結婚式のわずか10分前、私は婚約者が妹にこう言うのを耳にしました。 「もう保育園の心配はしなくていいよ。月曜日からナタリーが3人の子ども全員の面倒を見てくれるから。」

第1部 — 結婚式

第1章 — 結婚式の10分前

結婚式まであと10分というとき、私は婚約者が妹に話している声を偶然耳にした。

「もう保育園のことは心配しなくていいよ。月曜日から、ナタリーが子どもたち3人全員の面倒を見てくれるから」

妹の子どもたちは、全員まだ6歳にもなっていなかった。私はフルタイムで働いていて、定期的に子どもたちの世話をすることなど、一度も引き受けたことはなかった。

セスは笑った。

「結婚したら、彼女だって断るわけにはいかないだろ」

ウェディングドレスの裾を両手で握りしめながら、私は教会の廊下に立ち尽くした。3年間愛してきた男性の口から出た言葉だとは、どうしても信じられなかった。

すでに70人ものゲストが席に着いていた。

その日の朝、母は私のドレス姿を見て涙を流した。親友のペイジは、私の髪を整えるのに20分もかけてくれた。教会には生花の香りが漂い、近くでは誰かが入場曲の練習をしていた。

今日は完璧な一日になるはずだった。

ほんの5分前まで、私が心配していたのはドレスのホックが緩んでいることだけだった。

安全ピンを取りに行ったペイジを探そうと、ブライズルームを出たときだった。教会の談話室のドアが少し開いていて、そこからセスの声が聞こえてきた。

盗み聞きをするつもりなんてなかった。

けれど、彼が私の名前を口にした。

「本当に大丈夫なの?」と妹のヘザーが尋ねた。

「もちろんだよ」

「だって、セス。かなり大変よ。週5日、3人全員の面倒を見るなんて」

「ナタリーは子どもたちが大好きだから」

「好きなのと、一日中世話をするのは別の話よ」

その瞬間だけは、ヘザーの気遣いに感謝した。

ところが次の瞬間、セスは結婚してしまえば私には選択肢がなくなるとでも言うような口ぶりになった。

私は一歩、ドアに近づいた。

ヘザーには3人の子どもがいた。5歳のマディ、最近3歳になったばかりのベン、そして生後18か月のオーウェンだ。

私は本当にあの子たちが大好きだった。

一緒に公園へ行ったり、パンケーキを焼いたり、ヘザーが助けを必要とした土曜日に、ときどき子どもたちを預かったりしてきた。

去年のクリスマスには、マディが大きな紫色の花を描き、その上に私の名前を書いてくれた。その絵は今でも私の冷蔵庫に貼ってある。

けれど、たまに子どもを預かることと、フルタイムで育児を引き受けることはまったく違う。

私は34歳。オハイオ州コロンバス近郊の歯科医院で、もうすぐ7年になる仕事を続けていた。

3日前、ベネット先生から事務長への昇進を打診されたばかりだった。

何年も目指してきた昇進だった。

それなのに、私の未来の夫は、私のキャリアなどどうでもいいと思っているらしい。

「ナタリーの仕事はどうするの?」とヘザーが尋ねた。

「歯科医院は辞めるよ」

私はドレスを握る手に、さらに力を込めた。

「本人がそう言ったの?」

「話し合ったからね」

そんな話し合いは、一度もしていなかった。

セスとは、家を買うこと、いつか焦らずに子どもを持つこと、旅行、老後の貯蓄、そして古くなった彼のトラックを買い替えることについて話し合ってきた。

けれど、私がキャリアを捨てて妹の子どもたちを育てるなどという話は、一度も出たことがなかった。

「仕事はどうするのよ?」とヘザーが重ねて尋ねた。

「歯科医院を辞めるんだよ」

私はドレスをさらに強く握った。

「本人がそう言ったの?」

「もう話はついてる」

そんな話し合いは、絶対にしていなかった。

「ナタリーが歯科医院を辞めるって?」

「そうだよ」

ヘザーはため息をついた。

「ただ、ナタリーに無理をさせたくないの。私が彼女を利用していると思われたくないから」

「そんなふうには思わないさ」

「だって、あの子が仕事をどれだけ好きか知ってるもの」

セスの声に苛立ちが混じった。

「ヘザー、もう話し合っただろ。ナタリーは僕の妻になるんだ。これからは家族にとって何が一番いいかを考えて決めていくんだよ」

少し間を置いて、ヘザーが続けた。

「それで、月曜日から始めるの?」

「朝7時半。話したとおりだよ」

月曜日の朝。

私の職場では、8時からスタッフミーティングが予定されていた。

ベネット先生は、翌月から導入する新しい請求管理ソフトについて説明し、そのあと私の昇進について話し合うつもりだった。

セスはその予定を知っていた。

夕食のときに話したら、彼は「楽しみだね、ベイビー」と答えたのだ。

それなのに今、彼は私の月曜日を勝手に誰かに差し出していた。

脈拍が喉まで響いてきた。

ペイジを探しに戻り、気持ちを落ち着けてから彼と話そうかとも思った。

そのとき、ヘザーの声が聞こえた。

「今日までに、ちゃんとお礼を言っておきたかったな」

「大げさにしなくていいよ。ナタリーは結婚式で緊張してるんだから」

「そうね……」

短い沈黙が流れた。

そして、すべてを変える言葉が聞こえた。

「うまくいくといいけど。だって、保育園は2週間前にもう解約しちゃったのよ」

セスは驚きもしなかった。

「知ってるよ」

「昨日が最後の日だったの。園長先生が言ってたわ。もう空いた枠には、別の子たちが入ることになってるって」

「だったら、ナタリーがいてくれてよかったじゃないか」

私はドアの前で立ち尽くした。

これは、数日だけ手伝ってほしいという話を、私が誤解していたわけではなかった。

3人の子どもたちの保育園が、私が一度も引き受けていない約束を理由に解約されていたのだ。

そして、その張本人は、今まさに私の夫になろうとしていた。

私はドアを開けた。

第2章 — 私が辞めると約束した覚えのない仕事

「私が仕事を辞めるって、誰が言ったの?」

セスは勢いよく振り返り、折りたたみ椅子にぶつかりそうになった。

ヘザーは、結婚式のプログラムが並ぶテーブルの横に立っていた。紺色のドレスが、私のブーケとよく合っていた。

最初の数秒、二人とも何も言わなかった。

やがてセスが笑顔を浮かべた。

いつもの笑顔ではなかった。電気工事のことで客から苦情を言われたとき、すべてが順調だと信じ込ませるために使う、あの安心させるような笑顔だった。

「ナタリー。どうしたんだよ。式の前に花嫁が僕を見るのは、よくないんじゃなかった?」

「質問に答えて」

彼の笑顔が消えた。

ヘザーが私たちを交互に見た。

「保育園の話、知らなかったの?」

「どの保育園の話?」

セスが近づいてきた。

「今はこんな話をする時間じゃないだろ」

私は彼が伸ばした手を避けた。

「ヘザー、セスはあなたに何て説明したの?」

彼女は唾を飲み込んだ。

「結婚したら、しばらく仕事を休みたいって。歯科医院を辞めることも考えているって聞いたわ」

「そんなこと、一度も言ってない」

「私が仕事をしている間、子どもたちを見てくれるって……」

「どれくらいの間?」

ヘザーは兄のほうを見た。

「来年の夏まで」

私の胃が沈むような感覚に襲われた。

「来年の夏まで?」

セスは首の後ろをこすった。

「聞こえているほど大変な話じゃないよ」

「3人の子どもを、1日10時間、週5日。ほぼ1年間?」

「ナタリー……」

「それを約束したの?」

彼のためらいが、答えになっていた。

私はヘザーに向き直った。

「私は仕事を辞めていないし、辞めようと考えたことすらないの」

彼女の表情が変わった。

「でも、セスはあなたが上司と話したって……」

私は、朝ペイジからもらったサテンのバッグからスマートフォンを取り出した。

手が震えて、2回もパスコードを間違えてしまった。

ようやくベネット先生からのメールを開いた。

件名には「事務長への昇進について」と書かれていた。

私はヘザーに画面を見せた。

「これ、水曜日に届いたの。ベネット先生から昇進の打診を受けていて、月曜日に返事をすることになってる」

ヘザーは最初の段落を読み、眉をひそめた。

「昇進するの?」

「そうよ」

セスが身を乗り出した。

「君が引き受けるつもりだとは聞いてないけど」

「まだ返事をしていないだけよ」

「だから、僕は……」

「何を考えたの?」

彼はため息をついた。

「これを機に、僕たちもいろいろ考え直せるんじゃないかと思ったんだ」

私は彼を見つめた。

「私たち?」

「君の働き方とか、ヘザーの状況とか、いろいろだよ」

「だったら、どうして私はその話し合いに入っていないの?」

ヘザーが私のスマートフォンを下ろした。

「セス、ナタリーは自分からそうしたいと言っていたんじゃなかったの?」

「子どもたちが好きなのは本当だろ」

「そういう話をしているんじゃないわ」

セスは妹に向き直った。

「まるで僕が君に無理やり押しつけたみたいな言い方をするなよ。君だって、僕がこの案を出したときは喜んでいたじゃないか」

ヘザーの顔が青ざめた。

「ナタリーが承諾しているって、あなたが言ったからよ」

私は、彼女があんなに動揺する姿を見たことがなかった。

ヘザーと夫のコリンは、およそ1年前に別居していた。子どもの養育は分担していたが、コリンの倉庫勤務はシフト制で、保育の調整が難しかった。

ヘザー自身も保険金請求を扱う仕事をフルタイムでしており、3人の幼い子どもを職場に連れていくことなどできなかった。

「保育園はどうするの?」と私は尋ねた。

ヘザーは唇を結んだ。

「2週間前に解約の申し出をしたの。そうしないといけなかったから」

「もう一度、枠を確保できないか聞いてみた?」

「昨日、マディの先生に、あの子がいなくなると寂しくなるって言われて、園長先生に相談したの。でも、3人分とも待機リストの家庭に案内済みだって」

セスは軽く手を振った。

「何とかなるよ」

ヘザーは彼に向き直った。

「あなたは、もう何とかしてあるって言ったじゃない」

セスの顎がこわばった。

それから私を見た。

「こんな大ごとにしなくていいだろ? 今日は僕たちの結婚式なんだぞ」

私は笑いそうになった。

「私たちの結婚式?」

「そうだよ」

「私がキャリアを捨てると決めたことも、あなたが勝手に決めたことも知らされないまま、あなたと結婚する日?」

「それは公平じゃない」

「何が公平じゃないの?」

彼は声を低くした。

「みんなに聞かれるだろ」

そこだった。

彼は私を裏切ったことも、ヘザーの仕事を危険にさらしたことも心配していなかった。

誰かに話を聞かれることを恐れていたのだ。

私は彼に一歩近づいた。

「月曜日の朝、私が目を覚ましたら、3人の子どもを預かることになっていて、普通に仕事へ行くこともできない。あなたは本当に、そんなことが起きても私が何も言わないと思っていたの?」

彼はヘザーを見て、それから私を見た。

「結婚式が終わったら、少し時間を取って話し合えると思ったんだ」

「でも、ヘザーには私がもう承諾したって言ったのよね?」

「だって、最終的には何とかなると思ったから」

私はヘザーに向き直った。

「私に直接、聞こうとは思わなかった?」

彼女はためらった。

「聞きたかったわ」

「どうして聞かなかったの?」

「セスが、あなたは仕事を辞める話をするのが苦手だって言ったの。周りに大げさに騒がれたくないんだって」

私は再びセスを見た。

彼は黙っていた。

遠くで教会の鐘が鳴った。

午後2時まで、あと5分だった。

セスは腕時計を確認した。

「もういいだろ。そろそろ準備しないと」

彼が私に手を伸ばしたが、私は身を引いた。

「いいえ。あなたと私は、話をしなきゃいけない」

ヘザーが何か言いかけたので、私は遮った。

「お願い。少しだけ二人にして」

彼女はスマートフォンを握りしめたまま、部屋を出ていった。

セスはドアを閉め、まるで自分が引き起こしたわけでもない問題に対処しているかのような、疲れた表情で私を見た。

「なあ、君が怒っているのは分かってる」

「私がどれだけ怒っているか、あなたは分かっていないわ」

彼はジャケットを直した。

「じゃあ、僕にどう言ってほしいんだ?」

私は彼を見つめた。

彼は私が選んだネクタイを締めていた。

あと5分で、彼は私の夫になるはずだった。

なのに今、彼が何を言えばこの状況を正せるのか、私にはまったく想像できなかった。

第3章 — 彼は、私が最後には折れると思っていた

「どうしてこんなことをしたのか、説明して」と私は言った。

セスはテーブルにもたれた。

「妹を助けようとしたんだ」

「私の時間を使って?」

「家族を助けるためだよ」

「ヘザーはあなたの妹でしょう。あの子たちはあなたの甥と姪よ。どうしてあなたが仕事を休んで面倒を見ないの?」

彼は眉をひそめた。

「僕が簡単に仕事を辞められないのは分かっているだろ」

「私だって同じよ」

「それは違う」

「何が違うの?」

「僕のほうが収入が多い」

それは、おおむね事実だった。資格を持つ電気工事士で、残業も頻繁にしていたセスの収入は、私より多かった。

けれど、私は自分の収入で生活し、職場の健康保険にも加入し、老後のための貯蓄もしていた。何より、自分の仕事が好きだった。

私は何年もかけて、保険請求、予約管理、人事の問題、そして歯科医院を円滑に運営するためのさまざまな業務を身につけてきた。

彼は、そのすべてを軽視しているようだった。

「じゃあ、私の健康保険はどうなるの?」と私は尋ねた。

「結婚したら僕の保険に入ればいい」

「老後の積み立ては?」

「それも何とかするよ」

「昇進の話は?」

「ナタリー、人はいつだってキャリアを変えるものだろ」

私は彼を見つめた。

「私は変えたくないの」

彼はため息をついた。

「君はいつも、もっと家族と過ごしたいって言っていただろ」

「私たち自身の家族のことよ。いつか、二人で話し合って決める未来のこと」

「だから、今回がそうだろ」

「違うわ。これは、あなたが私抜きで決めたことよ」

彼はついに苛立ちを隠さなくなった。

「ヘザーは困ってるんだ。いいか? あいつが保育料にいくら払っているか分かるか?」

「知ってるわ。本人から聞いたもの」

「だったら、僕たちが助けてやれることも分かるだろ」

「僕たち?」

彼は目をそらした。

「言いたいことは分かるだろ」

私は突然、彼がどれほど頻繁に「僕たち」という言葉を使うかに気づいた。

僕たちがヘザーを助けられる。

僕たちが犠牲を払えばいい。

僕たちなら何とかできる。

けれど、仕事を辞めることを求められているのは、私一人だった。

月曜日の朝の光景が頭に浮かんだ。

7時半にヘザーがマディ、ベン、オーウェンを連れてやってくる。セスは仕事現場へ向かい、私は食事を用意し、おむつを替え、散らかった部屋を片づけ、遊びの時間を考え、昼寝をさせる。

それが平日、毎日繰り返される。

そして仕事から帰ってきたセスは、妹を助けられてよかったと満足そうに言うのだろう。

「私は今までだって、あの子たちを預かってきたわ」と私は言った。「あなたも知っているでしょう」

「そうだろ」

「数時間だけよ。ヘザーに頼まれて、私の予定が空いているときだけ」

「何が違うんだ?」

私はその質問に驚いた。

「私が、自分で引き受けると決めたかどうかよ」

彼は黙り込んだ。

私は彼の表情を見つめた。

「私がこれに同意しないと分かっていたんでしょう?」

彼は腕を組んだ。

「君が不安に思うことは分かっていた」

「そういうことを聞いているんじゃない」

「ナタリー、僕たちは1年間も結婚式の準備をしてきた。君だってずっとストレスを抱えていたじゃないか。お金の話をするたびに、大騒ぎになる」

私は彼を見つめた。

「それは、あなたがいつも『何とかなる』と言うだけで、どうやって何とかするのか説明しないからよ」

彼は苦笑した。

「だから、早めに話さなかったんだよ」

沈黙が流れた。

私は、彼が自分の言葉の意味に気づくことを期待した。

けれど、彼は続けた。

「結婚式が終わって、二人の生活が落ち着けば、君ももう少し前向きに考えてくれると思ったんだ」

「つまり、私があなたの妻になってから話すつもりだったの?」

彼は居心地が悪そうに身じろぎした。

「そういう言い方はしたくないな」

「じゃあ、どういう言い方をするの?」

「君も最後には納得してくれると思ったんだ」

その言葉は、それまでのどんな言い訳よりも私を傷つけた。

3年間、私はセスが意見の違いがあっても、私の考えを尊重してくれる人だと信じていた。

お金のことで口論になったこともある。彼が私の予定を確認せず、親戚に週末の手伝いを引き受けてしまうことにも不満を感じていた。

私は、それを普通の恋人同士の問題だと思っていた。

今になって、彼の決断のどれだけが、最後には私が折れることを前提にしていたのだろうと考え始めた。

「ヘザーに1年間の育児を約束したのは、私が同意すると思ったから? それとも、結婚してしまえば私が断れないと思ったから?」

彼は私を見つめた。

「まるで僕が怪物みたいな言い方をするなよ」

「質問に答えて」

「愛してるんだ」

「それは答えじゃない」

彼が一歩近づいた。

「分かった。妥協しよう。君はパートタイムで働けばいい。ヘザーだって、何日か別の人に頼めるかもしれない」

「あなたが私の世話を約束したから、ヘザーは保育園を解約したのよ」

「だったら、しばらくは僕たちが助けてあげればいい」

「僕たち?」

彼は苛立って両手を上げた。

「どうして僕の言葉を一つひとつ責めるんだ?」

私は涙がこみ上げてくるのを感じた。

彼が声を荒らげたからではない。

私は、これまで認めようとしなかった彼の一面に、ようやく気づき始めていたのだ。

誰かがドアをノックした。

「ナタリー?」

ペイジの声だった。

セスがドアに顔を向けた。

「あと1分だけ待ってくれ」

けれど、ペイジはその場を離れなかった。

「トーマス牧師が、式を始めていいか聞いているわ。みんな席に着いているの」

セスは私を見た。

「頼むよ。外には70人もいるんだ。僕の両親はこの結婚式のためにお金を貯めてきた。君のお母さんの親戚だって、3時間かけて来てくれたんだぞ」

私はそのすべてを知っていた。

私自身、席次表を作り、その週だけでケータリング業者に2度も連絡し、結婚式のプログラムまで自分で折って準備したのだから。

彼は声を和らげた。

「結婚しよう。明日、落ち着いてから保育のことを話し合えばいい」

私は自分のドレスを見下ろした。

8か月前に購入したものだった。一般的なウェディングドレスと比べれば控えめな価格だったが、それでも私が今まで買った服の中では一番高価だった。

試着したとき、母は涙を流した。

その日の朝、私はセスが私のウェディングドレス姿を見て、どんな顔をするのか想像していた。

私はまだ彼を愛していた。

だからこそ、決断するのは苦しかった。

私が欲しかったのは、彼が本当はそういう人間だと信じていた、あの頃のセスだった。

けれど、70人が待っているという理由だけで、彼と結婚することはできなかった。

再びドアがノックされた。

セスが声を低くした。

「みんなの前で僕に恥をかかせないでくれ」

私は顔を上げた。

その言葉で、ようやくすべてがはっきりした。

彼は謝罪しなかった。

私がどうしたいのか尋ねもしなかった。

ただ、自分の行動の結果から逃れるために、私に協力してほしかったのだ。

私はドアを開けた。

ペイジが安全ピンを3本持って立っていた。私の顔を見た途端、彼女の笑顔が消えた。

「ナタリー?」

「トーマス牧師を呼んできて」

私は言った。

「結婚式は中止にするって、伝えて」

第4章 — 迎えなかった結婚式

ペイジは、私の決断に理由を尋ねなかった。

彼女はセスを一瞥し、そっと私の手を握った。

「分かったわ」

セスは私たちの後を追って廊下に出てきた。

「待てよ。誰も中止になんてしない」

私は振り返った。

「私が中止にするの」

彼の表情が険しくなった。

「本気で言ってるのか?」

「本気よ」

「子どもの世話のことで?」

「違うわ」

「じゃあ、何なんだよ?」

私は彼の目を見た。

「私が断るかもしれないと分かっていたから、私に相談せず勝手に決めたのよ。そして、私がそれを覆せないようにしようとした」

彼が何か言おうとしたが、私は続けた。

「そんなことをして、結婚生活を始めたくないの」

ほどなくして、トーマス牧師がやって来た。

60代の優しい男性で、ここ1か月、私たちの誓いの言葉を準備するのを手伝ってくれていた。

彼は私たちの顔を見比べた。

「二人きりで、少し話し合う時間が必要ですか?」

「もう話し合いました」と私は答えた。

牧師はうなずいた。

「式を延期したいということですか?」

私はセスのほうを見た。

彼は、私がそのうち冷静になり、考え直すと信じているようだった。

「いいえ」

私は言った。

「結婚式を行わないことを、皆さんに伝えてほしいんです」

セスが小さく悪態をついた。

トーマス牧師がブライズルームへ移動することを提案し、その1分後、母がやって来た。

私を見た瞬間、母は足を止めた。

「どうしたの、あなた?」

私が信頼していた男性が、私の未来すべてについて、私に隠れて勝手に決めていた。

その事実を認めるのは苦しかった。

私は鏡の前に腰を下ろした。

「彼とは結婚できない」

母の目に涙が浮かんだ。

「何かあったの?」

私はうなずいた。

母は隣に座った。

「話してくれる?」

「今は無理」

母は私の手を握った。

「分かったわ」

それ以上、何も言わなかった。

結婚式にかかった費用のことも、待っている親戚のことも口にしなかった。

ただ、私の決断を受け入れてくれた。

その日の午後、初めて私は声を上げて泣いた。

セスがドアのところに現れた。

「婚約者と話をさせてもらえないか?」

母が立ち上がった。

「今は話したくないそうよ」

彼は母の向こうにいる私を見た。

「ナタリー、3年間を無駄にするつもりか?」

私は頬をぬぐった。

「無駄にしたのは、私じゃないわ」

彼は首を振った。

「君がこんなことをするなんて信じられない」

それでも、幸せだった頃の思い出がよみがえってきた。

セスは以前、父の家のポーチを修理するために2時間も車を走らせてくれた。私がインフルエンザにかかったときはスープを持ってきてくれたし、祖母が亡くなった夜には、ずっと手を握っていてくれた。

あの瞬間は、きっと本物だった。

だからこそ、今の彼の行動を受け入れるのが難しかった。

トーマス牧師が、私たちをそっとしておくようセスに頼んだ。

今度は、彼も従った。

数分後、礼拝堂の音楽が止まった。

ざわめきや椅子を動かす音が聞こえ、それからトーマス牧師がマイクを通して話す声がした。

彼は式が中止になったことを伝え、迷惑をかけたことを謝罪し、事情についてはそっとしておいてほしいと頼んだ。

理由は一切説明しなかった。

私はその配慮に感謝した。

ゲストたちが帰り始めた。

ペイジは私の隣に座り、母は披露宴会場の担当者に連絡を取った。

料理はすでに用意されていた。手配が間に合えば、食べ物の一部は持ち帰って寄付できるかもしれなかったが、ほとんどの予約金は返金されない。

花の代金はすでに支払ってあり、ケーキも披露宴会場に届いていた。

金銭面の後始末には、何週間もかかりそうだった。

スマートフォンには、次々とメッセージが届いた。

いとこは私が大丈夫かと尋ねてきた。叔母は何か緊急事態でも起きたのかと心配していた。セスの親戚の一人は、どんなカップルにも意見の違いはあるのだから、感情的になって重大な決断をするべきではないと主張した。

私はスマートフォンの電源を切った。

ペイジはベールを外すのを手伝ってくれた。髪を引っ張らずに外そうとしたが、頑固なピンを緩めるのに3回もかかった。

作業が終わるまで、私たちは黙っていた。

そして、ペイジがそっとささやいた。

「悲しんでいてもいいのよ。それでも、あなたの決断が正しいことに変わりはないんだから」

私は、さらに激しく泣いた。

およそ40分後、ペイジが車を教会の裏口まで回してくれた。

私は自分のアパートに帰ることにした。

セスと私は、まだ一緒に暮らしていなかった。結婚式が終わったら私の賃貸契約を終え、月末に彼のタウンハウスへ荷物を移す予定だった。

幸いにも、引っ越しを延期していたことが、今になって私を救ってくれた。

母は車で送ろうかと言ってくれたが、私は自分の慣れ親しんだ空間に戻りたかった。

ペイジが私のバッグを持って出口へ向かった。

ドアにたどり着く前に、廊下の向こうからヘザーが現れた。

彼女の目は赤くなっていた。

「ナタリー、少し話せる?」

ペイジが私を守るように一歩前へ出た。

ヘザーはそれに気づいた。

「言い争いをしに来たんじゃないの」

私は立ち止まった。

彼女の後ろでは、数人のゲストが披露宴のテーブルから飾りを片づけていた。外では子どもたちが遊んでいた。おそらくマディもその中にいるのだろう。

こんな状況になっても、私はヘザーの月曜日のことが心配だった。

「何の話?」と尋ねた。

ヘザーは後ろを振り返った。

「セスは、あなたが自分から子どもたちを助けたいと言っているって説明したの。本当にそう言ったのよ」

「彼がそう説明したことは信じるわ」

彼女は少しだけ安心したように見えた。

けれど私は続けた。

「でも、私に直接聞くべきだった」

「分かってる」

彼女は顔をこすった。

「もう一つ、話したいことがあるの」

私は待った。

「1年くらい前、セスのトラックに問題があったでしょう?」

私は眉をひそめた。

「知ってるわ。エンジンを交換しなきゃいけなかったのよね」

「その修理代をどうやって払ったか、彼から聞いた?」

「貯金を使ったって言ってたわ」

ヘザーは目を閉じた。

「ああ、もう……」

「どうしたの?」

彼女の表情に、不安が募った。

「セスからお金を借りていたって、聞いたことはある?」

「ないわ」

「6,400ドルよ」

私は彼女を見つめた。

「セスがあなたに6,400ドルを借りているの?」

彼女はうなずいた。

「それで3週間前、返済する方法を見つけたって言われたの」

胸の奥に、嫌な予感が広がった。

「どんな方法?」

ヘザーは私のウェディングドレスに目を向けた。

そして、小さな声で言った。

「ナタリー、座ったほうがいいと思う」

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第2部 — 本当の取り決め

第5章 — 彼が勝手につけた、私の時間の値段

私たちは、談話室につながる小さな部屋に移動した。

壁際には折りたたみ式のプラスチック椅子が積まれ、隅には子ども用の塗り絵テーブルが置かれていた。

ペイジも一緒に残った。

ヘザーはスマートフォンのロックを解除した。

「去年の春、セスにお金を貸したの」と彼女は言った。「トラックのエンジンを交換する必要があったけれど、修理代を払えなかったのよ」

私はその出来事を覚えていた。

セスは修理代の高さに腹を立て、トラックを修理に出している間、私の車を2回借りた。

貯金のほとんどをエンジンの交換に使ったと、彼は説明していた。

「6,400ドルを貸したの。ほかの請求を片づけたら、少しずつ返すって約束したわ」

「返してもらえたの?」

「一度だけ200ドルを返してくれた。それからは何もない」

ヘザーは視線を落とした。

「お金を返してほしかったの、ナタリー。保育料だけで給料の大半が消えてしまうんだもの。コリンも子どもたちの費用は分担してくれるけど、家賃も食費も、ほかの出費もあるから」

経済的に苦労することは、私にも理解できた。

けれど、なぜ私の生活まで、彼女の兄の借金に巻き込まれなければならないのかは理解できなかった。

「3週間前、セスがうちに来て、解決策があるって言ったの」とヘザーは続けた。

私は黙って聞いていた。

「結婚式のあと、あなたは家にいることに決めたって。歯科医院を辞めて、少し休みたいんだって」

口の中が乾いた。

「それで、1年間、あなたに子どもたちを預かってもらうって提案したの」

私は彼女を見つめた。

「その代わりに、あなたはセスの借金を帳消しにする」

私はゆっくりと言った。

ヘザーはうなずいた。

数秒間、私は何も答えられなかった。

セスは、妹に私の助けを申し出ただけではなかった。

私の労働を1年分差し出して、自分の借金を帳消しにしようとしていたのだ。

ヘザーはメッセージをスクロールした。

「これを見て」

彼女はスマートフォンを私に渡した。

セスが最初に送ったメッセージには、こう書かれていた。

「ナタリーは結婚したら歯科医院を辞めるつもりなんだ。子どもたちと一緒に過ごすのが好きだから、これならお互いに助かると思う」

ヘザーはこう返信していた。

「本当に、毎日3人とも預かってくれると思う? かなり大変よ」

セスの返事はこうだった。

「もう家にいる予定なんだ。話し合っていなかったら、こんなことは提案しないよ」

さらに下へスクロールすると、ヘザーがこう尋ねていた。

「来年の春までナタリーが子どもたちを見てくれるなら、トラックのお金はこれでチャラってこと?」

セスは答えていた。

「そうだよ。これでおあいこだ」

私はその返事を3回読み直した。

毎週50時間。

3人の子どもの世話をし、食事を作り、おむつを替え、昼寝をさせ、洗濯をし、学校への送迎までこなす。それを1年近く続けるのだ。

その間、収入も、老後の積み立ても、キャリアアップの機会も失う。

すべては、セスが妹に借りたお金を返さずに済ませるためだった。

私はスマートフォンを返した。

「私が歯科医院でいくら稼いでいるか、知っていた?」

ヘザーはためらった。

「正確には知らなかったわ」

「もうすぐ7年になることは?」

「知っていた」

「それなのに、どうして私が仕事を辞めても生活できると思ったの?」

彼女は唇を結んだ。

「セスは、二人でそのための準備をしてきたって言ったの」

「どんなお金で?」

彼女は黙り込んだ。

私は背もたれに寄りかかった。

「6,400ドル……」

私はつぶやいた。

ヘザーはつらそうな顔をした。

「どう聞こえるかは分かってる」

「本当に分かってる?」

彼女の目に涙が浮かんだ。

「そんな言い方はひどいわ、ナタリー。私は本当に、あなたが望んでいると思っていたのよ」

私は彼女に向き直った。

「誰かが、3人の子どもを無償で預かるためにフルタイムの仕事を辞めるなんて、どうして疑問に思わなかったの?」

彼女は何か言いかけて、口を閉じた。

その沈黙だけで、十分だった。

ヘザーは、できるだけ安く子どもたちを預けられる方法を必死に探していた。セスは、彼女にほとんど費用のかからない解決策を提示した。そして彼女は、それを受け入れた。

やがて、ヘザーが口を開いた。

「私が直接あなたに聞くべきだったわ」

「そうよ。そうするべきだった」

彼女は涙をぬぐった。

「セスが、こんなことで嘘をつくとは思わなかったの」

「私もよ」

初めて、私は彼女に対して怒り以外の感情を抱いた。

私たちは、二人ともセスを信じていた。

そして、二人ともだまされていた。

けれど、ヘザーにはまだ仕事がある。

もしセスの計画が成功していたら、私は自分の仕事を失っていたはずだった。

「一つ、分からないことがあるの」と私は言った。

「何?」

「私たちが会ったとき、どうして何も話さなかったの?」

ヘザーは眉をひそめた。

「話そうとしたわ」

「いつ?」

「先月のお母さんの誕生日ディナーよ。仕事のことを聞き始めたのを覚えている?」

あの夜のことを思い出した。

ヘザーは、私がまだ歯科医院の仕事を楽しんでいるかどうか尋ねてきた。

私が答える前に、セスが話に割り込んだ。結婚式の準備で私がストレスを抱えているから、仕事の話は負担になるのだと説明したのだ。

私は、彼が私を気遣ってくれているのだと思っていた。

「そのあと、セスに、あなたを不快にさせたと言われたの」とヘザーは言った。「あなたは仕事を辞めて家にいるという決断について、私にいろいろ聞かれるのが嫌なんだって」

胸が締めつけられた。

「そんなことを言ったの?」

彼女はうなずいた。

「あなたは、プレッシャーをかけられるのが嫌だから、私との話し合いは彼に任せたいんだって」

私は身動きもできずに座っていた。

すると、別の記憶がよみがえった。

同じディナーのあと、セスは、ヘザーが私のキャリアを優先しすぎていると考えていると言ったのだ。

彼の話では、結婚を控えた女性が昇進にそれほどこだわる理由が、ヘザーには理解できないらしかった。

その言葉に私は傷ついた。

それ以来、私はヘザーと自分のキャリアについて話すことを避けていた。

私は彼女を見つめた。

「あなた、私が仕事に集中しすぎているってセスに言ったことがある?」

ヘザーは首を振った。

「ないわ」

「私が仕事ばかりしているから、いい妻にはなれないって言ったことは?」

彼女の困惑が、やがて衝撃へと変わった。

「そんなこと、言うわけないでしょう」

私の胃がむかむかした。

ヘザーは私を見つめた。

「私のことについて、兄はあなたに何を話していたの?」

私はバッグの中にある、小さな箱に入った結婚指輪を見つめた。

指にはめることすらなかった指輪だった。

「たぶん……」

私はゆっくりと言った。

「いくつかのことを、照らし合わせる必要があるわね」

第6章 — 私たち二人に、それぞれ嘘をついていた

20分もしないうちに、ヘザーと私は、セスが何をしていたのかを理解した。

彼は何か月もの間、私たち二人に互いの印象を偽って伝えていたのだ。

ヘザーが私のキャリアについて尋ねると、彼は私がその話を避けていると言った。

私がヘザーがよそよそしい理由を尋ねると、彼は彼女が私の仕事を快く思っていないと言った。

ヘザーが育児について私に直接連絡しようとすると、彼は、直接話すと私は不快に感じると説明した。

私がヘザーともっと親しくなりたいと言うと、彼は、彼女は私のことを愛想がないと思っていると言った。

嘘をつくのに、それほど大した労力は必要なかったのだ。

彼はただ、私たちが自分の説明を信じることを利用していた。

私は、ある日曜日のことを思い出した。

ヘザーが病院の予約に行くため、私は自分からマディとベンを3時間預かった。

戻ってきたヘザーはお礼を言い、ランチをごちそうすると申し出た。

私は遠慮した。

そのあと、セスは、子どもたちが到着したときの私の不機嫌そうな顔について、ヘザーが不満を言っていたと話した。

私は何週間も、ヘザーに子どもの世話を嫌がっていると思われているのではないかと悩んでいた。

その話をすると、ヘザーは愕然とした。

「正反対よ。あなたがときどき助けてくれるおかげで、本当に助かっているってセスに言ったのよ」

私は額に手を当てた。

たった一度でも、私たちが正直に話し合っていれば、何か月もの誤解を防げたはずだった。

私たちは、セスが情報を管理していない状態で話したことが、ほとんどなかったのだ。

ヘザーはスマートフォンを見つめた。

「もっと早く、何かがおかしいって気づくべきだったわ」

「どういうこと?」

「先月の誕生日ディナーで、あなたがもう歯科医院に退職の意思を伝えたかどうか、私が聞いたのを覚えてる? あなたが答える前に、セスが割り込んできたの」

覚えていた。

「あなたを守ろうとしているんだと思った」と彼女は言った。「でも、今考えると……」

彼女は言葉を止めた。

私たちはしばらく黙って座っていた。

それから私は、教会の廊下で聞いて以来、ずっと頭から離れなかった質問をした。

「セスが『結婚したら、彼女も断れないだろ』と言ったとき、あなたはどう思ったの?」

ヘザーの顔が赤くなった。

「嫌な言い方だと思ったわ」

「でも、何も言わなかった」

「本当にあなたがそうしたいのか、聞いたのよ」

「それで、セスがそうだと言ったら?」

彼女は目をそらした。

「信じたかったの」

「保育園をもう解約していたから?」

「そうよ」

その答えは私を傷つけた。

それでも、少なくとも彼女は正直だった。

「セスが笑うのを聞いたの」とヘザーは言った。「ひどいことを言っているって分かっていた。だから、くだらない冗談を言っているだけなんだって、自分に言い聞かせたの」

彼女は唾を飲み込んだ。

「この取り決めがなくなるのが怖かったの。そんなことをしていい理由にはならないけど」

「そうね」と私は答えた。「ならないわ」

彼女は私に慰めを求めることもなく、うなずいた。

私のスマートフォンが光った。

セスからの着信だった。ブライズルームを出てから、これで4回目だった。

私は画面を見つめてから、電話に出た。

「もしもし」

「ナタリー、よかった。どこにいるんだ?」

「まだ教会よ」

「話せないか? 頼むよ」

「今、話しているでしょう」

彼はため息をついた。

「とにかく、こんなことになったのは悪かったと思ってる」

「こんなことになった?」

「言いたいことは分かるだろ」

「本当に?」

「僕なりに努力しているんだ」

私はヘザーを見た。

「妹に、私が1年間子どもたちを預かれば、自分の6,400ドルの借金を帳消しにできるって言ったの?」

沈黙が流れた。

そして、彼は言った。

「ヘザーがその話をしたのか?」

「ええ」

彼はまた黙った。

「君が思っているような話じゃないんだ」

「どんなふうに聞こえるというの?」

彼は声を落とした。

「一度に二つの問題を解決しようとしたんだ」

「自分の借金と、妹の保育園の問題ね」

「そうだよ」

「私の仕事を犠牲にして?」

「君が一生仕事を辞めなきゃいけないなんて言ってない」

「ヘザーには、私がもう辞めると決めたって言ったでしょう」

「ベネット先生と何とかできると思ったんだ」

「週50時間、別の人の子どもを預かると約束したあとで?」

彼は何も答えなかった。

やがて、再び口を開いた。

「僕がどれだけプレッシャーを感じていたか、君には分からないんだ」

私は目を閉じた。

「私はあなたが借金していることさえ知らなかった。トラックの修理代は貯金で払ったって言っていたでしょう」

「恥ずかしかったんだ」

「私に話せばよかったじゃない」

「それでどうなっていたと思う? 君は僕のお金の使い方について説教しただろう」

「少なくとも、どうやって返済するつもりなのかは聞いたでしょうね」

「ほら、そういうところだよ」

彼は、まるで私の言葉が自分の行動の正当性を証明したかのように、少し安心した声を出した。

私は目を開けた。

「あなたは、守れない約束をした。そして、自分のものではないものを使って、別の約束をしたのよ」

「自分のことを物みたいに言うなよ」

「だったら、私を物のように扱うのをやめて」

彼は黙り込んだ。

ヘザーは顔を覆い、私たちから目をそらした。

セスはもう一度、話を続けた。

「いいか、僕は焦っていたんだ。ヘザーはずっとお金を返せって言ってきた。もうすぐ結婚式なのに、この借金を抱えたまま結婚生活を始めたくなかった」

「だから、私に働いて返させることにしたのね」

彼は否定しなかった。

「結婚すれば、君も理解してくれると思ったんだ」

私は、先ほど彼の声を聞いた廊下のほうを見た。

「いいえ」と私は言った。「あなたは、結婚してしまえば、私には断る義務があると思ったのよ」

彼は疲れた声を出した。

「やり直せないかな?」

「どうやって?」

「いったん全部延期して、数週間、時間を置こう。それから、もっと小さな式を挙げればいい」

「ヘザーの子どもたちはどうするの?」

「何か決まるまで、僕たちが助けてあげればいい」

また「僕たち」だった。

結婚式が中止になったあとでさえ、彼は自分がした約束を私の責任として扱い続けていた。

「月曜日、私は子どもたちを預からない」と私は言った。

彼はためらった。

「月曜日だけでも?」

「預からない」

「ナタリー、頼むよ。あの子たちには行くところがないんだ」

「だったら、あなたとヘザーで何とかして」

彼の声が傷ついたような響きに変わった。

「子どもたちにまで、こんな仕打ちをするなんて信じられない」

一瞬、私は彼の言葉に心を揺さぶられた。

リュックを背負ったマディ、パンケーキをねだるベン、抱っこしてほしくて両手を伸ばすオーウェンの姿が浮かんだ。

あの子たちには何の罪もない。

セスは、私がどれほどあの子たちを大切に思っているか知っていた。そして、その気持ちを利用して私を追い詰めようとしていた。

私は黙って見守るヘザーに目を向けた。

「子どもたちに仕返しをしているわけじゃない。引き受けた覚えのない仕事を断っているだけよ」

セスはため息をついた。

「じゃあ、君は僕に何を求めているんだ?」

「最初から、真実を話してくれればよかったのよ」

私は電話を切った。

スマートフォンを手にしたまま、しばらく座っていた。

ようやくヘザーが口を開いた。

「ごめんなさい」

私はうなずいた。

「分かってる」

彼女は目を伏せた。

「でも、月曜日にどうすればいいのか、まだ分からないの」

声が震えていた。

「上司から、これ以上休むなら問題になるって言われているの。先月はベンが2回も病気になって、残っていた有給休暇をほとんど使ってしまったから」

私は彼女の不安を理解していた。

彼女には3人の子どもがいる。失うわけにはいかない仕事もある。そして、助けを約束しながら、自分にはその約束をする権利がないことを理解していなかった兄がいる。

私は、思わず申し出そうになった。

月曜日だけなら、私が子どもたちを預かってもいい。

ベネット先生に連絡して、1日休みを取れば済むことだ。

もしかしたら2日間くらい。

あるいは、ヘザーが別の預け先を見つけるまで、もう少し。

けれど、一時的な手助けが、どれほど簡単に義務へと変わってしまうか、私は理解していた。

そして、セスはまさにその可能性を当てにしていたのだ。

私は、月曜日に子どもたちを預かることに同意しかけた。

そのとき、私は気づいた。

折れることこそ、セスが最初から期待していたことなのだと。

⸻

第3部 — 私の選択

第7章 — 月曜日は、すぐそこまで来ていた

土曜日の夜、私はほとんど眠れなかった。

何度も目を覚まし、無意識にベッドの反対側へ手を伸ばしては、セスがそこにいないことを思い出した。

私たちは、まだ一緒に暮らしていなかった。

月末には、私の荷物を彼のタウンハウスへ移す予定だった。

すでに段ボール箱を4つ用意していた。

一つにはキッチン用品、もう一つには本、三つ目には冬服が入っていた。

四つ目には、結婚生活のために買ったものが入っていた。おそろいのタオル、新しいシーツ、そして「Mr.」「Mrs.」と書かれた2つのマグカップ。

日曜日の朝、それらの箱の横に立った私は、マグカップを叩き割ってしまいたいと思った。

けれど、代わりにコーヒーを淹れた。

それからキッチンテーブルに座り、コーヒーが冷めるまで泣き続けた。

午前9時ごろ、母から電話があった。

「何か食べた?」

「ほとんど何も」

「朝ごはんを持っていくわ」

「お母さん、そこまでしなくてもいいのに」

「分かってるわ」

20分後、母はベーグル、オレンジジュース、そして結婚式の領収書をまとめたファイルを持ってやって来た。

私たちは1時間かけて費用を確認した。

すでに全額を支払った業者もいれば、一部を返金してくれる業者もいた。

披露宴会場の担当者は、用意された料理の大部分を廃棄せず、必要なところへ配る手配をしてくれていた。

キャンセル料もあれば、返ってこない予約金もある。セスと残りの費用をどう分担するかについても、難しい話し合いが待っていた。

母は、お金の問題がどうでもいいかのような態度は取らなかった。

私がその損失を簡単に無視できないことを、よく理解していた。

それでも、費用がかかったのだから結婚を続けるべきだとは、一度も言わなかった。

やがて母は、何があったのか尋ねた。

私はすべてを話した。

育児の約束。

私のキャリア。

セスの借金。

そして、彼の嘘。

母は一度も口を挟まずに聞いてくれた。

話し終えると、母はしばらく黙っていた。

それから、こう言った。

「あなたが信じていたような人でいてくれたらよかったのにね」

私は、また泣きそうになった。

私も、そう願っていた。

母が帰ったあと、私はスマートフォンを確認した。

セスから6件のメッセージが届いていた。

最初の2件には謝罪が書かれていた。

3件目には、自分がどれほど経済的なプレッシャーを感じていたかが書かれていた。4件目には、ヘザーが何か月も返済を迫ってきたことへの不満が書かれていた。

5件目は、トーマス牧師も交えて話し合い、関係を修復しようという提案だった。

そして、午前10時43分に届いた6件目には、こう書かれていた。

「1週間か2週間だけ、ヘザーを助けてくれればいいんだ。そうすれば、みんな落ち着くと思う。そのあとで、僕たちのことを考えよう」

私はそのメッセージを見つめた。

今になっても、セスは私たちがやり直すための条件として、自分が引き起こした問題を私に解決させようとしていた。

私は返信を書き、消し、もう一度書き直した。

最後に、こう送った。

「私はヘザーの子どもたちを預かりません。今後は、荷物の受け渡しと結婚式の残りの費用についての連絡だけにしてください。今は距離を置きたいです」

彼はすぐに返信してきた。

「君がここまで冷たい人間だとは思わなかった」

私はスマートフォンを伏せた。

彼に伝えたいことは山ほどあった。

どれほど深く彼を愛していたか。

一緒に年を重ねていく未来を、どれほど真剣に思い描いていたか。

そして土曜日、教会に向かったとき、最も親しい友人と結婚するのだと信じていたこと。

私の気持ちのどこにも、冷たさなどなかった。

けれど、自分の感情を説明するたびに、それを利用して私の決断に異議を唱える相手に、もう疲れ果てていた。

正午ごろ、ヘザーから電話があった。

私は少しためらってから、電話に出た。

彼女の子どもたちのことが頭をよぎったからだ。

「もしもし」

「邪魔してごめんなさい」

「大丈夫よ」

「何とかしようとしていることを、伝えておきたかったの」

背景で子どもの声がした。

ヘザーはベンに少し待つように言った。

「昨夜、コリンに電話したの」と彼女は言った。「今週は予定がいっぱいだって。でも、何か変更できないか聞いているところよ」

「よかった」

「それから、上司にもメッセージを残したわ」

私は少し考えた。

「ヘザー、郡の保育相談窓口に問い合わせてみた? 認可された保育施設で空きがあるところを教えてくれるかもしれない」

「そんな窓口があるなんて知らなかった」

「情報を送るわ」

「ありがとう」

私は時計を見た。

彼女が仕事に出なければならない時間まで、あと24時間もなかった。

彼女が不安になるのも無理はなかった。

「コリンには、今の状況を説明したの?」と私は尋ねた。

「少しだけ」

「子どもたちのお父さんなんだから、解決策を考えるうえで彼も参加する必要があるわ」

ヘザーはため息をついた。

「分かってる。別居してから、スケジュールの調整がずっと大変なの」

二人の事情は複雑だった。

けれど、それは保育の問題を解決できないという意味ではない。

まして、私にその責任が移る理由にもならなかった。

短い沈黙のあと、ヘザーが再び口を開いた。

「ナタリー、ちゃんと謝りたいの」

「もう謝ってくれたでしょう」

「全部については、まだよ」

私は椅子に座り直した。

「聞くわ」

彼女は息を吸い込んだ。

「セスから、あなたが仕事を辞めて家にいるつもりだと聞いたとき、私はほっとしたの。ものすごく安心した。だから、本当は聞かなきゃいけないことを、聞かなかったの」

私は黙って聞いていた。

「大変な仕事だって分かっていたし、私がどれだけお金を節約できるかも分かっていた。それなのに、あなたが何を犠牲にするのか、考えようとしなかった」

彼女の声は、今にも泣き出しそうだった。

「あなたは本当にやりたいんだって、自分に言い聞かせたの。直接聞いて、断られるのが怖かったから。そのほうが楽だったのよ」

私は窓の外を見た。

近所の人が買い物袋を車から下ろしていた。

どこにでもある普通の日曜日。

それなのに、私の人生はすっかり変わってしまったように感じられた。

「私は、あなたの子どもたちが本当に好きよ」と私は言った。

「分かってる」

「でも、好きだからといって、私が育てると約束したことにはならないわ」

ヘザーはしばらく黙っていた。

「あなたの言うとおりよ」

私は、反論が続くのではないかと思っていた。

けれど、彼女は何も言い返さなかった。

代わりに、こう続けた。

「私は、自分の子どもたちをどう育てていくか、自分で考えなきゃいけない。それは私の責任であって、あなたの責任じゃないわ」

初めて、私たちは本当の意味で率直に話していた。

セスがどちらかの情報を操作することなく、互いの考えを伝え合っていた。

電話を切ったあと、私はヘザーに保育に関する情報を送った。

それから寝室に戻った。

ウェディングドレスは、まだクローゼットのドアに掛かったままだった。

片づける気力がなかったのだ。

私はレースの袖を指先でなぞった。

母と一緒にブライダルショップへ行った日のことを思い出した。

母は私をきれいだと言ってくれた。私は鏡に映る自分を見つめながら、セスとの未来を想像していた。

夫。

家。

いつか、自分たちの子どもを持つ未来。

私はベッドに腰を下ろし、泣いた。

別れたことを後悔していたからではない。

その未来を、あまりにも強く望んでいたからだった。

午後4時ごろ、ヘザーから再びメッセージが届いた。

「コリンがシフトを2日分、入れ替えてくれたの。火曜日と水曜日は子どもたちを見てくれるって。私は火曜日の午後、保育園の園長先生と空き状況について話す予定。まだ確定じゃないけど、木曜日と金曜日以外は何とかなりそう」

私はそれを2回読んだ。

彼女の問題が、魔法のように消えたわけではなかった。

その週の残りの日については、まだ預け先を見つける必要があった。

無給休暇を取らなければならないかもしれない。あるいは、無理をしてでも、もっと高い保育料を払わなければならないかもしれなかった。

それでも、彼女は自分で解決策を探し始めていた。

そして月曜日、子どもたちは私が仕事を犠牲にしなくても、ちゃんと世話をしてもらえることになった。

私は返信した。

「最初の数日間の予定が決まってよかったわ。うまくいく方法が見つかるといいね」

ヘザーから返事が来た。

「ありがとう。それと、ナタリー。結婚式のこと、本当にごめんなさい」

私は彼女の言葉をしばらく見つめてから、返信した。

「私もよ」

その夜、私は仕事に着ていく服を準備した。

紺色のパンツ、淡いブルーのブラウス、そして履き慣れた靴。

目覚ましを午前6時30分に設定した。

いつもと変わらない、簡単な日課だった。

けれど、セスがどれほど私の決断を支配しようとしていたのかを知ったあとでは、月曜日の朝をどう過ごすか自分で決められることが、特別な意味を持っていた。

第8章 — 最初の月曜日

月曜日の午前7時45分、私は歯科医院の駐車場に車を止めた。

ハンドルを握ったまま、しばらく動けなかった。

この駐車場を利用するようになって、もうすぐ7年になる。

レンガ造りの建物も、通りに面した窓も、いつもと何も変わらなかった。

ここでは、何も変わっていない。

けれど、私の私生活は、まるで別人の人生のように感じられた。

スマートフォンが振動した。

ペイジからのメッセージだった。

「大丈夫?」

私は返信した。

「仕事に来たよ」

すぐに返事が届いた。

「よく頑張ったね。今夜、電話して」

私はその朝、初めて少し笑うことができた。

スマートフォンをしまい、建物に入った。

ベネット先生は、すでに出勤していた。

私を見ると、静かにオフィスのドアを閉めた。

「ナタリー、結婚式がなくなったと聞いたわ」

私はうなずいた。

「つらかったでしょうね」と彼女は言った。

「ありがとうございます」

「数日、お休みが必要?」

私は申し出を考えた。

家に帰ってカーテンを閉め、心の痛みが和らぐまでベッドに横になっていたい気持ちもあった。

けれど、もう一方では、慣れ親しんだ環境に戻り、自分の役割を果たすことに安心感を覚えていた。

「できれば、働きたいです」と私は言った。「大丈夫でしょうか?」

「もちろんよ」

彼女は少しためらった。

「昇進についての話し合いは、延期してもいいわ」

私は彼女の机の上に置かれたファイルに目を向けた。

何年も目指してきた機会だった。

患者管理システムを使いこなすために残業し、保険請求に関する講座を受講し、3人の職員を指導し、医院の拡大に合わせて予約管理の仕組みを見直すのも手伝ってきた。

この機会は、誰かが簡単に与えてくれたものではなかった。

自分の努力で勝ち取ってきたものだった。

「実は……」と私は言った。「今、話し合いたいです」

ベネット先生は微笑んだ。

「分かったわ」

私たちは、新しい役職で担当する業務について話し合った。

スタッフのシフト管理、取引業者との契約、保険関連の法令遵守、職員の研修。

給与の増額や、今後1年間で受けられる管理職向けの研修についても話し合った。

そして、彼女は私に尋ねた。

「それでも、この仕事を引き受けたいと思っている?」

教会でセスが自信満々に言い放った言葉がよみがえった。

「彼女は歯科医院を辞めるよ」

まるで、私のキャリアなど、私に相談することなく二人の未来から取り除けるものだとでもいうように。

私はベネット先生を見た。

「はい」

私は答えた。

「ぜひ、引き受けたいです」

彼女は手を差し出した。

「それなら、おめでとう。ナタリー」

私は泣かずにお礼を言った。

けれど、数分後、一人で職員用のトイレに入ると、洗面台の前に立って、自分でもおかしくなって笑いながら、涙をぬぐった。

結婚式はなくなった。

3年間、思い描いてきた未来も失った。

それでも、すべてを失ったわけではなかった。

セスが、私の時間は自分のものだと信じていたからといって、私が努力して手に入れたものまで手放すつもりはなかった。

午前中はあっという間に過ぎた。

クリーニングの予約に遅れてきた患者がいた。

保険請求ソフトが、正当な請求を誤って拒否した。

歯科衛生士の一人が、午後の予約調整について助けを求めてきた。

いつもと変わらない、職場で起こる問題だった。

私には、どう対応すればいいのか分かっていた。

正午ごろ、私はスマートフォンを確認した。

ヘザーからメッセージが届いていた。

「明日と水曜日はコリンが子どもたちを見てくれることになったわ。明日の午後、保育園の園長先生と面談して、空きがあるか相談する予定。まだ確実じゃないけど、少なくとも数日は何とかなりそう」

そのあと、もう一つメッセージが届いた。

「それから、トラックの借金は今でもセス自身の責任だって伝えたわ」

私は画面を見つめた。

ヘザーは続けた。

「彼は、もう私たちの間で取り決めができていたんだから不公平だって言った。でも、あなたはそんな取り決めに一度も同意していないんだから、あなたの代わりに決める権利なんて彼にはなかったって言ったの」

セスがすぐに借金を返すとは思えなかった。

ヘザーは正式な返済契約を結ぶ必要があるかもしれないし、お金を取り戻すために、さらに別の手段を取らなければならないかもしれない。

けれど、それは二人が解決するべき問題だった。

初めて、その解決策に私の無償労働は含まれていなかった。

ヘザーから、最後のメッセージが届いた。

「あなたはいつも、私の子どもたちに優しくしてくれたわ。だからといって、私たちに何かを返す義務があるかのように感じさせてしまって、ごめんなさい」

私はその言葉を丁寧に読み、返信した。

「私はあの子たちが大好きよ。それが問題だったことは一度もないわ」

ヘザーは答えた。

「今は分かってる」

私はスマートフォンをしまった。

まだ、実務的に解決しなければならない問題はたくさんあった。

セスと私は結婚式の費用を分担し、贈り物を返し、私物を交換し、難しい話し合いをしなければならない。

セスの親戚の中には、私が式を中止した理由を、最後まで理解できない人もいるだろう。

大げさに反応したと非難したり、もう一度チャンスを与えるべきだったと言ったりする人もいるかもしれない。

また、結婚生活には妥協が必要だと主張する人もいるだろう。

私も、妥協が大切だということには異論はなかった。

けれど、本当の妥協とは、二人が一緒に決めることだ。

嘘から始まるものではない。

そして、誰かの妻になったという理由だけで、自分のキャリアや時間、そして自分の未来を決める権利まで手放すことを求めるものでもない。

仕事が終わると、私は車で家に帰った。

アパートは静かだった。

玄関のそばに子どもたちのリュックが置かれていることもない。カウンターにおむつバッグがあることもない。私を呼ぶ小さな声も聞こえなかった。

もし、セスの計画が成功していたら、今朝はどんな一日になっていたのだろうと想像した。

マディはクレヨンを欲しがっただろう。

ベンはパンケーキをねだっただろう。

オーウェンは、抱っこしてほしくて両手を伸ばしただろう。

そして私は、きっと愛情を込めてあの子たちの世話をしていたはずだ。

朝食を用意し、顔を拭いてあげて、一日を過ごせるように支えていたはずだ。

それが、私という人間だった。

セスはそれを知っていた。

だからこそ、それを利用したのだ。

私は、彼をいつか許せるのかどうかさえ分からなかった。

靴を脱ぎ、郵便物を集めた。

患者からのお礼のカードと、電気代の請求書が届いていた。

どこにでもある、日常のものだった。

私はそれらを鍵の横に置いた。

そのとき、キッチンカウンターの端に、小さな白い箱が置かれていることに気づいた。

結婚指輪だった。

土曜日、教会に持っていったものだ。式の前にペイジに預けようと思って、バッグに入れていた。

結局、一度も指にはめることはなかった。

私は箱を開けた。

シンプルな金の指輪が、午後の日差しを反射していた。

何週間も、これを身につけたらどんな気持ちになるのだろうと考えていた。

今では、セスが結婚によって何を要求する権利を得たと思っていたのか、それに気づくまで、私はどれくらいの間、この指輪を身につけていたのだろうと考えていた。

スマートフォンが鳴った。

セスからだった。

私は彼の名前を見つめた。

電話に出たい気持ちもあった。

彼がどれほど多くのものを壊したのか理解し、私が去った理由をようやく分かったと示してくれるような言葉を、私はまだ聞きたかった。

けれど、彼の最後の頼みが頭に浮かんだ。

「1週間か2週間だけ、ヘザーを助けてくれればいいんだ……」

彼の謝罪にさえ、私への要求が含まれていた。

私は電話を留守番電話に回した。

そして、指輪の箱を閉じた。

明日、ペイジと指輪を返す方法について相談し、セスが私のアパートに置いていったわずかな荷物を引き取りに来るよう、手配するつもりだった。

費用の問題も解決する。

質問には、自分の気持ちが整ったときに答えればいい。

いつか、結婚式の日を思い出しても、泣かずにいられるようになりたい。

けれど、自分の未来について発言する権利があるのだと、誰かに理解させるために人生を費やすつもりはなかった。

その夜、私は自分のために夕食を用意した。

キッチンテーブルに座り、食事をしながら、ベネット先生から渡された研修資料に目を通した。

新しい役職は、決して簡単なものではないだろう。

忙しい日もあれば、不満を抱えた患者もいる。対応の難しい同僚もいるし、自分の間違いから学ばなければならないこともある。

それでも、それらは私が自分で選んだ責任だった。

寝る前に、私はカレンダーを開いた。

月曜日の予定には、まだこう書かれていた。

「結婚生活、最初の日」

私はその予定を削除した。

そして、翌週の予定を新しく登録した。

「事務長研修 — 午前9時」

私はスマートフォンを置いた。

土曜日以来、初めて、これから先の未来に少しだけ希望を感じることができた。

セスは、ただ私に同意を求めるのを忘れたわけではなかった。

私が断る機会を得る前に、結婚してしまえばいいと、意図的に考えていたのだ。

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