71歳になって、私は何十年もの間ずっと夢見ていたクルーズ旅行に、ようやく出かけることにした。
そして、まさか隣のテーブルに座っていた魅力的な男やもめに、心を奪われることになるなんて思ってもいなかった。
ところが最終日の夜、私は彼の後を追って船の下層デッキへ向かい、そこで――自分のものではない客室の前に、私のスーツケースが置かれているのを見つけた。
私は、広い海の景色を眺め、穏やかなディナーを楽しみ、静かに日常から離れることだけを期待していた。
リチャードのことなど、まったく予想していなかった。
彼は74歳。妻を亡くしたばかりの男性で、ユーモアがあり、自然と人を惹きつける魅力を持っていた。

最初の夜、彼は私の隣のテーブルに座っていた。
3日目の朝には、私たちは一緒に朝食を取るようになっていた。
そして6日目。
私は、夫を亡くして以来、自分の中に閉じ込めていた感情を、再び感じ始めていた。
希望。
最後の夜、船上でリチャードはシャンパンを注文した。
「思いがけない、人生二度目のチャンスに乾杯」
そう言って、彼はグラスを掲げた。
私は微笑んだ。
その瞬間、彼のスマートフォンが鳴った。
画面を見た途端、彼の表情が変わった。
「すぐ戻るよ」
そう言って、彼は立ち上がり、その場を離れていった。
突然こわばった彼の顔が、なぜか気になって仕方がなかった。
そして、彼が「乗組員専用」と書かれた階段の向こうへ消えていくのが見えた。
好奇心に負けた私は、彼の後を追った。
リチャードは下層デッキへ降り、角を曲がったところで姿を消した。
そのときだった。
私は、あるものを目にした。
私のスーツケースだった。
それは、018号室の前に置かれていた。
私はその場で凍りついた。
ほんの1時間前まで、そのスーツケースは自分の客室の中に鍵をかけて置いてあったはずだ。
私は急いでスーツケースに駆け寄った。
荷物タグはまだ付いている。
そこには――
私の名前。
私の客室番号。
何もかも、間違いなく私のものだった。
「リチャード?」
返事はなかった。
私は客室のドアに手を伸ばした。
ドアは、開いた。
中は真っ暗だった。
そして次の瞬間、ベッドの上に何かが置かれているのが見えた。
私の赤いスカーフ。
その隣には、写真の束が置かれていた。
何十枚もの写真。
そこに写っていたのは――私だった。
船に乗り込む私。
朝食を取る私。
一人でバルコニーに立つ私。
しかも、その中には明らかに、私とリチャードが初めて言葉を交わす前に撮影された写真まであった。
私の手が震え始めた。

そのとき――
背後から足音が聞こえた。
私は振り返った。
ドアのところに、リチャードが立っていた。
彼の顔からは血の気が引いていた。
「……ここに来るべきじゃなかった」
私は写真を指差した。
「これは一体、何なの?」
リチャードが答えるより先に、突然、船内に警報が鳴り響いた。
リチャードが一歩前に出て、私の腕をつかんだ。
「ここを出ないと。今すぐだ」
私は彼の手を振りほどいた。
「嫌よ」

私は彼をまっすぐ見つめた。
そして、低い声で言った。
「まず、何が起きているのか――全部説明してもらうわ。」
