愛人と9日間を過ごした後、アイボリー色のバラを抱えて帰宅した私を待っていたのは、妻と生まれたばかりの息子が家から姿を消していたという現実だった。

第1章:テーブルの上のバラ

家に帰ってきて、最初に気づいたのは、誰も出迎えに来ないということだった。

妻もいない。
家政婦の姿もない。

生まれたばかりの息子が、かすかな声で泣く音さえ聞こえなかった。

私はベル・ミードにある自宅の大理石の玄関ホールに立ち、片手に淡いアイボリー色のバラの花束、もう片方の手に一泊用のバッグを持っていた。耳を澄ますと、何かがおかしいと感じさせる静けさが家中を満たしていた。

この瞬間を、私はこの9日間、何度も頭の中で思い描いていた。

2階の子ども部屋で、オーウェンを胸に抱きながら座っているコリーヌ。

また眠れない夜を過ごし、疲れ切っている彼女。

私が鍵を開ける音を聞いたとき、彼女の表情が変わるところ。

きっと、私が予定より長く家を空けたことに傷ついているだろう。

失望もしているかもしれない。

それでも、私が帰ってきたことに安堵するはずだった。

彼女はいつだって、私を許してくれたから。

そして私は、バラを持って帰ってきた。

いつもそうしていた。

今となっては、花を贈れば不在だった時間を帳消しにできると信じていた自分を認めるのも恥ずかしい。

この9日間の大半を、私はチャールストン郊外のリゾートで過ごしていた。

相手はテッサ・ヴォーン。もう1年近く関係を続けている、私の愛人だった。

コリーヌには、高級住宅開発の現地視察と投資家との面談に行くのだと伝えていた。

厳密に言えば、その両方は確かに行った。

現地視察は90分で終わった。

投資家との昼食会は2時間だった。

それ以降の時間は、すべてテッサのものだった。

海を望むレストランでの夕食。

シャンパン。

プライベートヴィラ。

普通の人が1か月働いても稼げないほど高価なブレスレット。

そして、妻が私の息子を出産したばかりで、体を回復させている間、鍵のかかった部屋で過ごす長い午後。

帰りの車の中で、私は家に着いたら話すつもりの言い訳を何度も練習していた。

プロジェクトが複雑だった。

投資家からの要求が厳しかった。

携帯電話の電波がひどかった。

オーウェンの小児科の診察に付き添えなかったことは申し訳ない。

埋め合わせは必ずする。

バラを渡せば、少しは状況がよくなるはずだった。

これまでは、そうだったのだから。

だが、家の中は静かすぎた。

私はバッグを床に置いた。

「コリーヌ?」

リビングルームを見渡した。

大きな窓のそばに置かれていたはずのベビーベッドがなくなっていた。

オーウェンが退院してから3週間、コリーヌはそこにベビーベッドを置いていた。午後の光を浴びると、オーウェンが落ち着くのだと言っていたからだ。

私はキッチンへ向かった。

シンクの横には、乾かしている哺乳瓶がない。

コーヒーメーカーの近くにあった粉ミルクの容器もない。

椅子の背もたれに掛けられていたガーゼタオルも見当たらなかった。

普段なら診察の予定や授乳のスケジュールが貼られている冷蔵庫の扉も、ほとんど何もない状態だった。

胸の奥で、何かがじわじわと膨らみ始めた。

「コリーヌ?」

階段の上に、パールさんが姿を現した。

彼女は6年間、私たちの家で働いていた。

私とコリーヌが結婚する前、この家に引っ越してきたときから知っている。

婚約祝いの夕食会の準備も手伝ってくれた。

オーウェンが生まれた朝には、涙を流して喜んでいた。

彼女はいつも、私にも敬意と温かさを持って接してくれていた。

だが、その朝の彼女の顔には、温かさなど微塵もなかった。

パールさんは段ボール箱を抱えて階段を下りてきた。

「パールさん」

「キートンさん」

「コリーヌはどこだ?」

彼女の表情を見て、私は車の中にバラを置いてくればよかったと思った。

「奥様は出ていかれました」

「どこへ?」

「分かりません」

「いつ?」

「12日前です」

一瞬、聞き間違えたのかと思った。

「12日前?」

「はい」

「でも、私は9日前に出発したんだぞ」

「存じています」

そのとき、さらに冷たい考えが頭をよぎった。

「オーウェンも連れていったのか?」

パールさんの目が鋭くなった。

「もちろん、オーウェンも一緒です」

その答えは、思っていた以上に私の胸に突き刺さった。

私は階段に近づいた。

「彼女は母親のところへ行ったのか?」

「分かりません」

「連絡先は残していないのか?」

「ありません」

「何か言っていなかったか?」

パールさんは封筒を差し出した。

「奥様から、これを読むまでは書斎のものに手を触れないようにと言われました」

封筒の表には、コリーヌの整った文字で私の名前が書かれていた。

グラントへ。あなたが帰ってきたときに。

封筒は厚かった。

手紙という厚さではない。

書類が入っているような厚さだった。

私は手を伸ばした。

だが、パールさんはすぐには封筒を離さなかった。

「パールさん?」

彼女の指が封筒の端を強く握りしめた。

「私は、この家で長く働いてきました」と、彼女は小さな声で言った。

「何が自分の口を出すべきことではないのか、分かっているつもりです」

彼女は私の目を見た。

「でも、奥様が病院へ行こうとしていた夜、あなたに連絡がつかず、私が奥様を病院まで車で送ったときから、これは私にも関係のあることになりました」

肺から空気が抜けていくような感覚がした。

「何だって?」

「奥様を病院へ送ったんです」

「いつ?」

「あなたの息子さんが生まれた夜です」

そんなはずはなかった。

コリーヌは、妹に病院へ連れていってもらったと言っていた。

少なくとも、彼女は私にそう話していた。

あの夜、私はアトランタにいた。

いや、正確には、コリーヌにそう伝えていた。

パールさんは返事を待たず、廊下の角を曲がって姿を消した。

玄関のテーブルには、バラの花束が残された。

9日前、私はチャールストンのホテルのロビーでも、まったく同じ花束を持っていた。

テッサはそれを見て笑いながら、花を贈る男は何か後ろめたいことがあるように見えると言った。

彼女は、自分がどれほど正しいことを言っていたのか、知らなかった。

私は書斎に入り、ドアを閉めた。

何年もの間、この部屋は家の中で最も安全な場所だった。

マホガニーの本棚。

革張りの椅子。

不動産開発業界の団体から贈られた賞。

私が資金を出した建物の写真。

そして、私の会社「キートン・デベロップメント・グループ」が特集された雑誌の表紙を額に入れたもの。

机の上には、銀色の写真立てがあった。

中には、私たちの結婚式の写真が入っている。

写真の中で、コリーヌと私は笑っていた。

何がそんなにおかしかったのか、今の私には思い出せなかった。

私は、感情をぶつける手紙が入っているのだと思っていた。

非難の言葉。

もしかしたら、離婚届かもしれない。

だが、最初のページは銀行の取引明細だった。

その次はホテルの領収書。

さらに、その次は電子送金の記録。

すべてに蛍光ペンで線が引かれていた。

すべてに日付があった。

チャールストン。

ナッシュビル。

サバンナ。

アトランタ。

金額。

口座番号。

店舗名。

予約日。

私は次々とページをめくった。

チャールストンのスイートルームの領収書。

4日前、テッサが近くで眠っていた、あの部屋だ。

旅行2日目のレストランの請求書。

宝飾店の請求書。

ダイヤモンドのブレスレット。

私は、コリーヌがその請求について尋ねてきたときのことを思い出した。

私は、プロジェクト管理の上級責任者であるマーティン・ヘイルの退職祝いだと説明した。

コリーヌは数秒間、私を見つめた。

「ダイヤモンドのブレスレット?」

「彼の奥さんが選んだんだ。会社からの贈り物だよ」

当時の私は、彼女が信じてくれた証拠だと思っていた。

だが今、その請求書を手にして、ようやく理解した。

彼女はただ、嘘だと分かっている答えに、これ以上質問するのをやめただけだったのだ。

次の書類は賃貸契約書だった。

テッサがナッシュビルの中心街で借りているアパートの契約書。

契約者の名前は、私ではなかった。

だが、毎月の家賃は、私の持ち株会社の一つにつながる口座から支払われていた。

コリーヌは、すべての送金を追跡していた。

一つ残らず。

銀行明細の一番下に、彼女の手書きのメモがあった。

私が妊娠の最終段階に入り、一人で診察に通っていた間、あなたは別の女性のアパート代を払っていた。

私が生まれたばかりの息子を抱き、眠れない夜を過ごしていた間、あなたはプライベートヴィラを予約していた。

あなたが選んだ人生に、あなたが捨てた人生以上の価値があったことを願います。

私の手が震え始めた。

紙を取り落とした。

「くそ……」

コリーヌは、私と結婚する前、法廷会計の分析官として働いていた。

単なる経理ではない。

家計管理でもない。

法廷会計分析だ。

彼女は長年、隠された資産、不正な送金、ペーパーカンパニーを介した支払い、そして財務上の不整合を追跡する仕事をしていた。

オーウェンが生まれた後、彼女は仕事から離れることに同意した。

私はそれを勧めた。

いや、勧めたというより、強く求めた。

家族には君が必要だと言った。

二人分の収入を私一人で稼げると言った。

母親になる時間を大切にするべきだと言った。

友人たちの前では冗談めかして、コリーヌは表計算ソフトを赤ちゃんのブランケットに交換したんだ、と笑ったことさえあった。

彼女は笑顔を見せていた。

今になって、私は長年見落としていた妻の本質を理解した。

給料を受け取らなくなったからといって、コリーヌが金の流れを追う能力を失ったわけではなかったのだ。

私は会社のメイン口座にログインした。

画面に赤い警告が表示された。

法的審査中につき、アクセスを一時的に制限しています。

同じメッセージだった。

別の口座を試した。

制限中。

さらに別の口座も。

制限中。

私は携帯電話をつかみ、弁護士のウェズリー・クレインに電話した。

彼は4回目の呼び出し音で出た。

「グラント」

「口座に何か問題が起きている」

「ウェズリー?」

「分かっている」

「分かっているって、どういう意味だ?」

「君の妻が、夫婦の共有財産を保全するための緊急命令を申し立てた」

「俺の承認なしに、そんなことができるはずがない」

ウェズリーは疲れたように息を吐いた。

「グラント、緊急命令というのは、通常、もう一方の配偶者に許可を求めるためのものじゃない」

「ばかげている。口座の制限を解除しろ」

「私にはできない」

「なら、できる人間に電話しろ」

「座ってくれ」

「座っていられるか」

「それなら、せめて話を聞いてくれ」

「ウェズリー、妻が息子を連れて出ていき、俺が留守の間に家の中を空っぽにしたんだ。自分の金にアクセスする必要がある」

「彼女は口座を空にしたわけじゃない」

「じゃあ、なぜアクセスできない?」

「夫婦の共有口座、個人口座、そして複数の事業体が管理する口座の間で行われた送金について、疑問が生じているからだ」

「どんな疑問だ?」

「グラント」

「どんな疑問だと聞いているんだ!」

「私が君に、絶対に作るなと忠告していた種類の疑問だ」

口の中が乾いた。

「何を言っているのか分からない」

ウェズリーは、ようやく口を開いた。

「コリーヌの弁護士から3日前に連絡があった」

「誰だ?」

「エレナ・マーサー」

ナッシュビルで、相当な資産を持つ人間なら誰でも、その名前を知っていた。

エレナは、感情に任せて離婚を申し立てる人間の弁護士ではない。

彼女の依頼人は、戦略的に動く。

「彼女は何を持っている?」

「すべてを把握しているわけじゃない」

「今、連絡があったと言っただろう」

「記録を保全するよう通知してきた。それに、会社の外部弁護士にも書類を送っている」

目の奥で脈が打ち始めた。

「どんな書類だ?」

「グラント、会社の口座を通じて何を支払った?」

「事業経費だ」

「本当に、事業経費だけか?」

「ウェズリー……」

「事業経費だけなのか?」

彼の声が変わった。

そこにあったわずかな同情が消えた。

「何が起きているのか把握するまで、電話でこれ以上話すのはやめたほうがいい」

「ここは俺の会社だぞ」

「君には共同経営者がいる」

「少数株主にすぎない」

「融資元もいる」

「個人的な支出に口を出す権利はない」

「個人的な支出を、不動産開発関連の経費として計上していたなら、彼らは当然関心を持つ」

「何も起きていない」

「もう起きているんだ」

「何が?」

「取締役会が、明日の朝、緊急会議を開くことになった」

私は机の上の結婚式の写真を見つめた。

家に帰ってきてから初めて、怒りを超える感情を覚えた。

恐怖だった。

「ウェズリー」

「ああ」

「妻はどこにいる?」

「知らない」

「エレナは知っているのか?」

「ほぼ間違いなく」

「電話番号を教えろ」

「駄目だ」

「なぜだ?」

「今夜、怒りに任せてコリーヌの弁護士に電話するのは、君にとって最悪の選択だからだ」

「怒ってなんかいない」

「グラント、私は18年間、君を知っている」

「コリーヌが何を望んでいるのか、それだけ教えてくれ」

ウェズリーは黙り込んだ。

そして、こう言った。

「君の妻は、君が家に帰って、自分の人生が実際にはどんなものだったのか、ようやく書類の上で見ることを望んでいたんだと思う」

通話は、それから2分もしないうちに終わった。

写真があった。

私はそれを取り出した。

病院のベッドに横たわるコリーヌ。

顔は青白く、濡れた髪が額から後ろへ押しやられていた。

胸の上には、青と白の病院用ブランケットに包まれたオーウェンがいた。

だが、結婚式の写真で見たような笑顔はなかった。

疲れ切った顔。

孤独な表情。

ベッドの横には、誰も座っていない椅子があった。

写真の裏には、コリーヌが日付と時刻を書いていた。

午前2時14分。

あの時間、私がどこにいたのかは、はっきり覚えていた。

アトランタのホテルの一室。

テッサと一緒だった。

写真の下には、最後のメモがあった。

この明細を見れば、あなたはすべてを理解するでしょう。

私は、その一文を二度読んだ。

そして初めて、コリーヌはオーウェンが生まれる前から、テッサの存在を知っていたのではないかと思った。

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第2章:息子の誕生に立ち会わなかった夜

私はオーウェンの誕生について何度も嘘をついた。

そのうち、いつしか真実ではなく、嘘のほうを思い出すようになっていた。

人に話していた内容は単純だった。

私が出張中、コリーヌが突然陣痛を起こした。

飛行機は遅れ、道路は大渋滞だった。

私が病院に着いたときには、すでにオーウェンは生まれていた。

不運な出来事だった。

ほとんど悲劇と言ってもいい。

そう話せば、私は努力したものの間に合わなかった夫に見えた。

だが、真実はもっと醜かった。

私は出張などしていなかった。

テッサと一緒にいたのだ。

コリーヌは妊娠38週だった。

医師からは、いつ赤ちゃんが生まれてもおかしくないと言われていた。

それでも私は出かけた。

テッサが、一緒に過ごす時間が足りないと不満を漏らしたからだ。

彼女は、隠れて会う夕食や、慌ただしい午後にはもううんざりだと言った。

「本当に私を大切に思っているなら、証明して」

そう言われた。

あのとき、不倫関係を終わらせるべきだった。

最初の夜、午後11時47分に携帯電話が鳴った。

コリーヌからだった。

テッサは近くで眠っていた。

私は着信を無視した。

深刻なことなら、コリーヌはメッセージを残すはずだと思った。

実際、彼女はメッセージを残した。

午前0時16分、私はテキストメッセージを受け取った。

グラント、破水したみたい。

お願い、電話して。

私は今でも、そのとき何を考えたか覚えている。

その考えは、ずっと私につきまとっている。

今夜じゃなくていい。

彼女は大丈夫なのか、ではなかった。

息子が生まれる、でもなかった。

すぐに帰らなければ、でもなかった。

ただ、こう思ったのだ。

今夜じゃなくていい。

テッサを起こさないように、私はそれから23分後、バスルームからコリーヌに電話をかけた。

その頃には、パールさんがコリーヌを車に乗せ、病院へ向かっていた。

コリーヌは荒い息をしていた。

「今どこにいるの?」

「アトランタだ」

「帰ってきて」

「帰るよ」

「いつ?」

「できるだけ早く」

「グラント」

「帰ると言っただろ」

「一人なの?」

私は、その質問を聞いた時点で気づくべきだった。

彼女の声は、あまりにも落ち着いていた。

「もちろんだ」

その直後、コリーヌに再び陣痛が襲った。

息を詰める音が聞こえた。

そして彼女は言った。

「分かった」

分かった。

私が病院に着いたとき、オーウェンは生後6時間になっていた。

コリーヌは、なぜ到着が遅れたのか、一度も尋ねなかった。

私はそれを、彼女の優しさだと勘違いした。

窓の外が暗くなるまで、私は書斎で病院の写真を握りしめていた。

やがてパールさんがノックした。

「コーヒーを淹れました」

「大丈夫だ」

「何も食べていないでしょう」

「大丈夫だ」

彼女は、それでもドアを開けた。

段ボール箱をまだ抱えていた。

「それは何だ?」

「封筒を読んだ後で渡してほしいと、キートン夫人に頼まれていたものです」

コリーヌ。

この家では、彼女はずっとコリーヌだった。

だが、私が口を開く前に、パールさんは箱を机の上に置いた。

中には、小さな品々が入っていた。

予備の子ども部屋の鍵。

オーウェンの病院用識別ブレスレット。

額に入った超音波写真。

結婚アルバム。

そして、2か月前に私がコリーヌに贈ったアイボリー色のバラ。

今ではすっかり乾燥していた。

花びらの縁は茶色くなっていた。

「どうして彼女は、こんなものを取っておいたんだ?」

パールさんは箱を見下ろした。

「奥様にとっては、あなたが思っていたのとは違う意味があったのかもしれません」

私はコリーヌに、仕事で遅くなると伝えたことがあった。

実際には、テッサを夕食に連れていっていた。

そのレストランの請求書も、封筒の中にあった。

アイボリー色のバラを贈ることは、いつの間にか習慣になっていた。

嘘が下手すぎて自分でも気まずくなると、私は花を贈った。

結婚記念日の花。

謝罪の花。

君を思っているという花。

私は、それをロマンチックなことだと思い込んでいた。

どうやらコリーヌは、それらを証拠品のように記録していたらしい。

「彼女は知っていたのか?」

パールさんは、分からないふりをしなかった。

「別の女性のことですか?」

「いつから知っていたのか、私には分かりません」

「でも、知っていたんだな」

「はい」

「なぜ私に問いたださなかった?」

パールさんの顔がこわばった。

「あなたは、本当のことを話したと思いますか?」

私は何も答えられなかった。

「だからでしょうね」

そのとき、携帯電話が鳴った。

テッサだった。

彼女の名前を見て、私は一瞬、不思議な安堵を覚えた。

彼女は、私がそれまで理解していた世界に属する人だった。

ホテル。

秘密。

責任を伴わない欲望。

私は電話に出た。

「もしもし」

「家に着いた?」

「ああ」

「再会はどうだった?」

「コリーヌがいなくなった」

「どういうこと?」

「出ていったんだ」

「私たちのことがバレたの?」

「テッサ」

「何?」

「彼女から連絡はあったか?」

「ないわ」

「ほかの誰かからは?」

「誰からもない。グラント、怖いこと言わないで」

私は取引明細を手に取った。

「アパートのことも見つかった」

しばらく沈黙が続いた。

「どうやって?」

「全部見つかったんだ」

「全部って何よ?」

「旅行。宝石。送金」

テッサの呼吸が変わった。

「待って。どこから送金されていたの?」

「どうやって支払っていたか、君も知っていただろ」

「あなたが払っていることは知っていたわ」

「どうして一度も聞かなかった?」

「あなたが自由に使える口座があると言ったからよ」

「実際にある」

「じゃあ、何が問題なの?」

それを聞いて、私は自分がどれほど醜い状況にいるのか、改めて思い知らされた。

「会社の口座が制限されている。明日は取締役会の会議だ」

「コリーヌのせい?」

「ああ」

「彼女にそんなことができるの?」

どうやら、私の人生にいる人間は、みんな同じ反応をするらしい。

「少し考えさせて」

「何を?」

「アパートのことよ」

「何だって?」

「口座が凍結されたら、家賃はどうなるの?」

私は数秒間、言葉を失った。

テッサは急いで続けた。

「自分勝手なことを言っているんじゃないの。ただ、契約者は私だし、あなたは……」

「妻が生まれたばかりの息子を連れて出ていったんだぞ」

「分かっているわ」

「仕事も失うかもしれない」

「分かっているって言っているでしょう」

「それなのに、君は家賃の心配か?」

「だって、私にも影響があるじゃない!」

その一言で、何かが終わった。

不倫そのものではない。

それは、コリーヌの封筒を開けた瞬間に、すでに終わっていたのかもしれない。

だが、私はその関係を包んでいた幻想を失った。

私はもう1年近く、テッサのほうがコリーヌより私を理解していると思い込んでいた。

彼女は私を褒めてくれた。

私が遅れても、その理由を尋ねなかった。そもそも、私たちの関係は、私が遅れてやってくることを前提に成り立っていたからだ。

私が父親として成長しているかどうかなど、彼女は気にしなかった。

病院の診察に付き添うことも求めなかった。

彼女が知っていたのは、予約を済ませ、問題を一時的に隠したまま現れる私だった。

その私なら、簡単に愛せた。

失望させるほど長く一緒にいる必要がなかったからだ。

「また後で電話する」

「グラント……」

私は通話を切った。

パールさんは、ドアの近くに立ったままだった。

「こんな状況になって、満足ですか?」

「いいえ」

「あなたは一日中、私を憎んでいた」

「憎んでなんかいません」

「そうは見えませんでしたけどね」

「あなたはまだ、誰かが自分を罰していると思っているんですね」

「ほかに何だと言うんです?」

パールさんは静かに答えた。

「請求書が届いただけです」

私が返事をする前に、彼女は部屋を出ていった。

その夜、私は家中を探し回った。

コリーヌが本当に出ていったのだと、確かめる必要があった。

彼女のクローゼットは、半分空になっていた。

すべてを持ち去ったわけではない。

半分だけだった。

実用的な服、靴、オーウェンのものを持っていった。

イブニングドレスや高級コート、私が贈った宝石は残されていた。

子ども部屋には、ベビーベッドがそのまま残っていた。

私が触れると、ベッドメリーがゆっくり回り始めた。

3つの小さな雲が、銀色の月の周りを回っていた。

オーウェンが生まれる2週間前、私はそのベビーベッドを組み立てた。

コリーヌは床に座り、私の作業を見ていた。

「側板が逆よ」

「そんなことない」

「逆よ」

確認すると、彼女の言うとおりだった。

私は腹を立てたのを覚えている。

ベビーベッドの横の棚には、ぽっかりと空いた場所があった。

ベビーモニターはなくなっていた。

おむつバッグもなかった。

額に入った病院の写真も消えていた。

私の机の上にあった写真は、わざと残されたものに違いなかった。

そのとき、私はおむつ交換台の下に挟まれた白い封筒に気づいた。

引き抜いてみる。

手紙ではなかった。

個人経営の医療クリニックからの書類だった。

日付は、オーウェンが生まれる5週間前。

患者名は、コリーヌ・キートン。

診療内容の詳細は記載されていなかったが、下部には手書きで診察時のメモがあった。

ストレスに関連する血圧上昇。

患者は一人で来院。

配偶者は対応できず。

私は最後の3文字を、文字がぼやけるまで見つめた。

対応できず。

あの日のことも覚えていた。

コリーヌは3回、私に電話をかけてきた。

私はテッサのアパートにいた。

コリーヌには、融資元との会議中だと伝えていた。

ようやく家に帰ると、彼女はベッドに横になっていた。

「大丈夫か?」

「大丈夫」

「医者は何て?」

「大丈夫よ」

「赤ちゃんは?」

「問題ないわ」

そして私は、コリーヌが何をしていたのか、少しずつ理解し始めた。

彼女は衝動的に出ていったのではない。

記録を残していた。

待っていた。

自分を守っていた。

オーウェンを守っていた。

私がすべてをうまく隠し通せたと思い込んでいた間、彼女は何か月もかけて、家を出る準備をしていたのだ。

携帯電話が振動した。

メールだった。

件名を見た瞬間、胃がひっくり返るような感覚に襲われた。

キートン・デベロップメント・グループ — 緊急取締役会開催のお知らせ

添付ファイルは6つあった。

財務概要。

蛍光ペンで強調された3つの経費分類。

接待費。

コンサルティング費。

開発関連の宿泊費。

その下には、見覚えのある取引が並んでいた。

チャールストン。

ナッシュビル。

サバンナ。

テッサ。

家でついた嘘が、一つ残らず会社の貸借記録にまで入り込んでいた。

そして明日の朝、私はそれらについて説明しなければならなくなった。

⸻

第3章:秘密の生活にかかった代償

取締役会の会議は午前8時に始まる予定だった。

私は7時20分に到着した。

普段、キートン・デベロップメント・グループのロビーを歩くと、私が挨拶する前に、社員たちが先に挨拶してきた。

その朝は違った。

会話が途切れた。

受付の女性たちは目を伏せた。

若いアナリスト2人は、私を待たずにエレベーターへ乗り込んだ。

私は、気のせいだと思い込もうとした。

だが、役員フロアに着くと、会議室の外にウェズリーが立っていた。

ネクタイが曲がっていた。

「どれほど深刻なんだ?」

彼はガラス張りのドアに目を向けた。

「添付資料には目を通したか?」

「一部は」

「私が聞いているのは、そのことじゃない」

「一晩中、起きていたんだ」

「監査チームもだ」

その言葉が胸に突き刺さった。

「監査チーム?」

「外部の法廷会計専門チームだ」

「誰がそんなものを許可した?」

「取締役会だ」

「正気じゃない」

「グラント」

「妻が個人的な経費を見つけただけだ。私はいつだって会社に返金している」

ウェズリーの表情が、黙れと言っていた。

「何だよ?」

「本当に返金しているのか?」

「ああ」

「一貫して?」

彼は続けた。

「初期調査によると、テッサ・ヴォーンに関係する複数の経費が、進行中の開発案件に関連するものに見えるよう分類されていたらしい」

「経費コードを入力したのは私じゃない」

「そうだろう。君のオフィスから提供された説明に基づいて、スタッフが入力したんだ」

「アシスタントが処理している」

「領収書を誰がアシスタントに渡した?」

「誰が精算を承認した?」

会議室のテーブルを囲むように、7人が座っていた。

マーティン・ヘイルもいた。

私たちの大口投資家の一人、デボラ・プライスもいた。

最高財務責任者のネイサン・クロウリーは、私と目を合わせようとしなかった。

そしてテーブルの一番奥には、見覚えのない女性が座っていた。

「彼女は誰だ?」

「法廷会計の専門家だ」

皮肉なものだった。

私の妻である元法廷会計分析官が、その糸口を見つけたのだ。

「コリーヌがすべての資料を送ったのか?」

「まだ分からない」

「どういう意味だ?」

「彼女が提供した資料から懸念が生じた。それで取締役会が独自の調査を命じたということだ」

「彼女は私を破滅させようとしている」

「違う、グラント」

ウェズリーは私を見据えた。

「彼女は自分を守ったんだ。君はその違いを理解しなければならない」

私が反論する前に、会議室のドアが開いた。

「準備が整いました」

それから2時間、私が雇った人間たちは、まるで私が見知らぬ他人であるかのように質問を浴びせてきた。

テッサ・ヴォーンが使っていたコンドミニアムが、なぜダウンタウンの開発業務に関連する役員宿泊施設として計上されていたのか。

顧客が一人も参加していない複数の夕食が、なぜ投資家接待費に分類されていたのか。

なぜ高級リゾートの請求が、チャールストンのプロジェクトコードで処理されていたのか。

なぜ宝飾品の代金が、役員裁量経費の口座を通じて精算されていたのか。

答えられる質問もあった。

だが、大半には答えられなかった。

なぜなら、口に出して説明すると、どれもあまりにも情けなく聞こえたからだ。

「修正するつもりだった」

「アシスタントが分類を間違えたのだろう」

「旅行中の一部の時間は、投資家と会っていた」

「その経費は個人的なものだった」

「返金するつもりだった」

つもりだった。

その予定だった。

間違いだった。

見落としだった。

どの言葉も、繰り返すたびに説得力を失っていった。

やがてデボラが両手を組んだ。

「グラントさん、ヴォーンさんが住んでいたアパートの費用の一部を、会社が負担していたのですか?」

「間接的には」

「それはどういう意味ですか?」

「私が管理する事業体を通じて支払っていた」

「その事業体は、あなたが全額所有しているのですか?」

「全額ではない」

デボラの表情が変わった。

「キートン・デベロップメント・グループは、その事業体の何パーセントを所有していますか?」

「40パーセントだ」

「では、会社はその支払いの40パーセントを間接的に負担していたということですね?」

「すべて返金できる」

「それは私の質問への答えではありません」

「可能性としては……」

創業時からの共同経営者であるハロルド・ベンソンが、顎をさすった。

「まったく、何てことだ……」

私は彼らを見た。

自分自身ではなく、彼ら全員に怒りを感じていた。

「この会社を築いたのは私だ」

ハロルドの目が険しくなった。

「私たちだ」

「このテーブルにいる連中の半分は、私が連れてきた顧客だ」

「だからといって、共同経営の事業体を使って愛人への支払いを隠していいことにはならない」

「私への口の利き方に気をつけろ」

「いや、君こそ、我々の金の使い方に気をつけるべきだ」

ウェズリーが私の腕に触れた。

「座れ」

「これは夫婦間の個人的な問題だ。それを会社ぐるみの魔女狩りに変えている」

そこで、法廷会計の専門家が初めて口を開いた。

「調査対象の記録は、夫婦間の証拠になる前から、会社の記録でした」

彼女の声は落ち着いていた。

「経費が正当なものであれば、調査で明らかになります」

「正当なものでなかったら?」

正午までに、私は一時的な職務停止処分を受けた。

社員証のアクセス権は停止された。

会社の承認権限も凍結された。

調査が完了していなかったため、取締役会は私を即座に解任するところまでは踏み切らなかった。

私は4時間前と同じロビーを通って外へ出た。

今度は誰一人、私を見ようとしなかった。

外に出ると、私はコリーヌに電話した。

すぐに留守番電話へ切り替わった。

もう一度かけた。

同じだった。

3回目に、私はメッセージを残した。

「コリーヌ、俺だ」

「すべてを見た」

「君と話がしたい」

本当は、彼女にやりすぎだと言いたかった。

会社を巻き込む必要などなかったと。

どこにいるのか教えずにオーウェンを連れていったのは、あまりにも残酷だと。

そんな言葉が、口の先まで出かかっていた。

だが、病院の写真を思い出した。

誰も座っていない椅子。

「怒っているのは分かっている」

口にした瞬間、自分が嫌になった。

彼女の感情を、単なる怒りに矮小化してしまったからだ。

「息子に会いたい」

それだけは、本心だった。

「電話をくれ」

私はメッセージを終えた。

1時間後、エレナ・マーサーから電話があった。

「キートンさんですか?」

「コリーヌはどこにいる?」

「息子さんとの面会について、一時的な取り決めをお話しするために連絡しました」

「妻がどこにいるかと聞いているんだ」

「コリーヌから、現在の住所を開示しないよう指示されています」

「彼女は私の妻だぞ」

「はい」

「私の子どもを連れていったんだ」

「息子さんは安全です」

「彼女と話がしたい」

「当面は、弁護士を通じて連絡を取っていただくことになります」

「ばかげている」

「キートンさん、奥様は、適切な一時的な親子交流の取り決めを求めること自体を妨げているわけではありません。ただ、直接の連絡を制限したいと希望されています」

「なぜだ?」

「あなたが何が起きたのかを話し合う際に、彼女が知っている事実を否定しようとするのではないかと、信頼できなくなったからです」

彼女は続けた。

「奥様は、ほぼ1年にわたって、自分が気づいたことは誤解だと言われ続けてきました。もう、事実について議論することを望んでいないのです」

ほぼ1年。

私が不倫を続けていた期間と同じだった。

「彼女はいつから知っていた?」

「そのことは、奥様があなたと話す準備ができたときに、ご本人にお尋ねください」

「彼女が会社の記録を取締役会に送ったのか?」

「奥様は、夫婦間の財産と事業に関連する資産の保全、および分類に関係する書類を提供しました。会社がどのような調査を行うことにしたのかは、会社自身の判断です」

「法律家らしい言い回しだな」

「そして、事実でもあります」

「彼女は、これが私のキャリアを壊す可能性があると分かっていたはずだ」

するとエレナは、こう言った。

「キートンさん、奥様は、自分が行っていない取引の結果についてまで、自分に責任があるとは考えていないと思います」

私は電話を切った。

それから1時間近く、目的もなく車を走らせた。

やがて気づくと、テッサのアパートの前にいた。

ここに来ようと決めた記憶はなかった。

エレベーターで17階へ上がり、ドアをノックした。

テッサは、私が買ってあげたシルクのローブを着て出てきた。

「グラント」

彼女は私を中へ招き入れた。

アパートの中は、いつもと変わらなかった。

白い家具。

床から天井まで届く大きな窓。

私が買ったアート作品。

私が支払ったワインセラー。

カウンターの上に置かれた革のバッグは、私がクリスマスに贈ったものだった。

だが、今の私には、豪華なものではなく、取引の記録にしか見えなかった。

どの品物にも金額がついていた。

どの金額も、何かにつながっていた。

そして、どの支払いにも足跡が残っていた。

テッサは腕を組んだ。

「連絡もくれなかったわね」

「取締役会の会議があった」

「どうなったの?」

「職務停止だ」

彼女の顔が青ざめた。

「どれくらい?」

「分からない」

「解雇される可能性は?」

「ある」

「これからどうするの?」

「分からない」

私は部屋を見渡した。

「君は、どこまで知っていた?」

「何について?」

「どうやって支払っていたかだ」

彼女の表情がこわばった。

「またその話?」

「会社の事業体を通じた支払いがあったことは、知っていただろ」

「あなたは、自分の会社だと言ったわ」

「実際にそうだ」

「だから、自分で管理できているんだと思っていた」

痛いところを突かれたが、正論だった。

テッサは私に、夕食の目的を偽らせたわけではない。

経費精算を入力したわけでもない。

妻からの電話を無視したわけでもない。

それらをしたのは、私自身だった。

「どうなると思っていたんだ?」と私は尋ねた。

「私たちの関係が?」

「ああ」

「いつか、あなたが決断してくれると思っていた」

「どんな決断だ?」

「分かっているでしょう」

「コリーヌと別れることか?」

「たぶんね」

「そして君と結婚することか?」

「結婚するなんて、一度も言っていないわ」

私はもう1年近く、二人の女性が自分との同じ未来を望んでいると思い込んでいた。

コリーヌが望んでいたのは、夫だった。

テッサが望んでいたのは、私の一部へのアクセスだった。

そして私は、二人の女性に自分の半分ずつを受け入れてもらいたかった。

「私が君に何を約束していたと思う?」と尋ねた。

テッサの目に涙が浮かんだが、声は鋭かった。

「これが一時的な関係ではないと言ったわ」

「いろいろなことを言った」

「そうね」

「君だって、いろいろ言っただろ」

「私は誰かと結婚しているなんて言っていない」

その言葉は、まっすぐに突き刺さった。

反論の余地はなかった。

テッサは窓のほうへ歩いていった。

「このアパート、なくなるの?」

「分からない」

「グラント」

「何だ?」

「もし引っ越さなきゃいけないなら、準備する時間が必要よ」

「分かっている」

「私たちの関係を終わらせるの?」

1年前なら、その質問は私を怖がらせたはずだ。

だが、その日はほとんど心に響かなかった。

「ここに来る前に、もう終わっていたんだと思う」

テッサの顔が険しくなった。

「じゃあ、私が悪いってこと?」

「違う」

「妻にバレた途端、私は間違いだったというわけ?」

「違う」

「じゃあ、私は何なの?」

私は部屋を見渡した。

「どこにいても責任を取らずに済むように、逃げ込んでいた場所だ」

彼女は顔をこわばらせた。

私も同じだった。

なぜなら、私たちの関係について、どちらかが初めて正直な言葉を口にしたからだ。

私は20分後にアパートを出た。

エレベーターの中で、携帯電話が振動した。

知らない番号からのメッセージだった。

一瞬、コリーヌからだと思った。

オーウェンに関するビデオ通話について、コリーヌが午後7時に同意しました。

会話は息子さんに関することに集中していただくようお願いします。

午後7時ちょうどに、携帯電話が鳴った。

画面にコリーヌが映った。

そして、私が最初に目にしたのは、彼女の肩にもたれて眠っているオーウェンだった。

用意していた反論など、すべて頭から消えた。

まだ数日しか経っていないはずなのに、息子は少し違って見えた。

頬をコリーヌの鎖骨に寄せ、小さな拳を顎の下で丸めていた。

「やあ」と私は言った。

コリーヌは疲れ切った顔をしていた。

怒りに燃えているわけでもない。

ただ、疲れていた。

「こんにちは」

「オーウェンを見せてくれるか?」

彼女は携帯電話の角度を変えた。

「やあ、坊や」

オーウェンは眠ったままだった。

「元気か?」

「ええ」

「ミルクは飲んでいる?」

「飲んでいるわ」

「眠れているか?」

「あまりね」

コリーヌの表情に、かつての面影が一瞬だけ浮かんだ。

「どこにいるんだ?」

「グラント」

「分かっている。ごめん」

「封筒を読んだ」

「そうでしょうね」

「取締役会が……」

「やめて」

「会社のことを話したいわけじゃない」

「君は、こうなると分かっていたんだろ」

彼女の顔が変わった。

怒りではなかった。

失望だった。

「私が取引をしたの?」

「いや」

「あなたのスタッフに、経費をどう分類するか指示した?」

「いや」

「私が部屋を予約した?」

「いや」

「テッサの家賃を払った?」

「いや」

「なら、私にその責任まで負わせないで」

オーウェンが彼女の腕の中で身じろぎした。

コリーヌは本能的にブランケットを直した。

「家に帰りたい」と私は言った。

空っぽになった子ども部屋。

「ここは、もう私の家じゃないの」

通話は7分後に終わった。

だが、彼女がいなくなった後も、その6つの言葉だけは部屋に残り続けた。

⸻

第4章:彼女が知っていたこと

3日後、コリーヌは私と会うことに同意した。

場所は自宅ではなかった。

二人きりでもなかった。

エレナが、自分の法律事務所にある個室を用意した。

私が部屋に入ると、コリーヌはすでに窓際に座っていた。

濃い色のパンツに、クリーム色のセーター。

化粧はしていなかった。

結婚指輪もなかった。

私の目は、すぐに彼女の左手へ向かった。

「オーウェンは?」

「妹のところよ」

テーブルの上には、書類が何枚も置かれていた。

しばらく、私たちは何も話さなかった。

私はこの3日間、この会話を何度も想像していた。

あるときは、完璧に謝罪できる自分を想像した。

別のときは、コリーヌが怒鳴る場面を想像した。

泣いている彼女を思い浮かべたこともあった。

まだ私を愛していると言ってくれる場面もあった。

15年間一緒に過ごしたのだから、たった1年の過ちよりも、これまで築いてきたもののほうが大切だと説得できると思ったこともあった。

だが、実際のコリーヌは、ただ私を見つめていた。

「いつからだ?」と私は尋ねた。

「何が?」

「いつから知っていた?」

「最初に何かがおかしいと思ったのは、オーウェンが生まれる7か月前よ」

私は頭の中で日付を計算した。

「何があった?」

「あなたが携帯電話を隠すようになった」

「仕事上、機密情報が……」

「違う」

彼女は静かに言った。

「あなたの言うとおりよ」

「パスワードを変えた。帰宅すると、すぐにシャワーを浴びるようになった。説明がやけに詳しくなった」

「詳しく?」

「レストランの名前、顧客が何を注文したか、なぜ渋滞していたのか、どの道を通って帰ったのかまで話すようになった」

彼女の口元に、笑みとも呼べないものが浮かんだ。

「あなたは、以前はそこまで自分の行動を説明しなかった」

「それから、領収書を見つけたの」

「何の領収書だ?」

「最初のチャールストン旅行よ」

私は頭の中を必死に探った。

「捨てたはずだ」

「ええ」

「じゃあ、どうして……」

「家族用の旅行アカウントにメールで届いていたの」

コリーヌは続けた。

「部屋は一つ。スパの予約は二人分。夕食も二人分。あなたの予定表には、顧客との会議が一つもなかった」

「どうして私に聞かなかった?」

「聞いたわ」

「いつ?」

「あなたが帰宅した夜よ」

私は思い出そうとした。

かすかな記憶しかなかった。

彼女は、チャールストンはどうだったかと尋ねた。

私は、よかったと答えた。

誰が参加したのかと聞かれ、投資家3人の名前を挙げた。

彼女は、デボラ・プライスも来ていたのかと尋ねた。

私は、来ていたと答えた。

だが、デボラはその旅行を直前にキャンセルしていた。

コリーヌは、彼女と個人的な付き合いがあった。

「あなたは、まばたき一つせずに嘘をついた」

彼女は言った。

「だから、質問するのをやめたの」

「どうして、そのまま一緒にいたんだ?」

彼女の目が私に向いた。

「妊娠していたからよ」

その答えはあまりにも単純で、だからこそ痛かった。

「妊娠が分かったばかりだった。何か、自分には分からない事情があるのかもしれないと信じたかった」

「そんな事情は……」

「分かっている」

彼女は落ち着いた声で続けた。

「やめてくれることを、ずっと願っていたの」

彼女の目が少し細くなった。

「テッサだと分かったのは、いつだ?」

「最初からではないわ」

「いつ?」

「オーウェンが生まれる4か月前」

「どうやって?」

「送金よ」

「彼女の名前は書かれていなかったはずだ」

「支払い先は不動産管理会社だった。でも、私はその部屋を突き止めた」

私は、コリーヌと初めて出会った頃のことを思い出した。

鋭い頭脳。

辛抱強さ。

決してごまかしのきかない人。

私は、その頭脳に惹かれて彼女を愛するようになった。

「どうして証拠を集め続けたんだ?」

「あなたが会社に関係する事業体を通じて個人的な支出を処理していると分かったから。財務上の問題が、どれほど大きいのか分からなかった」

「たいした額じゃなかった」

彼女の顔がこわばった。

「ほら、またそれ」

「何が?」

「あなたは、金額ばかり見て、行為そのものを見ようとしない」

彼女は書類を一枚、私のほうへ滑らせた。

左側には、私の出張日程。

右側には、彼女の診察日程。

二つの列が、並行して続いていた。

5月12日――テッサのアパート。

5月12日――妊婦健診。

6月3日――サバンナのホテル。

6月3日――血圧の経過観察。

7月19日――宝飾品の購入。

7月19日――出産準備クラス。

8月4日――アトランタのホテル。

8月5日――オーウェン誕生。

「全部に行かなかったわけじゃない」

「それでも、十分に欠席したわ」

彼女の声が少し柔らかくなった。

「あなたが素晴らしい夫だったことも、時にはあった」

「ベビーベッドを組み立ててくれた」

「子ども部屋を塗ってくれた」

「お腹の中のオーウェンに話しかけてくれた」

「眠れない私を抱きしめてくれた」

彼女は一度、目を伏せた。

「でも、携帯電話が鳴ると、あなたは部屋から出ていった」

ついに、彼女の目に涙が浮かんだ。

「あなたが完全にひどい人間だったら、別れるのは簡単だったと思う」

「でも、あなたはそうじゃなかった」

「私を大切にしてくれることが、時々あった」

「そのせいで、私は自分がほかのことを信じていいのか、分からなくなった」

「愛していたんだ」

「分かっている」

「愛していた、なのか?」

「もう、どの時制を使えばいいのかも分からない」

そのとき、私は初めて、金や取締役会とは無関係の恐怖を感じた。

「コリーヌ、もう終わらせたんだ」

「テッサとの関係をね」

「そうだ」

「それだけ?」

「何と言えばいいんだ?」

「分からない。ただ、それが何か意味のあることだったと思いたいだけ」

「君が家を出る前に終わらせていれば、意味はあったかもしれない」

「やり直せる」

彼女の表情が悲しげになった。

「あなたはまだ、元に戻すことが、問題を解決することだと思っているのね」

「ほかに何がある?」

「戻れないことを受け入れることかもしれない」

「嫌だ」

「グラント」

「嫌だ。私たちには息子がいる」

「ええ」

「15年間、一緒にいたんだ」

「ええ」

「二人で人生を築いてきた」

「ええ」

「それには意味があるはずだ」

「あるわ」

「だったら、なぜそれを捨てるんだ?」

そのとき初めて、彼女の顔に怒りが浮かんだ。

「そんなことを言わないで」

「何が?」

「私が、あなたにそばにいてほしいと何度も願った人生を、私自身が捨てているなんて言わないで」

彼女の声が震えた。

「あなたが別の女性の隣で嘘をついている間、私はあなたの子どもを産んでいたのよ」

「あなたはホテルのバスルームから電話に出た」

私は顔を上げた。

「どうして、それを……」

「小声だったから」

「一人だと言ったのに、あなたはささやいていた」

「そして、後ろから女性の声が聞こえたの」

記憶がよみがえった。

テッサが寝返りを打った。

「大丈夫?」と尋ねた。

私はバスルームのドアを閉めた。

「あの夜、私は分かったの」

コリーヌは言った。

「どうして病院で何も言わなかった?」

「オーウェンの心拍数が2回も低下したからよ」

私は、そのことを知らなかった。

いや、誰かから聞いていたのかもしれない。

私が恥ずかしさと疲労でいっぱいで、話を聞けなかっただけなのかもしれない。

「何かあったらどうしようと、怖くてたまらなかった」

彼女は小さな声で言った。

「そして、私が考えられたのは、息子の人生の最初の数時間を、父親が別の女性と寝ていたことを巡る争いにしたくない、ということだけだった」

「だから私は、彼を抱いた」

「ミルクを飲ませた」

「写真を撮った」

「そして、6時間後、あなたが花を持って病室に入ってきた……」

「花?」

「アイボリー色のバラよ」

もちろん、私はバラを持っていった。

いつもそうしていた。

コリーヌは、壊れたような笑い声を漏らした。

「その瞬間、私はあなたと別れると決めたの」

「それなのに、なぜその後も1か月、家にいたんだ?」

「家計を把握する必要があったから」

「仕事を辞めていたから、自分の収入がなかった」

「生まれたばかりの赤ちゃんがいた」

「引っ越す前に、法的な助言を受けたかった」

「安全に暮らせる場所も必要だった」

どの理由も現実的だった。

冷静で、計画的で、まさにコリーヌらしかった。

「それから、あなたが強制されなくても私たちを選ぶのか、見たかった」

「どういう意味だ?」

「オーウェンが生まれてから、しばらくの間、私は確認するのをやめたの」

「父親になれば、あなたも目を覚ますかもしれないと思った」

チャールストンへの旅行。

海辺での9日間。

「開発案件の視察があることは知っていた」と彼女は続けた。

「実際に会議があったこともね」

「じゃあ、君は……」

「1日だけの出張だと思っていた」

「でも、あなたはヴィラを予約した」

彼女は静かに言った。

「それで、ようやく理解したの」

8月5日。

オーウェンの誕生。

そして、その後の支出。

最悪だったのは、出産前の支出ではなかった。

出産後だった。

息子を抱いた後。

コリーヌに、これからは変わると約束した後。

病院のベッドから立ち上がるのに苦労する彼女を見た後。

失うかもしれないものが何なのか、分かっていた後。

それでも私は、出かけていった。

「どうしてあんなことをしたのか、自分でも分からない」

私はささやいた。

「本当は分かっていると思う」

彼女は答えた。

「あなたは、帰ってきたら、私たちがまだここにいると思っていたのよ」

診断でもなければ、言い訳でもなかった。

ただ、真実だった。

私は、変わらずに存在し続けることを、当然の権利だと思っていた。

コリーヌは家にいる。

オーウェンも家にいる。

会社は私のもの。

金はいつでも使える。

共同経営者たちは文句を言っても、最後には許してくれる。

テッサは待っている。

家には明かりがついている。

私が戻ろうと決めるまで、すべての人間とすべてのものが、私のいない間も同じ場所で待っていてくれる。

「これから、どうなるんだ?」

コリーヌの声が柔らかくなった。

「オーウェンを育てていくのよ」

「一緒に?」

「親としてね」

「夫婦としてではなく?」

「そうよ」

「ずっと一緒に、ではないんだな?」

「もう、永遠という言葉が何を意味するのか、分からなくなったの」

私は希望を抱いた。

彼女はそれに気づいた。

「それもやめて」

「何を?」

「不確かさを、約束に変えないで」

希望は消えた。

彼女は、もう一枚の書類をテーブルの上で滑らせた。

暫定的な親権と面会に関する取り決めだった。

「もっと一緒に過ごす時間がほしい」

「様子を見ながら、見直しましょう」

「泊まりで会いたい」

「オーウェンがもう少し大きくなって、安定した生活ができるようになったらね」

「私の息子だぞ」

「だったら、父親になって」

声を荒らげたわけではなかった。

それでも、その言葉は十分すぎるほど重かった。

私は暫定的な取り決めに署名した。

コリーヌが帰る前に、私は最後の質問をした。

「あのメモについてだ」

「どのメモ?」

「『この明細を見れば、あなたはすべてを理解するでしょう』という言葉だ」

「ええ」

「私は、君がどうやって私を見つけたのか、理解するという意味だと思っていた」

「違うわ」

「じゃあ、どういう意味だったんだ?」

彼女は、書類に記された日付の一覧を見た。

「あなたが、私を必要としていたときに、どこにいたのか。それを理解するという意味よ」

彼女が帰った後、私はその部屋に1時間近く、一人で座っていた。

⸻

第5章:私がすべてを失った日

会社の調査は6週間続いた。

その頃には、誰も「誤解」などという言葉を使わなくなっていた。

正当な経費もあった。

処理がずさんだった経費もあった。

返金が遅れていたものもあった。

そして、どう考えても事業上の正当な目的を説明できないものもあった。

最終的な金額は、キートン・デベロップメント・グループを破綻させるほど大きくはなかった。

その事実に、私は安堵すべきだったのかもしれない。

だが、金額が問題ではなかった。

信頼が問題だった。

取締役会は、私に選択肢を与えた。

最高経営責任者を辞任し、経営権を手放して、経営に関与しない株主として残るか。

あるいは、正式な解任投票に直面するか。

何年か前の私なら、戦っただろう。

脅しただろう。

投資家に電話をかけただろう。

この建物に誰の名前が刻まれているのか、全員に思い出させただろう。

だが私は、会議室の窓から街のスカイラインを眺め、辞表に署名した。

当面、会社には私の名前が残る。

だが、私のオフィスはもうなかった。

ネイサンが暫定CEOになった。

ハロルドが主要な開発案件の取引先を担当することになった。

私のアシスタントは、私物を4つの箱に詰めた。

その中には、机の上に置いていた銀色の結婚写真もあった。

私はそれを新聞紙に包んだまま、持ち帰った。

テッサは、翌月の家賃が発生する前にアパートを出た。

最後に、彼女からメッセージが届いた。

あなたが本当に何を望んでいるのか、見つけられるといいわね。

離婚の手続きは、もっとゆっくり進んだ。

弁護士たちは、家、口座、株式、親権、面会のスケジュールについて交渉した。

コリーヌは、すべてを奪おうとはしなかった。

最初は、それが意外だった。

怒りに任せて、私を破滅させようとしているのだと思っていたからだ。

だが、彼女は私を破滅させたいわけではなかった。

彼女が求めていたのは、安全だった。

自立だった。

そして、私の選択とは切り離された、明確な経済的基盤だった。

彼女は少しずつ仕事に復帰した。

ナッシュビルの財務調査会社が、週3日勤務のコンサルタントとして彼女を採用した。

オーウェンを引き渡すときに、そのことを聞いた私は複雑な気持ちになった。

誇らしさ。

恥ずかしさ。

喪失感。

私は、かつて妻の能力を笑いものにしていた。

そして最終的に、その能力こそが彼女を救ったのだ。

「それはよかった」と私は言った。

「ええ」

「仕事は楽しいか?」

彼女の表情が少し柔らかくなった。

「自分がどれほど好きだったか、忘れていたわ」

私たちの間には、チャイルドシートに座って眠るオーウェンがいた。

その頃、息子は生後4か月近くになっていた。

初めてオーウェンが私に笑いかけたとき、私は泣いた。

大げさに泣いたわけではない。

誰かが注意深く見ていなければ、気づかないほどだった。

私は、離婚の一部としてベル・ミードの家を売却した後、借りた小さなタウンハウスの床に座っていた。

オーウェンが私を見つめた。

そして、小さな口を開けて笑った。

4秒間、ほかのことは何も存在しなかった。

テッサも。

取締役会も。

家も。

金も。

そこにいたのは、私を認識してくれた息子だけだった。

その瞬間、私は子どもに覚えていてもらえることの、恐ろしくも尊い意味を理解した。

私がかつてどんな人間だったのか、その記憶に抗うために、私は一貫した行動を取るしかなかった。

面会が午前6時からなら、私は5時50分に到着した。

オーウェンの診察が私の担当日にあれば、必ず付き添った。

夜中の2時に泣き出したとき、逃げ込めるホテルの部屋などなかった。

アシスタントもいない。

花束もない。

いるのは、私だけだった。

それでも、結婚生活が元に戻ることはなかった。

結果が出てから正しいことをするようになったからといって、他人が自分に何かを返す義務を負うわけではない。

私が以前よりも父親らしくなったからといって、コリーヌが戻ると約束することはなかった。

私が父親として当たり前のことをしても、彼女は「よくできたわね」と褒めてくれることもなかった。

だが、彼女はオーウェンを使って私を罰することもしなかった。

時間が経つにつれて、私たちの会話は敵意の少ないものになった。

やがて、ほとんど普通の会話になった。

バラを持って空っぽの家に帰った日から8か月後、離婚が正式に成立した。

私たちは別々に裁判所を後にした。

その日は雨だった。

灰色の空の下、歩道が濡れて光っていた。

しばらく、どちらも何も言わなかった。

やがて私は言った。

「すまなかった」

彼女は疲れたように微笑んだ。

「それは、もう聞いたわ」

「分かっている」

「あなたが本当に後悔していることは、信じている」

その言葉は、彼女が信じていないと言うよりも、私を傷つけた。

「でも、それで今の状況が変わるわけではないわ」

「分かっている」

屋根の外では、雨が降り続いていた。

「以前は、私がどれほど後悔しているかを君が理解すれば、何かが修復できると思っていた」

「あなたの中では、何かが変わったのかもしれないわ」

「それで十分なのか?」

「そうするしかないのよ」

彼女の妹が乗った車が、歩道の脇に停車した。

コリーヌが立ち去る前に、私は尋ねた。

「私を憎んでいるか?」

「いいえ」

その答えは、予想していなかった。

「どうして?」

彼女は少し考えた。

「あなたを憎んでいたら、これからも自分の人生の多くを、あなたを中心に組み立てなければならないでしょう?」

静かで、悲しくて、自由な言葉だった。

「もう、そんなことはしたくないの」

彼女は車に乗り込んだ。

1週間後、私は古いオフィスから持ち帰った最後の箱を開けていた。

その中から、病院の写真が出てきた。

ベッドに横たわるコリーヌ。

胸に抱かれたオーウェン。

そして、隣にある空っぽの椅子。

何か月もの間、私はその写真を、自分が立ち会えなかったことの証拠として見ていた。

だが、その午後、私はようやく別のものを見た。

コリーヌは、恐怖に震えていた。

疲れ切っていた。

見捨てられていた。

それでも、世界の何よりも大切なものを抱くように、息子を腕の中に抱いていた。

私はずっと、自分こそが私たちの人生の中心だと思っていた。

家族を養う者。

会社の創業者。

夕食の時間も、休暇も、家も、将来の計画も、自分の予定を中心に決める夫。

だが、あの写真が示していたのは真実だった。

あの病室で、私がいなくても人生は続いていた。

コリーヌは、私がいなくても出産を乗り越えた。

オーウェンは、私がいなくても最初の息を吸った。

看護師は、私がいなくても二人の最初の写真を撮った。

私がいなければ成り立たないと思っていた家族は、私が不在でも生きていけたのだ。

そして、それを理解したとき、コリーヌは私のもとを去ることができた。

同じ箱の中には、古い封筒も入っていた。

グラントへ。あなたが帰ってきたときに。

なぜそれを取っておいたのか、自分でも分からなかった。

もしかしたら、見落とした一文があると、どこかで信じていたのかもしれない。

抜け道。

結末を書き換えられる兆し。

アパート。

ブレスレット。

リゾート。

夕食。

送金。

診療所の予約。

チャールストンのヴィラ。

どのページにも、同じことが書かれていた。

単に、金がどこへ流れたかだけではなかった。

私がどこへ行っていたのか、ということだった。

責任よりも楽な道を選んだ、その一つひとつ。

愛を、自分が戻るまで待っていてくれるものに変えてしまった、その一つひとつ。

一番下には、コリーヌの手書きの言葉が残っていた。

私が妊娠の最終段階に入り、一人で診察に通っていた間、あなたは別の女性のアパート代を払っていた。

私が生まれたばかりの息子を抱き、眠れない夜を過ごしていた間、あなたはプライベートヴィラを予約していた。

あなたが選んだ人生に、あなたが捨てた人生以上の価値があったことを願います。

最初にこの言葉を読んだとき、私は彼女が私の人生を奪おうとしているのだと思った。

何か月も経ってから、ようやく理解した。

彼女が奪ったのではなかった。

私自身が使い果たしたのだ。

夕食を一度選ぶたびに。

嘘を一つつくたびに。

電話に出ないたびに。

送金するたびに。

花束を贈るたびに。

私は妻を失った。

毎朝、息子と同じ屋根の下で目を覚ます権利を失った。

15年間かけて築き上げた会社の経営権を失った。

大切なものは何もかも、自分が帰るまで待っていてくれると信じていた家を失った。

だが、最も大きな喪失は、もっと名づけにくいものだった。

私は、自分がどんな人間だと主張していたのか、その人物像を信じてくれるコリーヌの心を失った。

そして、それを買い戻せるほど大きな口座など、どこにも存在しなかった。

次の土曜日、オーウェンを迎えに行くため、私はコリーヌのアパートへ車を走らせた。

彼女は息子を抱いてドアを開けた。

その頃、オーウェンは生後10か月になっていた。

体つきもしっかりし、好奇心旺盛で、目に入るものすべてに手を伸ばしていた。

私を見ると、両腕を持ち上げた。

「ダダ」

コリーヌも笑顔を見せた。

「ダダ」と、彼はもう一度繰り返した。

コリーヌは、息子を私の腕に預けた。

私は胸に抱き寄せた。

「やあ、坊や」

オーウェンは私の襟をつかんだ。

その後ろで、コリーヌが微笑んでいた。

私の妻だった頃の笑顔ではない。

許しの笑顔でもない。

家に帰ってきていいという合図でもなかった。

もっと単純なものだった。

私を認識しているということ。

そして初めて、私は理解した。

劇的に帰ってくることよりも、何度も繰り返し、そこにいることのほうが大切なのだ。

私はオーウェンを抱いて、車へ向かった。

歩道の途中で振り返った。

「コリーヌ」

彼女はドアのところに立ったままだった。

「何?」

「ありがとう」

「何に対して?」

「私がしたことのせいで、息子の人生から完全に消えてしまわないようにしてくれたことだ」

彼女の表情が真剣になった。

「あなたのためにしたんじゃないわ」

「分かっている」

「オーウェンのためよ」

「分かっている」

私はオーウェンをチャイルドシートに座らせた。

助手席には、紙袋が置いてあった。

おむつ、おしり拭き、そして息子が好きなおやつが入っていた。

アイボリー色のバラはなかった。

空っぽの家に帰ったあの日以来、私は一度もアイボリー色のバラを買っていなかった。

長い間、私はそれが謝罪を意味するのだと思っていた。

だが今では、ホテルのロビーや花屋のショーウィンドウでその花を見かけると、本当は何を意味していたのかを思い出す。

それは、愛の代償を実際に支払うことなく、愛しているように見せかけたいときに、私が持っていくものだった。

その代償は、高級な夕食ではなかった。

宝石でもなかった。

ベル・ミードの家でもなかった。

プライベートヴィラでも、成功した会社でもなかった。

愛が求めていたのは、もっと小さなことだった。

電話に出ること。

家に帰ること。

診察のとき、妻の隣に座ること。

彼女が怖がっているとき、手を握ること。

病院のベッドの隣の椅子に座ること。

息子と一緒に夜を明かすこと。

誰かに証拠を突きつけられる前に、真実を話すこと。

私は、欲しいと思ったぜいたく品なら、どんなものでも買うことができた。

それなのに、本当に大切な人生のために払うべき代償を、私はあまりにも自分勝手で、支払うことができなかった。

私は車のエンジンをかけた。

後部座席では、オーウェンが何やら声を上げていた。

車を発進させる前に、私はもう一度、ドアのところに立つコリーヌを見た。

彼女が手を上げた。

私も手を上げた。

そして、車を走らせた。

私が築いた人生は、もうなくなっていた。

結婚生活は終わった。

会社も、かつてのように私のものではなくなった。

失ったものをすべて元に戻してくれる、最後の奇跡など待っていなかった。

ただ、何か月も前にコリーヌが封筒に残した真実だけがあった。

その真実は、すべての明細に記されていた。

すべての日付に。

すべての請求に。

そして、私がいるべきだったのに、いなかった場所に。

そして最後に、コリーヌが私にした最も残酷なことは、私のもとを去ったことではなかった。

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