
スニーカーには乾いた泥がつき、シャツの袖は破れていた。
「どうしたの?」
「帰る途中で転んだだけ」
「給料は?」
彼の目が下を向いた。
「安全なところにある」
私は息子をじっと見つめた。
「エヴァン。何があったの?」
「何もないよ、ママ」
でも私は、もうその「何もない」という言葉を信じられなくなっていた。
そして、その土曜日の午後。
私の携帯電話が鳴った。
画面には、アルバレスさんの名前が表示されていた。
「もしもし?」
「お母さん……エヴァンのことで、少し話があります」
私はキッチンのテーブルから立ち上がった。
「エヴァンが何かしたんですか?」
「正直、どう説明したらいいのか……」
「どういう意味ですか?」
彼は少し黙った。
そして、こう聞いた。
「エヴァンが毎回、給料をどうしているかご存じですか?」
「自転車を買うために貯めているって……」
「……あの子があなたに言っていることは、全部嘘です」
私は言葉を失った。
その瞬間、電話の向こうからエヴァンの叫び声が聞こえた。
「お願い! ママには言わないで!」
何かが大きな音を立てて倒れた。
「エヴァン!?」
私が叫ぶと、アルバレスさんが荒い息をしながら電話に戻った。
「お母さん、今すぐ来てください。息子さんが……またやろうとしたんです」
そして電話は切れた。
私がダイナーに駆け込んで、最初に目にしたのは、床にひっくり返った金属製の食器入れだった。
その真ん中に、エヴァンが立っていた。
エプロンはびしょ濡れ。
袖は肩のところでねじれ、頬は口論のせいで真っ赤になっていた。
そして彼の向かいには、年配の男性が立っていた。
男性は白い封筒の片方を握っていた。
エヴァンも、もう片方を握っていた。
「返せよ、カル!」
エヴァンが叫んだ。
「ダメだ」
「俺のだ!」
「だから返さないんだ」
カルはそう言った。
アルバレスさんが入口にいる私に気づいた。
「お母さん……来てくれてよかった」
エヴァンが振り返った。
私を見た瞬間、彼は封筒から手を離した。

「……ママ?」
「何が起きてるの?」
誰も答えなかった。
私は封筒を指さした。
「それ、給料?」
エヴァンは床を見つめた。
「……うん」
「じゃあ、どうしてカルさんが持ってるの?」
カルは封筒をカウンターに置いた。
「この子が、給料を全部俺に渡そうとしたからだ」
私はエヴァンを見た。
「何ですって?」
「違うんだ……」
エヴァンが小さな声で言った。
カルが腕を組んだ。
「じゃあ、どういうことなのか説明しろ」
エヴァンが顔を上げた。
「余計なことするなよ」
「エヴァン」
私が厳しく名前を呼ぶと、彼は黙った。
私は給料の封筒を手に取った。
「どうしてカルさんにお金を渡そうとしたの?」
答えはすぐに返ってきた。
「借りがあったから」
カルがカウンターを手のひらで叩いた。
「ほら、それだよ! ずっとそれを言ってるんだ」
「本当に借りがあったんだ」
「何の借りだ?」
「助けてもらったから」
カルが呆れたように息を吐いた。
「先月、ジャガイモの箱を12個運ぶのを手伝っただけだろ? そのために給料全部よこせっていうのか?」
エヴァンは睨み返した。
「それとは違う」
「何が違うんだ?」
「……違うんだよ」
私はアルバレスさんを見た。
「誰か、何が起きているのか説明してもらえませんか?」
店主はレジにもたれかかった。
「エヴァンが自転車のためにいくら貯めていると思います?」
その質問に、私は戸惑った。
「分かりません。ずっと『もう少し』って言ってるだけで……」
アルバレスさんはゆっくりとうなずいた。
「ここでも同じことを言っています」
エヴァンの表情が変わった。
「やめてよ……」
でもアルバレスさんは続けた。
「半年間で、エヴァンが実際に自分の手元に残した給料が何回分あると思います?」
私は黙って待った。
「……1回だけです」
一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「1回?」
アルバレスさんがうなずいた。
「最初の給料だけです」
私はエヴァンを振り返った。
「じゃあ、残りのお金はどこへ行ったの?」
「ママ……」
「どこへ?」
エヴァンは答えなかった。
その沈黙は、床に散らばった食器よりも私を不安にさせた。
エヴァンは、もう1年近く、あの中古のマウンテンバイクを欲しがっていた。
初めて私に見せたとき、私は買うのを手伝おうとした。
「嫌だ。自分で働いて買いたいんだ、ママ」
当時の私は、本当に誇らしかった。
エヴァンが10歳のとき、私たちはジェレミーを失った。
それ以来、エヴァンは私に何かをねだることがほとんどなくなった。
このダイナーは小さな家族経営の店だった。
アルバレスさんも近所で私たちのことを知っていた。
エヴァンが働いていることを知ったあとも、私はアルバイトを続けることを許した。
仕事内容は、テーブルの片付け、軽い掃除、食器洗いの手伝い程度だったからだ。
私は店内を見回した。
「お金はどこへ行ったの?」
エヴァンは腕を組んだ。
「俺のお金だよ」
「そう。でも、あなたはまだ13歳よ」
「だからって、何でもママに話さなきゃいけないわけじゃない」
「そうね。でも、あなたが大人に給料を全部渡そうとして、食器まで壊すようなことになったら……秘密にしておく理由はなくなるわ」
そのときだった。
私はエヴァンの足元に何かが落ちているのに気づいた。
食器入れが倒れた拍子に、彼のリュックが開いていた。
中から何通もの封筒と、折りたたまれた市バスの路線図がこぼれていた。
私はしゃがんで拾い上げた。
エヴァンがすぐに動いた。
「ママ、それは……」
だから私は、余計にそれを拾った。
彼は完全に固まった。
私は近くのテーブルに地図を広げた。
そこには赤い丸がいくつも書かれていた。
6つ……いや、7つくらい。
その横には、エヴァンの小さな字でメモが書かれていた。
「タイヤ」
「ミスターT」
「散髪」
「店のおばさん」
一つの住所には何度も線が引かれ、その下に別の通りの名前が書き直されていた。
二つの丸の横には金額まで書かれていた。
180ドル。
65ドル。
私はエヴァンを見た。
「これ、何?」
「何でもない」
アルバレスさんが苛立ったように言った。
「それ、あの子の一番好きな言葉ですよ」
私は地図を指さした。
「あなた、バスに乗って町中を回ってたの?」
「……時々」
「一人で?」
「俺、5歳じゃないよ」
「13歳でしょう。しかも、私に黙って誰かにお金を渡すための地図まで作ってた」
「人にお金を払ってたんじゃない」
カルが眉を上げた。
「さっき俺に給料を渡そうとしただろ」
「あれは違う」
私は「タイヤ」と書かれた場所を指した。
「これは何?」
エヴァンは目をそらした。
カルが代わりに答えた。

「メイソン通りのタイヤ屋だ」
私はカルを見た。
「どうして知ってるの?」
「先月、こいつをそこまで追いかけたからだ」
エヴァンが叫んだ。
「追いかけた!?」
カルは肩をすくめた。
「こいつ、何度も俺に金を押しつけようとしてきたんだ。それなのに、みんなには『自転車のために貯めてる』って言ってる。だから、残りの金がどこに行ってるのか知りたかった」
「尾行したの?」
「3ブロック後ろを歩いただけだ」
「それを尾行って言うんだよ!」
「もういいだろ! 途中で疲れてバスに乗ったんだから」
メイソン通りのタイヤ屋。
私はその店を知っていた。
でも、ジェレミーが亡くなった冬以来、一度も行っていなかった。
私は地図を折りたたんだ。
「リュックを持って」
エヴァンの目が大きくなった。
「どこへ行くの?」
「タイヤ屋さんよ」
「嫌だ」
「エヴァン」
「ママ、お願い」
その「お願い」は、いつもと違っていた。
反抗ではない。
怯えていた。
「そこで何を見つけるの?」
私は問い詰めた。
エヴァンは唾を飲み込み、窓の外を見た。
「何もないよ」
カルが首を振った。
「またそれだ」
私はアルバレスさんに給料の封筒を渡した。
「これ、預かっていてもらえますか? 戻るまで」
「ずっと本人に持っておけと言ってるんですがね」
エヴァンはリュックをつかんだ。
「みんな大嫌いだ」
カルが背中越しに叫んだ。
「それは13歳として正常だ。そこだけは安心しろ」
車の中で、エヴァンは黙ったまま助手席に座っていた。
私たちはメイソン・タイヤへ向かった。
その場所のことを、私ははっきり覚えていた。
ジェレミーが亡くなって4か月後。
凍えるような2月の雨の日、私たちの古いセダンがパンクした。
私は修理だけしてもらうつもりで、メイソン・タイヤへ車を持っていった。
20分後、店主は言った。
「もう一本も、ほとんど溝がありません」
私にはタイヤ1本分のお金しかなかった。
2本は無理だった。
私はカウンターのそばに立っていた。
当時10歳だったエヴァンは、誰かにもらったホットチョコレートを飲んでいた。
私は店主に尋ねた。
「もう一本は、2週間待ってもらえませんか?」
彼は私を見た。
それからエヴァンを見た。
そして、2本とも交換してくれた。
「2本目の分は払えません」
私がそう言うと、彼は請求書を私のほうへ戻した。
「今日は払わなくていい」
私はそのあと、車の中で泣いた。
その日のことを、何年も思い出していなかった。
でも今、エヴァンの地図に書かれた「タイヤ」の文字を見て、すべてを思い出した。
店に入ると、あのときの店主がカウンターの奥にいた。
今では白髪が増えている。
彼は顔を上げた。
そしてエヴァンを見るなり、目を見開いた。
「……まさか」
エヴァンが立ち止まった。
店主は息子を指さした。
「君、もう来ないって約束しただろ」
私は二人を見比べた。
「何をしたんですか?」
そのとき、店主は私に気づいた。
「あ……リンダ?」
「はい」
彼はもう一度エヴァンを見て、目を閉じた。
「この子……」
エヴァンがすぐに言った。
「ママには言わないって言ったじゃん」
「言ってない」
「今から言うんでしょ」
店主はカウンターから出てきた。
「リンダ。数か月前、息子さんがここに来たんです」
私はエヴァンを見た。
「180ドルを持っていました」
私はさらに息子を見た。
「彼は『タイヤ代を返しに来た』と言ったんです」
私は店主を見つめた。
「……あのときのタイヤ?」
「そうです」
「13歳の子からお金を受け取ったんですか?」
店主の顔が赤くなった。
「最初は受け取りませんでした」
エヴァンが小さくつぶやいた。
「この人、20分くらい説教したんだよ」
「だって、あと30秒で君の母親に電話するところだったんだぞ!」
「お客さんに迷惑だって言ったじゃん」
「実際、迷惑だったからな」
私は手を上げた。
「何があったんですか?」
店主はため息をついた。
「この子、どうしても帰ろうとしなかったんです。仕方なく封筒を預かりました。あとであなたに返す方法を考えようと思って」
彼はレジの下の引き出しを開けた。
そして、古びた白い封筒をカウンターに置いた。
表には、エヴァンの字で二つの言葉が書かれていた。
「タイヤ代」
私は息子を見た。
「これ……ずっと取っておいたの?」
店主がうなずいた。
「1ドルも使ってません」
エヴァンが封筒に手を伸ばした。
私はそれを止めた。
「ダメ」
彼の目が鋭くなった。
「俺のお金だよ、ママ」
「このお金はね、あなたが生まれる前から私のものだったの」
店主が思わず笑いそうになった。
でもエヴァンは笑わなかった。
彼は手を引っ込めた。
「タイヤが必要だったんだ」
「分かってる」
「だから返さなきゃ」
「違うの」
私は首を振った。
「返す必要があったのは、私よ」
エヴァンは本当に分からないという顔をした。
私は封筒を見つめた。
そして、もう一度バスの路線図を広げた。
タイヤ屋。
床屋。
食料品店。
エヴァンが通っていた小学校の近く。
人。
場所。
金額。
そこで初めて、私は考え方を変えた。
エヴァンがお金を何に使っていたのかではない。
――誰に借りがあると思っているのか。
それが問題だった。
私は息子を見た。
「どうして、こんなことを覚えてるの?」
エヴァンは、たった4つの言葉で答えた。
「パパなら覚えてるから」
私は動けなくなった。
店主も目をそらした。
私は地図をゆっくり下ろした。
「……パパが、このことと何の関係があるの?」
エヴァンはリュックをつかんだ。
「何もない」
今度は、私はドアの前に立った。
「エヴァン」
「どいて、ママ」
「嫌よ」
彼の目に涙が浮かんだ。
その涙のほうが、怒鳴り声よりずっと怖かった。
「お願い、ママ」
「話して」
「言えない」
「どうして?」
彼は袖で乱暴に顔を拭いた。
そして、私の手にある地図を見た。
赤い丸。
一つ一つの場所。
私たちにとって最も辛かった一年とつながっている場所。
そして、とうとう小さな声で言った。
「だって……ママは、やめなさいって言うから」
その瞬間、私は地図を見つめ直した。
息子が毎週土曜日に何をしていたのか。
それは決して、自転車を買うためだけではなかった。
そして、すべては父親から始まっていた。
私はエヴァンを見つめた。
「何をやめろっていうの?」
エヴァンは床を見た。
「パパができないこと」
私は動きを止めた。
彼はもう一度、涙を拭った。

「パパが死んだあと、みんなが俺たちを助けてくれた」
「タイヤも。食べ物も。送り迎えも。散髪も」
彼は地図を見た。
「パパはいつも言ってたんだ」
「人にしてもらったことは、ちゃんと返すんだって」
私は、ある土曜日のことを思い出した。
泥だらけになって、いつもより遅く帰ってきたエヴァン。
「その日はどこにいたの?」
エヴァンは片方のスニーカーを地面にこすりつけた。
「ドネリーさんのところ」
その名前を聞いた瞬間、私は思い出した。
彼女はジェレミーが亡くなった頃、私たちの家から2本先の通りに住んでいた。
私が仕事から抜けられないとき、何か月もの間、エヴァンを学校まで迎えに行ってくれた人だ。
「シャツはどうしたの?」
「彼女の裏庭のフェンスが倒れたから、直すのを手伝った」
私は言葉を失った。
私はエヴァンを連れて、ジェレミーが大好きだった公園へ向かった。
自転車道のそばに座り、二人の間には古びたバスの路線図が置かれていた。
しばらくして、私は言った。
「あなたのお父さんは、ドネリーさんのはしごを11年間借りてたのよ」
エヴァンが私を見る。
「え?」
「11年」
「そんなわけない」
「本当よ」
私は少し笑った。
「それからアルバレスさんからお金を借りたこともあった。返すのを半年も忘れてた」
エヴァンは黙って聞いていた。
「パパは人を助けた。でもね、パパもたくさんの人に助けてもらったの」
エヴァンは地図の赤い丸を見つめた。
「でも……パパはもう、自分の分を返せない」
私は息子の隣に少し近づいた。
「あなたが受け継いだのは、パパの優しさよ」
「パパのやり残した仕事じゃない」
その言葉を聞いた瞬間、エヴァンはとうとう泣き崩れ、私の肩に寄りかかった。
「俺……ママには俺が必要だと思ってた」
私は息子を抱きしめた。
「私が必要だったのは、息子よ」
「もう一人の大人じゃない」
その後、私たちはダイナーに戻った。
カルはエヴァンの給料袋を指さした。
「それをもう一度俺に渡そうとしたら、俺、2回引退するからな」
エヴァンの口元に、ほんの少し笑みが浮かんだ。
そしてゆっくりと、彼は封筒を自分のポケットに入れた。
それから数か月後。
エヴァンはついに、念願だった中古の自転車を買った。
ある午後、公園で自転車に乗っていると、小さな男の子のチェーンが外れているのに気づいた。
エヴァンは自転車を止め、チェーンを直してあげた。
男の子の父親が尋ねた。
「いくら払えばいいかな?」
エヴァンは少し考えた。
そして笑った。
「困ってる人を見つけたら、その人を助けてあげて」
そう言って、エヴァンは再び自転車にまたがった。
「ママ! タイム測って!」
私は、あの古いバスの路線図を広げた。
裏側には、エヴァンが自転車道の地図を描いていた。
その横には、こう書かれていた。
「ベスト記録:38秒」
私はスマートフォンを構えた。
「よーい……スタート!」
エヴァンは、自転車をこいで走り出した。
そして、息子はそのまま走り続けた。
